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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第八章 伊勢太守編(国作り編)

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第百二十五話 まとまる志摩

天正二年十一月末。


志摩・鳥羽沖。


白子水軍の小舟が進む。


長政と竹内による、

二度目の訪問。


今度は中立ではない。

従わせるための訪問だった。



甲板。


九鬼嘉隆が立つ。


「……また来たか」


長政が頭を下げる。


「芋粥万太郎にございます」


竹内が続く。


「竹内小四郎。使いにございます」


九鬼が短く言う。


「話せ」


竹内が一歩出る。


「此度の話は一つにございます。


 九鬼殿には、

 芋粥に従っていただきます」


空気が張る。

しかし、間を置かない。


「異論は認めませぬ。


 家格が違います」


言い切る。


誰も動かない。


竹内は続ける。


「伊勢の戦国大名たる芋粥と、

 志摩の国衆たる九鬼」


一拍おく。


「対等など、あり得ませぬ」


さらに畳みかけた。


「ゆえに従属せよ」


断定。


だが、そのまま言葉を重ねる。


「ただし――

 自治は一切変えませぬ」


九鬼の目がわずかに動く。


「海はそのまま九鬼が握る。

 そして、芋粥家の志摩支配における、

 代官を九鬼に任せる」


さすがに九鬼も驚きを隠せない。


「先の三か条もそのまま有効とする」


言い切る。


「名は従属。


 実は芋粥との同盟にございます」


一時の沈黙が流れる。


九鬼が口を開く。


「……好きに言う」


低い声で続ける。


「結局は下につけということだな?」


長政が口を開く。


「そうだ」


即答する。


そして堂々と一歩前へ進む。


「だが――

 九鬼は志摩を得る。


 芋粥は志摩を間接に得る。


 それでよい」


言い切る。


「互いに利がある」


再び沈黙が流れる。


長政は続ける。


「拒めば――

 芋粥は志摩を陸より破壊する。


 受ければ――

 志摩はまとまる」


長政は九鬼を見据える。


「どちらを取る?」


沈黙の中、波の音だけが響く。

一択しかない質問。


やがて、九鬼が小さく息を吐く。


「……よかろう。

 乗る」


空気が変わる。


長政は頷く。


「では、次に移る」


九鬼の目が細くなる。


「もうか?」


「ここで語ることは済んだ」


長政は言い切った。


「次は志摩をまとめるために動く。


 協力せよ」


長政が堂々と命ずる。


九鬼は、もう逆らわなかった。


「……はっ!」



同十二月中旬。


志摩国英虞湾の北、

波切なきり鵜方うがたの中間の山腹にある、

青巌山・蓮正寺。


九鬼を含めた志摩の国衆が、

全員集められていた。


織田が認める伊勢の戦国大名、

芋粥家の強権によってである。


集まれば自治を認める。


だが集まらねば――

叛意ありとみなして、

芋粥が全力で焼き払う。


国衆にとって、

集まらない理由がなかった。


武装解除が命じられ、

槍も刀も外に置かれている。


芋粥兵が周囲を固める。


白子水軍が海を封じる。


逃げ場はない。


ざわめきが寺を包む。


「なぜ集められた?」


「九鬼もいるぞ……」


その時、場が静まる。


長政が入り、竹内が続く。


空気が変わる。


竹内が前に出る。


「皆の衆、よくぞ集まられた。

 此度、志摩の形を定める」


国衆が固唾をのんで見守る。


「志摩の国衆はすべて芋粥に従属せよ」


再びざわめきが走る。


だが竹内は続ける。


「ただし――

 自治は一切奪わぬ」


空気が止まる。


「領地も、支配も、そのまま。


 ただ変わるは――

 この地を芋粥が守る」


