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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第三章 城代編(足軽大将格)

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第三十九話 敵を欺くにはまず味方から

秀政は織田本隊と合流できた。


対する伊勢衆はこの状態では、

戦わずして退却することはできない。


なぜなら、小集団のゲリラ戦とは異なり、

この状況では逃げ遅れたものが、

背後から蹂躙され、大打撃を受けることになる。


即ち誰かが退却すると、そこから伊勢衆全体が

瓦解するため、お互いが牽制しあい、

逃げるに逃げられない。

もはや腹を括るしかない状態だ。


ここの地の利は、川の流れを熟知する

伊勢衆にある。


地の利を含めれば、勢力は五分五分、

このまま結集して、

勝利を掴むことも不可能ではない。


即ち、明朝決戦だ



既に夜更けであったが、

秀政は軍議に呼ばれた。


再び滝川を中心に、

諸将がかがり火の明かりを頼りに、

地図上の布陣図を睨みつけている。


滝川左近が最初に口を開いた。


「芋粥殿、お見事です。

 我らは狙い通り、敵を集わすことに、

 成功した。

 野戦で殲滅することができる」


佐久間久六が続けた。


「では、次の策を提案致します」


「聞こう」


「はい。

 明朝を待って、

 正面から当たる策もありますが

 それでは地の利に劣る我らは

 余分な損害を受けるでしょう。

 そこで一策打ちます」


秀政が警戒した顔で佐久間を見つめた。


「芋粥殿は、引き続き、

 今の前線に留まり、

 夜明けまで、

 敵を引きつけていただく」


(それ、きた……、

 前線……すなわち三方に囲まれた状態で

 夜明けまでとは……。

 これだと朝すぐに三方から攻め包まれて

 大激戦になる)


秀政の不安を無視して佐久間は涼しい顔で続ける。


「滝川殿とそれがしが

 今夜、丑三つ時 (深夜二時)に出立し、

 夜闇に隠れて、左右に進み、

 滝川殿は朝明川の”丙地点”から、

 それがしは”甲地点”から

 夜の内に渡河します」


佐久間は一拍、間をおいて皆の反応を確かめた後

続きを述べる。


「さすれば、明朝、

 敵が芋粥殿に攻めかかる直前に、

 左右から挟み込めます。


 芋粥殿を三方から囲んでいたつもりの

 奴らは自らが三方から囲まれていることに

 気付くのです」


言い切ってから、再び諸将の反応を見る。


「異議なし」


滝川一益が答えた。


(これも正論だ。

 敵は烏合の衆ゆえに夜襲などの

 高度な行動はとれない。

 だが、こちらは違う。

 この策の通り行くならば、

 最も効率の良い挟撃作戦だ。


 この通り行けばな……)


反論が思い浮かばないため、

秀政は仕方なく応じた。


「……異議なし」


丹羽長秀は兵站奉行として後方を守る。

また、今回の出陣の軍目付を兼ねているため、

意見はほとんど出さない。


この策は受け入れられた。


その後、準備のために各々解散となった。


陣に戻った秀政は清隆に佐久間の策を共有し、

取るべき対策を検討していた。


議論を重ねても、良い案は思いつかない。


子の刻、夜半にその議論の場へ、

ふらりと滝川が訪れた。


清隆は一歩下がり、ひざまずいた。


「芋粥殿、軍議中であったか」


「おぉ、滝川殿。

 いえいえ。

 良い案が出ず、

 もはや、軍議とは言えませぬ」


「そうか。

 今回の戦は芋粥殿次第で大きく動く」


「……。

 誰かに代わってもらいたいですな」


滝川一益が少しだけ頬が緩む。


「変わった御仁だ、芋粥殿は」


「そうですかね。

 ところで、滝川殿、

 ありがとうございます」


「ん?」


「本隊をお見掛けした時の

 心強さは格別でした」


「待たせてすまなんだな」


「いえいえ。ところで、

 ようやく、このように滝川殿と

 お話させていただく機会がもてました」


(ゲームではお世話になっております)


「こちらこそ。

 那古野城城代殿がどんなお方かは、

 気になっておりました」


「くぅ……お近づきの印でもと思いましたが……

 陣場ゆえに良きものが……


 いや、これか」


脇差を取り出して、滝川の胸元に差し出す。


「これは未使用の新品でござる。

 是非、滝川殿に使っていただければ!」


「いやいや、戦場で脇差がなければ、

 困りましょう?」


目を輝かせながら、脇差を差し出す秀政を見て、

滝川は鼻で笑い、それを受け取った。


「全く……面白い御仁だ」


鞘から抜いて刀身を見る。


「こ、これは……。

 直刃に小互の目が混じる落ち着いた刃文……

 兼定ですか。

 かなりの上作ですね。本当に頂いても?」


「えぇ、今後とも誼を結んでいただければ」


「ありがたく頂戴いたす。

 代わりにこれを使ってくだされ。

 三貫ほどのなまくらですが、

 ないよりはましでしょう」


代わりに滝川の脇差を受け取った。

飾り気のない地味な外見だが、

よく使いこまれ、手に馴染む。


「おぉ、これは良い。

 俺にはこういう落ち着いた物が良いな」


それを聞いて、滝川が不思議そうに、

秀政の全身を上から下まで舐めるように確認する。


「あ、いや。こ、これは妻の好みであって……」


「ふっ……。

 不思議な方だな。


 そうそう、芋粥殿。

 一つ言い忘れていたことがあった」


「何でございましょう?」


「少し策を変更した」


「変更?」


「出立は寅一つ時 (午前三時)に変更じゃ。

 佐久間殿は”甲地点”ではなく、

 ”丁地点”から渡る。

 わしも渡河地点を変える」


(ん?待て?どういうことだ。

 その時間、そしてさらに遠い地点から、

 渡河するとなると、明朝には間に合わぬ。

 こちらの戦闘が激しくなってから、

 襲い掛かる気か?

