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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第九章 伊勢太守編(伊賀・大和攻略編)

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第百三十七話 浮かぶ城と、継ぐ者

政成は少し考えてから、口を開いた。


「……鳥羽に、隠れた修理湊を作る。


 その狙いは……大砲だけにございますか?」


秀政は小さく笑った。


「狙いは二つだ」


一拍置く。


「もちろん大砲も欲しい。


 だが、本命は――

 ガレオン船の技術だ」


政成が眉をひそめる。


「がれおん……?」


「南蛮の大型帆船だ」


秀政は指で空に形を描く。


「それこそ、海に浮かぶ巨城そのものだ。

 その技術は、南蛮のポルトガルやイスパニアの――

 最高軍事機密」


静かに言い切る。


「……だがな」


少しだけ、口元が歪む。


「商人にとっては、そんなものより金だ。


 壊れたガレオンを抱えて帰るより、

 捨てて金に換えた方が早い。


 国家機密のために破産するような奴らはいない」


秀政の目が鋭くなる。


(このモラルの低い時代において、

 技術は、守られているようで

 現場では、いくらでも漏れる)


「俺は、その“浮かぶ城”を――」


まるで夢見るように目を瞑った後、見開いた。


「自力で作れるようにする」


政成の表情が固まった。


「……それは……」


秀政は淡々と続ける。


「壊れた船は解体させる。


 志摩の腕利きの船大工に扱わせろ。


 日の本の職人はな――

 現物を見れば、覚える」


(図面はいらん。実物があればいい)


「あと注意が必要なのは人の心理を理解する必要がある。

 いくら破産が嫌でも心の何処かに、

 機密漏洩に対する罪悪感は存在する。


 最初の内は、南蛮人の前で解体して再利用できぬ事を目の前で見せてやれ。


 修理は有料、解体、破棄は無料で実施し、恩を売れ。

 まさか機密を盗まれてるとは思うまいがな」


「なるほど。

 信頼を得てからは、解体を任せてもらって、

 実際にはばらさずに部品を頂くわけですな?」


「そうだ。いつも通り解体するふりをして、使える部品や武器は貰う。


義父殿は説明が省けて助かる。


 そして、南蛮人が要らぬと言った大砲や弾薬は千種屋で買い取ってくれ。

 金は芋粥でよい。


 芋粥が買い集めて、変に勘ぐられたくない。


 時をばらして蔵に運んでくれ」


「手間はかかりますが必要ですな」


「うむ、最初の一隻は解体して得た知識をもとに、

 解体用に貰った座礁船を修理して作る。


 二隻目は杉や檜といった、

 日本の軽く丈夫な木を使い、

 南蛮船よりも速く、

 そして強固な軽ガレオンに改良して作る」


秀政は遠くを見つめる。


「そして――」


声が低くなる。


「その“動く城”を、伊勢の守護神とする」


沈黙。


「……安宅船を、紙船のように沈められるぞ」


政成は息を呑んだ。


そして、秀政はさらに踏み込む。


「例え殿といえど――」


一瞬だけ視線を落とす。


「伊勢を、俺から取り上げられなくなる」


空気が変わる。


政成が低く言った。


「……それは、謀反と取られかねませぬ」


秀政は即答した。


「取らせねばよい」


一拍。


「鳥羽の入り組んだ海岸に固定しろ。

 海原に出なければ問題にはならぬ。


 帆は張らぬ。あれは物見やぐらだ。

 つまり南蛮の砦だと言い張れば、

 それは砦だ。


 そして、航海試験と訓練は夜中に行う。」


政成が小さく笑った。


「……昼は砦、夜は戦船。

 実に殿らしゅうございますな」


(見せ方だ。中身ではない)


「そして――」


さらに続ける。


「そこに載せる大砲についてだ。

 短距離で安宅船すら一撃で粉砕するカノン砲、

 十五町の距離すら届くカルバリン砲。


 それらを合わせて四十門は載せる。」


政成の目が細くなる。


「……南蛮大筒をそれほどとは。

 堺ではなく、座礁した南蛮の船乗りから

 直接買い入れるわけにございますな?」


「そうだ」


秀政は迷いなく答えた。


「固定を外し、海に出すのは、

 我らが真に追い詰められた時だ。


 それまでは決して陸から出さぬ。

 謀反を疑われるからな」


「真の危機とは?」


「例えば俺が伊勢に固執した場合、

 討たれる側にまわるやもしれん。


 だがな、そこでこの浮かぶ城が、

 筒井城のように敵を跡形もなく粉砕する」


「まさか……。

 そのために此度、

 筒井城を大砲で粉砕するのですか?」


「そうだ。今は雷神の仕業かもしれぬが、

 いざ、俺が本気になれば、雷神の如く、

 焼き払うことができる。


 しかもどこにでも現れる上に、

 日ノ本の手漕ぎ船では追い付けぬほどに速い」


「恐ろしゅうございますな」


「あぁ、そうだ。

 一度、敵に恐怖を与えてしまえば、

 敵は二度と攻めては来るまい。


 それが抑止力というやつだ。


 強大な兵器を持てば――

 それだけで戦は起きにくくなる」


(殴るためではない。


 殴らせないためだ)


