↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第十五章 織田家宿老編(本願寺決着編)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

267/348

第二百六十三話 新たな盤面

第十五章 織田家宿老編(本願寺決着編) 開幕

挿絵(By みてみん)

長宗我部軍を四国へ追い返したのち、秀政は諸将を率いて岸和田城へ帰還した。

軍議の間に集まった武将たちは、戦の疲れを残しながらも、すでに次の戦について秀政が何を命じるのかを待っていた。


上段には秀政が座し、その脇には城主・松浦肥後守、軍師・政親が控える。

広間には長政、鷺山らを含む諸将が居並び、秀政の言葉を待っていた。


秀政は脇息に腕を置くと、ゆっくりと口を開いた。


「皆、大儀であった。

 此度の最大の狙い――長宗我部元親の牙は折れた。

 もはや時間さえかければ四国は獲れる」


諸将は静かに頷いた。

しかし秀政は続けた。


「だが、俺には別の腹案がある。

 俺はこれ以上、西には興味がない。

 織田の西は秀吉と――」


秀政の声は淡々としていたが、その言葉の重さに、誰もが黙って耳を傾ける。

秀政は軍議の間を見渡し、はっきりと言った。


「元親に任せれば良いと考えている」


広間がざわめいた。

その代表として長政が一歩進み出る。


「義父上、それはいかなる意味でしょうか?

 我らは長宗我部元親を討つために戦っております。

 その元親に西を任せるとは……?」


秀政は頷き、簡潔に答えた。


「一言でいうと四国を――元親を丸々調略する。

 奴を織田に従属させ、織田の忠犬に変えるのだ」


長政は息を呑んだ。


「従属……?」


秀政は続けた。


「ここまで上手くいくとは俺も思わなかったが、皆の働きのお陰で元親は本州の……

 いや、俺や織田の力を嫌というほど知っただろう。


 おそらく奴の望みは四国の安堵だ。

 だったら四国を安堵させて、毛利や九州へ向ける牙として使う方が良い」


長政は深く頷いた。


「では、これ以上攻めないと?」


秀政は首を振った。


「いや、攻める。

 殿から四国攻めを命じられている以上、攻めねば怠慢を責められる。

 攻めながら追い詰める。

 そして元親が音を上げたところで――調略する」


長政は感嘆の息を漏らした。


「なるほど……」


そこへ鷺山が問う。


「元親が四国を残せるかどうかは、奴の開き直り次第というわけですか。

 もし降らなければ、四国は攻め落とすのですか?」


秀政は静かに頷いた。


「意地を張られたらそうなる。

 そうなって欲しくはないがな。


 四国を攻め取ってしまえば、殿から四国全土を加増され、伊勢からの国替えを命じられる恐れもある。

 そういう意味では、四国を保ったまま頼もしい忠犬になってもらった方が良い。


 奴は図々しい男だ。そのあたりの計算は出来よう」


明がぽつりと呟いた。


「父様は伊勢が大好きなのですね。

 私もですけど……」


秀政は少し笑った。


「まぁ、そうだな。

 俺が最初に得た地でもあり、大名としての芋粥が起こった地でもある。

 そして俺が持てる力を注ぎ込んで作り上げたのが鈴鹿だ。

 簡単に手放せるものか!」


諸将の間が少しだけ和らいだ。

頃合いを見て、政親は地図を広げながら口を開いた。


「さて、では長宗我部を攻める算段ですが……

 奴は洲本城を芋粥に提供しました。

 空き巣に入られる前に、受け取りに行かねばなりませんな」


秀政は軽く頷いた。


「そうだな。折角もらったのだから、ありがたく受け取ろう。

 その前に、我らも農兵は帰すぞ。

 田んぼが待っているのはこちらも同じだからな。


 これからは常備兵の鬼兵六千で戦う」


鷺山が一歩進み出る。


「では俺が早々に洲本を取って参ります」


しかし秀政は手を上げて制した。


「待て。俺には俺の考えがある。


 ――関盛信殿。貴殿に洲本を任せたい」


名を呼ばれた盛信は、背筋を伸ばし深く頭を下げた。


「はっ!」


秀政は続けた。


「関殿も農繁期ゆえ、戻る必要があろう。

 御領地は一政殿に任せ、盛信殿にはこの地に留まってもらう」


盛信は力強く答えた。


「はい、いかようにもお使いくだされ!」


秀政は満足そうに盛信を見据えた。


「洲本城代を任せる。悪いが鬼兵は貸せぬ。

 岸和田でこれから新たに取り立てる常備兵五百をもって治めよ。


 貴殿は歴戦の将だ。

 敵地であっても新兵を鍛えながら、上手く治められような?」


盛信は胸を張り、力を込めて答えた。


「はっ!

