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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第九章 伊勢太守編(伊賀・大和攻略編)

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第百四十話 次を読む者

朝になっても砲弾の回収は終わっていない。

だが、もはや隠れて作業するまでもなかった。


方々に散った敗残兵から漏れた雷神の噂は、

皆を恐れさせ、誰一人、筒井城に近づけなかった。



秀政は瓦礫を踏み分けながら回収作業を見守っていた。


「義兄上」


慌てて振り返る。


「政親?

 何故ここに。大河内は?」


「勝手をして申し訳ありませぬ。

 ですが、大河内は問題ありませぬ。


 神崎は内政に優れています。

 御影を旗頭に旧北畠家臣をまとめ上げて、

 復興に取り組んでおります。


 それよりも大和と思い、はせ参じました」


「何かあるのか?」


「はい。


 いや、この作戦は聞き及んでおりましたが、

 派手にやりましたね。


 この有様なら、郡山へ逃げた筒井を口先三寸で降すこともできます。


 私に任せてもらえませんか?」


しばらく考え込む秀政だったが、口を開いた。


「よかろう、筒井を降してこい」


「は!朗報をお待ちください」


秀政が笑みを漏らす。


「大和も楽に収めることができたな」


「義兄上、甘いです」


「ん?」


「筒井は、言うなれば大和の政の表看板に過ぎませぬ。

 確かに大和において筒井の影響力は大きかったですが、

 実際に大和を手に入れるには寺社をどうにかする必要があります。


 そのために私が来たのです。


 今の筒井を降すのであれば誰でもできます。


 私はその次を見ています」


「次?」


「はい、本日中には筒井を開城させます。

 急ぎ、郡山と福住に兵を入れてください。


 最悪、その二つを取って、大和攻略の拠点にしましょう」


「他は?」


「芝城、田原城、井戸城、片岡城あたりは、

 すぐに松永殿が奪い取るでしょう。

 それほどあの方は大和に固執しておられます」


「そうか、まぁよい。

 どうせこの大和は平定しても信雄様と信孝様のものになる」


政親が驚いた顔をした。


「あ、そうなのですか?

 そのような密約が……。


 でしたら尚の事、ここはつまらぬ苦労は背負わぬほうが良いですね。


 良いですか?義兄上、私の見立てをお聞きください」


「うむ」


「この大和では、雷神仏罰の噂は筒井にしか効きませぬ」


「なぜだ?せっかくここまで派手にしたのに」


「そういう土地だからです。

 おそらく南都の寺社はこの件をこういうでしょう。


 『この仏罰は筒井の不信心によるものだ。

  同じ目に遭いたくなくば、仏を信じ外敵に立ち向かえ』


 と。


 つまりこれを筒井だけの問題として、

 むしろ、寺社勢力の一致団結に使われます」


「……俺のやり方が間違っていたと?」


「いえ、間違ってはおりませぬ。

 この大和に効かぬだけです。


 現に筒井は一夜で折れます。


 また、大和の外では芋粥に恐れをなす勢力も出てまいりましょう」


「大和……厄介だな。

 それでお前は何か策があるのか?」


「あります。


 二つです。


 まず一つ目

 ……大和の寺社とは、争うべきではございませぬ」


秀政は眉をひそめる。


「筒井を倒した以上、次は寺社が相手なのであろう。

 避けられぬ戦ではないか?」


政親は首を振った。


「いえ。避けられます。

 松永殿に、勝手に争っていただけばよいのです」


秀政は目を細めた。


「勝手に、か」


政親は薄く笑った。


「義兄上、大和は信雄様・信孝様に与えられる地。

 我らがどれほど働こうと、領地にはなりませぬ。

 寺社と争っても、得るものはございませぬ。


 むしろ寺とは極力喧嘩をしてはなりませぬ」


「……ふむ」


「ですが、松永殿は違います。

 あのお方は“大和一国”を長年狙っておられる。


 筒井が倒れた今、次に狙うのは寺社。

 火をつければ、勝手に燃え上がりましょう。


 寺社との喧嘩は松永殿に全て任せましょう」


秀政は苦笑した。


「それをお前が仕向けるというのか?

