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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第十二章 伊勢太守編(秀政胃痛編)

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第百八十一話 胃痛の副将

第十二章 伊勢太守編(秀政胃痛編) 開幕

挿絵(By みてみん)

長政が無事帰還して、骨折療養している間、

芋粥家は平穏を保てた。


北陸は織田が北加賀を取り戻し、

再び能登・越中で上杉と睨み合い、

膠着状態へと戻った。


西は明智が丹波を平定し、

羽柴がゆっくりとだが堅実に播磨の地盤を広げている。


石山本願寺攻めもようやく開始しようとしていた。


鉄甲船敗北後の佐久間は再び引きこもるようになった。

だが明智は近畿防衛の要であるため、

本願寺攻め総大将を任せることもできず膠着が続く。


そんな中、当初の予定通り、秀政は内政に注力できた。

本人は巨馬生産と薬味事業に勤しみ、

政成とお悠によって、本来の任務である鉄砲買い付けも、

無事年内納入の目途が付いた。


また、その間、芋粥が誇る奉行軍団、

ならびに秀長一行の尽力によって、

伊勢は開墾が進み、着々と石高を増やしていった。


そして何事もなく年の瀬を迎えようとしていた。


長政の骨折もほぼ完治した。

また、鷺山利玄に嫁いだ浅野の次女綾芽が、

待望の鷺山の子を身籠る。

同時に政親も九州工作に旅立った直後、北畠御影の懐妊が判明した。


芋粥家は穏やかに天正五年を迎えた。



岐阜城・天正五年一月三日。


織田信忠、柴田勝家、丹羽長秀、明智光秀、羽柴秀吉、

滝川一益、佐久間信盛、芋粥秀政、その他重臣が集う。


信長が静かに立ち上がり、

集まった重臣たちを鋭く見渡す。


「去年は、三方から押し潰されかけた一年であった」


信長は開口一番、厳しい口調で切り出した。


「東は武田。

 信玄は死んだが、赤備えも武田を支える重臣どもも健在よ。

 勝頼はまだまだ落ちぬ。


 北条と徳川は互角で睨み合い、

 どちらもこちらの思うようには動かぬ」


諸将を睨みつけたまま、扇を軽く鳴らす。


「北は上杉。

 手取川で我らは大敗した。

 だが大聖寺で討ち返し、謙信の後継者にして

 北陸総大将とも言えた上杉景虎を討ち取った。

 これでようやく振り出しよ。


 いや、織田が押しておる」


そして低く続ける。


「西は毛利と長宗我部。

 この二つが厄介よ。

 

 長宗我部は地盤たる四国が揺れ、

 一時、島に帰った。


 だが、それもわずかな時間稼ぎに過ぎぬ。

 中国も四国もこれからさらに牙を剥く」


静寂が走る。


「まず東についてだ。武田を弱らせる」


信長は滝川一益をしかと睨みつける。


「勝頼はまだ強い。

 赤備えも健在、武田が誇る名臣も揃っておる。

 

 だが、それは膠着を続けて良い理由にはならぬ!」


滝川が縮こまる。


「北条と徳川が互いに牽制している今こそ、

 武田に楔を打ち込む好機よ。


 今年は“討ち滅ぼす”のではない。

 “弱らせる”のだ。」


信長は秀政の方へ視線を向ける。


「芋粥が調達した鉄砲千挺は見事であった。

 あれほどの質の鉄砲をよくぞ集めた。

 苦労したであろう」


秀政が恐縮した表情で頭を下げる。


「元からの五百挺とこの千挺をもってして、

 武田の騎馬赤備えを討つ。


 鉄砲は装填が弱点よ。

 だが数がそれを補う。


 騎馬は鉄砲五百の三段撃ちによって、

 到達する前に死するだろう」


「「おぉう?!」」


諸将が低い声で唸る。


「この鉄砲を用いた決戦を木曽谷で行う!」


信長の言葉で、滝川の目に闘志が宿った。


(ほほう、長篠の合戦改め、木曽谷の合戦か。

 確かに木曽谷は、川沿いの細い谷間で、

 両側が切り立った山。


 平地が極端に少なく、兵が密集せざるを得ない。

 騎馬突撃がしにくい上に退路が一本しかない。

 

 つまり、武田の騎馬隊の強みが死ぬ地形、

 鉄砲の集中運用が最大効果を発揮する地形。


 長篠の再現には打ってつけ。


 俺なら上松から木曽福島の狭隘地帯か、

 妻籠から馬籠の中山道狭隘部だな。


 ふふっ、ここでも功を挙げさせて貰うか。

 そろそろ領地が欲しい)


秀政は内心でほくそ笑む。

信長は冷静に陣立てを伝えた。


「総大将は信忠。

 副将は滝川左近。

 与力に稲葉、不破、丸毛、飯沼。

 以上だ」


(あれ?俺は?