政成はゆっくりと頷いた。


「……なるほど。

 作り終えるまでにかなりかかりそうですな」


「そうだな、技術を盗んだとしても、

 海に浮かぶ城を作るようなものだ。


 最も速く作れるようになったとしても、

 一隻、五年はかかろう。


 その間に注目されるわけにはいかん。


 そこで九鬼だ」


「九鬼?」


「目眩しだ」


秀政は肩をすくめる。


「九鬼には鉄張りの安宅船を作らせろ。


 派手で、分かりやすい。

 皆そちらに目を向ける。


 最強の水軍だ。


 俺のガレオン船を除けばな」


(そう、本命は別だ。

 常にそうだ。より派手なもので本命を隠す)


政成は深く息を吐いた。


「……殿は、恐ろしいことを考えられる」


秀政は笑った。


「遅いくらいだ。

 いつ伊勢を取り上げられるかもわからんからな。


 それにだ、義父殿。


 この包囲網は苛烈だ。


 ここからは大きな声では言えぬが、

 織田が無傷で済まぬことも考えられる」


「つまり?」


「天下布武が頓挫することもある。


 その場合、再び群雄割拠だ。


 その群雄の一人に俺も加わるやもしれん」


「まさか、殿は……」


「天下を狙う機会があれば――

 逃す気はない


 ただし、一切無理はせぬ。


 俺の賭けによって、

 家族に危険が及ぶわけにはいかぬからな。


 つまり、このガレオン船は、

 きたるべき群雄割拠に備えてであって、

 殿に対する謀反ではない。


 俺は伊勢を取り上げられぬ限り、殿への忠誠は変わらぬ」


(この世界では本能寺の変が起きるかどうかもわからぬ。

 秀吉が天下をとるかどうかもわからぬ。


 そして俺が天下を取るかどうかもわからぬのだ)


「分かりました、これは他言できませぬな。


 ですが、殿は我らを危険にさらさぬお方。

 そういうお方ゆえ、我らは安心して殿の方針に従いまする。


 修理湊はお任せくだされ」


「あぁ、任せたぞ。

 これで心置きなく大和へ行ける」



軍議解散後、長政は無言で千種屋敷に帰宅した。


(義父上はとんでもないことを考えられる。

 俺では全く考えに及びもしない。


 こんな俺で……。

 芋粥家を継いでいいのか?


 俺が家督を継いでもいいのか?)


考え事をしながら明が待つ部屋へ歩みを進める。


そんな時。


万兄まんにい!」


元気な声が響いた。


「あ、松丸」


松丸が興奮しながら長政の袖をつかむ。


「戦か? 戦なのか?」


苦笑いしながら長政が答えた。


「あぁ、二ヶ月後、大和へ出陣する」


ますます興奮する松丸。


「いいなぁ、俺も早く戦にでたいな!」


「そうか? 戦は良いものじゃないぞ」


松丸が覚えたばかりの知識を使ってしたり顔で答える。


「為政以徳。


 玄道師が教えてくれた。


 『徳のある者が上に立てば、戦は減る』って。


 万兄が大和に行くのは戦を無くすためなんだろ?」


「……あ、いや。まぁ、そうだな」


(論語か?

 六つで王道を語るか……)


「松丸、お前は賢いな。

 芋粥家はお前が継ぐといい」


「万兄、何言ってんだ。

 鳥羽も志摩も万兄が徳を以て従えたって聞いたぞ!


 すごいよ!


 万兄がいるから、

 芋粥は安心だってみんな言ってるぞ!」


「そんなことはない。

 俺には、得意がないんだ。


 義父上の人徳。

 義祖父上の政略。

 鷺山の軍略。

 竹内の弁。

 佐治の弓。


 みんな得意がある。


 俺には何もないんだ……」


「万兄、そんな弱気だと明姉様に叱られるぞ!」


「ん?明は姉様で俺は万兄か?」


「あぁ、姉様は恐いからな。

 万兄は優しいから大好きだ。


 嫌だったら万兄様って呼ぶぞ?」


「いや、いい。

 万兄の方が特別扱いされているようで嬉しい。


 俺も松丸が大好きだ。


 二人で芋粥を盛り立てような」


「おう!」


「松丸、釣りに行くか?」


「お!いいな!俺は入れ食いの場所を発見したぞ!」


「そうか、教えてくれ」


「万兄だったら、もちろん教えるぞ!」


長政から笑みが漏れる。


(松丸……。

 俺が家督を継ぐとしても、

 お前が成長するまでの繋ぎでいい。


 それで――十分だ)

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― 新着の感想 ―
どっかの陰謀好きな○親に付け込む隙を与えないくらい仲良くしておくれ…
この兄弟の仲を壊すような家なら存続せず打ち捨てられても構うまい。
また色々フラグたててますなあ。今んとこ織田政権ルートですがさてさて。ふと思ったが、淡路はこの時期だれが抑えてんかな?船使うなら大事な気がする
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