 本当に性格が悪いな」


笑いながら伝える。


こちらも笑いながら政親は肩をすくめた。


「義兄上のためですよ」


そして、声をさらに落とす。


「私が松永殿の元に出向き、今後の対応を協議して参ります。

 芋粥は興福寺、春日社を相手取ります、と宣言するのです。


 そして、失言風にこう囁けばよいのです。


 『これは我が主から聞いた“また聞き”ですが、


  “大和は芋粥と松永、どちらか大功を立てた者に与える”


  と大殿から言われたそうです』と。


 私は、また聞きを取り違えて松永殿に伝えたまで。

 確証はございませぬ、と言えば責めも受けますまい」


秀政は吹き出した。


「それで久秀が寺社に噛みつくと?」


「はい。

 松永殿は義兄上に遅れを取ることを何より嫌います。

 寺社と争うのは、あのお方の性にございます」


政親は筒井城の燃え滓を見つめながら続けた。


「その間に――

 義兄上は本願寺の軍勢へ向かわれませ」


秀政の表情が変わる。


「本願寺か」


「はい。

 あれとはすでに戦線を開いております。

 新たに大和の寺社と争うのとは違います。


 本願寺で功を上げれば、大殿は必ず義兄上を認められましょう。


 寺と無意味な喧嘩をするより、よほど価値がございます」


秀政はしばらく黙り、やがて深く息を吐いた。


「……なるほど。

 大和は松永に任せ、我らは本願寺で功を立てる、か」


政親は深く頭を下げた。


「義兄上が大和の泥沼に巻き込まれる必要はございませぬ。


 松永殿が寺社と争い、

 義兄上は本願寺で勝ち、

 大殿の信頼を得る。


 これが最も美しい形にございます」


秀政は笑った。


「政親、お前は本当に……性格が悪……

 いや、いやらしいほど賢いな」


政親は静かに答えた。


「重ね重ね言いますが、義兄上のためでございます」


「分かった、任せる」


「は!


 二つ目ですが……。


 松永殿に悪知恵を仕込んだ後は、

 私は大和から退散します」


「ん?」


「義兄上、今一番芋粥にとって不味いことは何だと思いますか?」


秀政は少し考えた後、確認するように答えた。


「下間頼廉か?」


真面目な顔のまま、政親が首を横に振る。


「違います。頼廉は赤備えを退けた義兄上ならば、

 何も心配しておりませぬ。


 心配なのは佐久間様です」


「佐久間殿?」


「はい、佐久間様は現在、長宗我部軍に連戦連敗です。

 もはや討ち取られるのも時間の問題かと。


 佐久間様が討たれたら、

 長宗我部が大和にも手を伸ばせるでしょう」


「一気に織田が不利になるな。

 頼廉と元親の両名を相手にするなど想像したくもない」


「はい、ですから不本意ですが、佐久間様を救います。


 長宗我部は四国を急激な勢いで統一したため、

 未だ四国の支配権が盤石ではありませぬ。

 三好勢力、河野勢力は再起を図って燻ぶっております。


 少々危険ですが仕方ありませぬ。

 私が直接四国に渡って、彼らに軍事支援を約束し、

 蜂起を焚きつけます。


 九鬼水軍で瀬戸内水軍を牽制し、

 内陸で反長宗我部勢力が蜂起すると、

 奴らも本州に構ってはおれますまい」


「確かにそうだな。


 政親、危険だが任せて良いのか?」


「はい、そのために官位を得たのですから。

 少々、松丸君まつまるぎみのことで義兄上にいい過ぎました。

 ですが、私は芋粥のために動いています。


 今後も御信頼いただければ」


「あぁ。俺はお前のことを信頼しているよ」


「それならばよいのです。


 では、まず筒井の降伏勧告。

 続いて、松永殿との協議。

 そして、四国の調略。


 しばらく伊勢には戻れそうにありませぬが、

 行ってまいります」


「頼んだぞ」


政親はそこまで言うと家来の数名と共に馬に乗って郡山に向かっていった。


(……政親、頼りになるが本当に信頼してよいのか……)


「鷺山を呼べ」


しばらくして鷺山が現れた。


「鷺山、大砲を伊勢に戻せ。

 あれは隠しの兵器だ」


「は、万全を期して、秘密裏に伊勢に戻しましょう」


秀政は頷き、そのまま続ける。


「そして次は本願寺とやる。

 敵将は智将と名高い下間頼廉だ。

 奴らは強いぞ、いけるか?」


鷺山が力強く頷く。


「腕がなります!」


運命の悪戯か。

頼廉との再戦が、いま実現しようとしていた。

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