 それでは一歩間違えばこちらは全滅だ)


「なにゆえ、変更を?

 しかも俺に告げずに」


「佐久間殿の案だ。

 『敵を欺くには、まず味方から。

  その方が、敵が深く策に嵌る』

 だそうだ。」


「……。では、なぜ滝川殿はそれを俺に?」


「さぁな。

 それはご自身で考えなされ」


(どういう意味だ?)


「長々と話をした。

 邪魔したな。

 とても有意義だった。

 また勝利した後に語り合おう」


そこまで言うと滝川一益は立ち去った。


それを見送ったあと、清隆が小声で確認する。


「あれはどういう意味でしょう。

 何か裏がありそうですが」


しばらく考え込んでいる秀政だったが、

閃いたかのような顔をした。


「そうか……滝川殿も曲者よ。

 清隆。

 霧隼を呼べ」


「は!」


「村瀬、今より密談する。

 四方に気を張れ。

 間者らしきものが居たら、迷わず斬れ」


「承知」


秀政は人を遠ざけた上で、

清隆と霧隼だけを呼んで、地図の前に座った。


「お前達も座れ」


「「は」」


「今から言うことは誰にも言うなよ。

 滝川殿が何を言いたかったか、わかるか?」


「分かりませぬ」


「滝川殿は時刻の変更まで、教えてくれた。

 そして佐久間の渡河地点もだ。

 だが、自らの渡河地点は言っていない」


「それが何か?」


「『敵を欺くには、まず味方から』とは

 よう言うたものよ。

 ただの裏切りではないか。

 よって、俺もまず味方を欺く」


清隆は驚きを隠さない。


「と、申されますと?」


「霧隼、敵の斥候に化けて、

 情報を敵本隊と左翼隊に漏らせ」


「え?!」


「佐久間の渡河地点はここだ。


 この図でいう”丁地点”だ。

 ここの周りは伏兵を忍ばせやすい。

 防衛に適した地点だ。


 夜陰に乗じて渡河する部隊を襲撃するには、

 最適よ」


「よろしいので?」


「あぁ、構わん。

 佐久間も歴戦の猛将。

 簡単には討ち取られない。

 上手く逃げ出すさ。


 我らを囲む三軍の内、

 一軍を一時抱えてくれればよい。


 そうなれば、目前の敵を倒した後で、

 俺と滝川殿が救援に向かい、

 敵を殲滅する」


霧隼が頷いた。


「承知しました」


「霧隼、もう一つ注文がある。

 丑三つ時に織田が夜襲を仕掛けてくる

 という偽の策も伝えろ。

 目の前にいる俺達三千が、

 今夜のうちに仕掛けてくると。」


清隆が不思議そうに聞き返した。


「その意図は?」


「敵の全軍が佐久間の方に行ったら、

 さすがに佐久間は壊滅する。

 これでは織田が勝てなくなる」


「なるほど。

 敵を二分割させるには、

 ちょうど良い状況を作り出すのですな」


「そうだ。

 だが、実際には夜襲は行わない。

 滝川殿と連携せねば、我らだけでは

 死にに行くようなものだからな。

 ただ敵半分を足止めさせるのだ」


「ほぉ……これは面白い」


「霧隼、ついでじゃ。

 佐久間の軍が総大将と

 偽りの情報を流せ。


 そして正面にいる俺のことを

 影武者の百姓足軽と伝えろ。


 総大将のふりをして、

 派手な鎧を着こんだ百姓が、

 敵を引きつけようと偽っている。


 だが、本当の総大将は

 ”丁の渡河地点”に居る

 ……とな。


 前方の隊の将は、

 兵に紛れて、指揮を執っている。


 これも追加だ」


清隆が頷きながら、補足した。


「総大将を討ちたいがゆえに、

 佐久間の方に二千程の兵が向かうでしょう。

 そうなると残るは千五百。

 正面と左翼が七百五十ずつ。

 これならば各個撃破を狙えば

 われらの五百でも戦いうる。


 そして、殿は狙われにくくなり、

 落ち着いて指揮を執れる。


 佐久間も自業自得ですな」


「そうだ。清隆、察しが良いな。

 これで我らは死地を脱する。

 佐久間という味方を使ってな


 朝になれば滝川殿も駆け付ける。

 それで千五百は片付けられる。


 そうしたら佐久間の救援だ」


霧隼が自信をにじませながら口を開いた。


「お任せください。

 殿の立てたその策を、

 必ず実現させて見せます」


「頼んだぞ。

 清隆。こちらも準備だ。

 これでもまだ、敵が圧倒的に有利だ。

 上手く兵を動かさなければならん」


「正念場ですな」


「ああ。正念場だ」


遂に秀政にとって最悪に難しい初陣が始まろうとしていた。


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セリフの文体が良くなりましたね。 以前より読みやすくなりました。
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