 洲本城のような要衝の城代をお任せ頂けるとは光栄の極み。

 命に代えてもお守りいたす!」


その言葉に諸将の視線が盛信へ集まった。

洲本城は淡路の要衝であり、四国攻めの拠点となる城。

その城代を任されるということは、秀政からの絶大な信任の証だった。


秀政は広間を見渡し、次の指示を告げた。


「長政の赤鬼、鷺山の青鬼は淡路には渡らぬ。

 別口から四国へ攻め入る」


鷺山が眉を寄せた。


「折角得た拠点を活かさず、別口から攻めるのですか?」


秀政は静かに笑った。


「そうだ。これからは農繁期で長宗我部も動きが鈍い。

 その上、雷神の影響で臆病風も吹いておろう。


 ならば、安全な洲本経由でなくとも、四国の一端は奪い取れる。


 洲本は奴の書いた筋書きだ。

 その通り動いては先を取られる。

 我らとて裏をかかねばなるまい」


長政が腕を組み、深く頷いた。


「なるほど……。

 やけにあっさりと洲本を手放したかと思っておりましたが、元親の筋書きだったと?」


秀政は首を横に振った。


「いや、そうは言ったが、必ずしも筋書きであるという確信はない。

 だが奴とはこれまで何度もやり合ってきて、一筋縄ではいかんのはよくわかった。

 警戒した方が良い」


鷺山が前へ出る。


「なるほど……。

 しかし若とご一緒なら、どこでも攻め落とせそうです。

 狙いはいずこに?」


秀政は扇子を掲げ、はっきりと言った。


「九鬼水軍を使って淡路を通らず、海から行くぞ。

 狙いは――小松島だ!」


広間がざわめいた。

秀政は続ける。


「勝浦湊から上陸し、小松島を平定せよ。

 そこに海城を築く」


松浦肥後守が感嘆の声を漏らした。


「おぉ……良き所に目を付けられましたな、さすが伊勢守様。


 小松島は海に面した平地であり、湾が深く、船が入りやすうございます。

 つまり海からの補給が容易で、兵站を確保できます。

 さらに周囲には丘陵があって防衛線を張りやすい。


 まさに要所。


 ここを取れば阿波東部への海路を押さえられ、洲本との挟撃が出来る位置です。


 長宗我部は北を守るか、東を守るか――

 守りを分散せねばなりませぬ」


秀政は満足げに笑った。


「そうよ、そこよ」


秀政の笑いが収まると、長政が力強く前へ進み出た。


「義父上っ!この長政にお任せください!

 必ずや果たして見せます!」


その声は広間に響き、諸将の士気をさらに押し上げた。

秀政は満足げに頷き、次の指示を告げる。


「うむ。

 松之丞、蘭。

 ついでじゃ、もう一つ仕事を頼む。

 商いの訓練と思ってやってくれ。


 小松島海城をなるべく早く築きたい。

 材料の調達を任せる。

 長政と協力して、やり遂げてみせよ!」


松之丞は即座に膝をつき、力強く答えた。


「はい!お任せください。

 千種屋堺支店の支配人とは、すぐに話を通しておきます」


長政は頼もしげに笑った。


「心強い。松之丞、蘭。

 頼りにしているぞ」


蘭は胸に手を当て、少し頬を紅潮させながら答えた。


「万兄にそうやって言っていただけると……

 私も俄然やる気が出てきますっ!」


長政と蘭のやり取りに、広間から小さな笑いが漏れたが、秀政はすぐに軍議の本筋へ戻した。


「うむ。

 俺は殿に此度のご報告をしてまいる。


 一時とはいえ畿内を乱したこと、長宗我部を取り逃がしたこと――

 これらは責められる恐れがある。


 だが殿は結果を重視なさる。

 “長宗我部を四国の番犬として飼いならす”と申し上げればご理解いただけるはずだ」


政親が頷き、補足した。


「そうですね。長宗我部のやり口は大殿様も把握されているはず。

 その者を織田の尖兵として使えるとあらば、必ずご興味を示されると思います」


秀政は政親を横目で見て、少しだけ眉を上げた。


「政親、簡単に言うが……それなりに怖いことなのだぞ?」


政親は肩をすくめ、軽く笑った。


「大丈夫ですよ。

 義兄上は元親と同じくらい図々しいお方ですから」


秀政は扇を政親にむけて軽く放った。


「ぬかせ!

 政親、黒鬼はいつでも動けるようにしておけ。


 四国は長政、鷺山に任せる。

 俺とお前は――背後の懸念を潰すぞ」


政親は一瞬だけ息を呑んだ。


「背後……?」


秀政は静かに、しかし確固たる声で告げた。


「俺とお前は、明智殿や佐久間殿と共に、先に本願寺を潰す。

 後ろに不安を残したままでは、四国で戦えないからな。


 殿にはその許しも貰ってくる」


政親は驚きに目を見開いた。


「は、はい……。

 本願寺攻めに介入するのですか……?

 それは予想外でした」


秀政は、はっきりと言い切った。


「本願寺は――今年中に確実に降らせるぞ!」


諸将は互いに顔を見合わせた。

四国だけでも大戦である。そこへ本願寺攻めまで同時に進めると、秀政は今ここで宣言したのである。


四国は長政と鷺山。

本願寺は秀政と政親。

芋粥軍は二つに分かれ、それぞれ別の戦場へ向かうことになった。


新たな盤面が幕を開けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
長宗我部に接近するのが本能寺フラグにならないかドキドキする
得生先生もあの淡海乃海のイスラーフィール先生もそうですが、秀吉や元親好き、家康嫌いなのがなんとなく分かります。 でも、信長が長宗我部家の存続をそのまま許すかな。 史実と同じく長宗我部家を滅ぼせとの命令…
戦略修正の上申、膠着気味で下手に動けないのかもしれませんが他の宿老はこういう動きあったりするんでしょうか 報連相に拘る芋殿だけが突出して多いようなら、そこは宿老としての売りというか芋粥の評価にもなって…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。