 あぁ、そうか。

 この時期の信長様は一門を総大将にして、

 格と功と経験を付けさせていたな。

 滝川殿も居て、俺もいては功が挙げられぬ。


 仕方ないか。

 武田は元より滝川殿の担当。

 長篠再現は功を稼げる良い機会だったかもしれなかったが)


「武田に打撃を与えよ」


「「はっ!」」


信忠と滝川が力強く応じる。


「次は西についてだ。


 羽柴、播磨の調略をいち早く進めよ。

 お前が毛利への要となる。

 だが、まだ弱い。

 毛利本軍が本気で押せば、ひとたまりもない」


信長は羽柴を指差す。


「今年は播磨を固めよ。

 攻めるな。播磨の地盤を確固たるものとせよ。

 毛利を引き止めるだけでよい」


「ははぁ!もし早ぉ播磨を押さえたら、

 またご相談に上がりまする!」


「ふんっ!調子の良いことを!」


信長は上機嫌で悪態をつく。


そして扇を軽く鳴らし、

佐久間と明智を鋭く見据える。


「石山本願寺は、今年もっとも厄介な敵よ。


 毛利と長宗我部、そして石山本願寺が共闘するならば、

 近畿は一気に火の海となる。


 ゆえに――

 先に本願寺を弱らせる。

 これが今年最大の急務だ」


そして佐久間に視線を移す。


「右衛門、石山攻めの総大将はそのまま務めよ。

 だが、敵は強い。

 一軍だけで押し切れる相手ではない」


信長は明智へ視線を移す。


「右衛門は本願寺西方面軍団長として、

 明智惟任日向、お主が東方面軍団長として動け。


 石山を東西から挟む。

 西は佐久間、東は明智。


 両軍団で一向門徒どもを締め上げ、

 早々に黙らせよ」


佐久間と明智が深く頭を下げる。


「毛利は海路で本願寺を支えておる。

 だからこそ難敵ではあるが、石山が沈めば、

 毛利は近畿に手を伸ばせぬ。


 そして長宗我部も海を渡れぬ」


信長は扇を閉じ、静かに言い放つ。


「今年、石山を揺るがせ」


「「は!」」


そして次に柴田と丹羽を見据える。


「柴田権六、丹羽五郎左」


信長の声が低くなる。


「去年の大失態は、大聖寺の勝利によって不問とする」


信長は扇を置く。


「今年は能登を取り返せ。

 越中へ深入りするな。

 上杉は景虎を失い、しばらく動けぬ。


 だが織田も傷は深い」


「は!

 能登を取り返し、二度と上杉に不覚は取りませぬ!」


信長は秀政を見据える。


「芋粥備前。

 お前の働きは見事であった。


 今年も期待しておる。

 お前は紀伊を切り取れ」


「は!」


「紀伊攻めの総大将は三介、

 副将が芋粥」


「は?」


(三介……待て待て信雄が総大将?!

 いや、居ない方が百万倍上手くやるっ!)


「いえ、お待ちを。

 紀伊程度、三介様のお力を借りず、

 それがしだけでも……」


「ならぬ!総大将は三介だ!」


(はあぁぁぁぁ。

 そうだよなぁ、この時期の信長はよぉ!

 身内を総大将に据えたがってたよなぁ!!


 ……急に胃が痛くなってきた)


「今年の織田は“整える年”とする」


秀政の渋い顔を一切無視して信長は続ける。


「東は武田を弱らせる。

 西は本願寺を黙らせる。

 北は上杉を押し返す。

 南は可能な範囲で紀伊を切り取る。


 今年は攻め急がぬ。

 だが、来年は違う。


 来年、天下を動かす」


信長は軍議を締める。


「皆、覚悟しておけ。」


秀政は信長の最後の締め言葉を胃痛と共に聞いた。

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― 新着の感想 ―
三介さんは強烈なデバフとして作用しそう…。 ところで河尻秀隆さんはどこで何してるんでしょうか…。序列的には筆答家老格だと思うのですが、影が薄くて不憫です。
三介様はアホだけど愛されるアホだから(笑)、上手く掌で回せればなあ、操り易い反面ノッブ譲りの激高さえなければなー
第一次天正伊賀の乱は回避できたが、紀伊攻略が代わりに来たか・・・ゲリラ戦や鉄砲の扱いが天才的な傭兵集団や熊野の寺社勢力、堀内等の海賊と国力伊勢以上なのは厄介なのでは? しかも、内政だけはそこそこの三介…
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