ざわめきが広がる。


「志摩の今までとの違いはただ一点。


 芋粥が盟主となり――

 志摩は全ての国衆が芋粥の元にまとまる」


「……芋粥様を盟主とすれば、

 今までの領地、支配はそのままと?」


国衆の一人が思わず質問する。


「そうだ。


 今までお前たちが、

 北畠に渡していた年貢は、

 これからは芋粥が受け取る。

 その率も今まで通りだ。


 ただし、芋粥の代理として、

 志摩をまとめる存在も必要。


 芋粥家の志摩代官は九鬼殿に任せる」


九鬼と争う国衆が眉をしかめる。


「この志摩は、

 芋粥・九鬼によって、これより争いは終わる」


静寂の中、竹内は言い切る。


「あくまで国衆は芋粥に従うのだ。

 九鬼に対してではない。


 これまでの遺恨は全て水に流し、

 芋粥に仕えよ。


 そして九鬼に従うことは、

 芋粥の意向に従うことと同義と心得よ」


「……九鬼に従うのではないのか」


「芋粥様の御下知ならば……」


九鬼は芋粥家に認められた、事実上の志摩領主の地位を得る。

国衆は九鬼に従う屈辱は回避できる。


戦なくして、志摩は統一される


「これに賛同せぬ者は、


 織田並びに芋粥への叛意とみなし、


 芋粥は九鬼と共に、その者らを討つ。


 赤備えすら打ち倒す芋粥と一戦交えたくば、

 いつでも受けて立つ」


沈黙。


誰も動かない。


長政が一歩出る。


「私は、芋粥家嫡子、芋粥長政である。


 我が言葉は芋粥の言葉そのものと心得よ」


その威に押されて、国衆が背筋を伸ばす。


「安心しろ」


短く言い切る。


「我らは志摩を滅ぼす気はない。

 従えば、今まで通り生きる。


 いや、今まで通りではないぞ。


 芋粥と共に、さらなる繁栄が約束される」


そして一同を見渡す。


「そして、もし逆らえば、終わる」


長政は言い切る。


「それだけだ。


 我らの敵は北畠のみ。

 志摩は芋粥にとって、盟友である」


静寂。


一人が膝をつく。


「……従います」


続く。


「我らも」


「異存なし」


流れが決まる。


竹内が書付を出す。


「起請文にて誓え」


次々と、名が記されていく。



その日、志摩は――

まとまった。


九鬼は代官となり、

国衆は自治を保ったまま従属し、

北畠の影は排された。


そして、志摩は芋粥のものとなった。



英虞郡。


夜、静まり返った街に、足音が二つ。


北畠教高の館の前で止まり、門が叩かれる。


「急使にございます!」


家人が顔を出す。


そこに立っていたのは――

見慣れぬ将と女。


女は身のこなしから、

くノ一と思われる。


いかにも怪しい二人――

だが、将が低く言う。


「“白砂は三度踏み固めよ”」


家人の顔色が変わる。


それは北畠一門しか知らぬ符丁だった。


かつて田丸行家の行動は政親によって常に監視されていた。

そうとは知らず、田丸は北畠内で自由に行動していた。


当然、符丁も政親に知られる所となる。


即座に道が開かれる。



教高が二人の前に現れる。


鋭い視線で睨みつけた。


「……何者だ?」


将は迷わない。


「“潮は満ちても、舟は戻らず”」


危急を知らせる符丁。


一瞬、教高の目が揺れる。


間違いない。


内の者だ。


「何事だ?」


将が一歩踏み込む。


「志摩国衆が芋粥に降りました。


 芋粥盟主の連合を作り、

 志摩北畠を討つ算段にございます」


空気が変わる。


「……確かか?」


「間違いありませぬ。

 既にこちらに兵が向かっております」


間を置かず続けた。


「まもなく、この館は包囲されます。


 急ぎ、脱出を」


沈黙が流れる。


教高は将を見据える。


見慣れぬ顔だが――

符丁は本物だ。


(……鳥羽が落ちたのは知っている。

 いずれこのような時が来ることも想定していた)


「御影を呼べ」


家の者に伝えた。

決断は早い。



裏口。


その二人によって、

既に旅立つ用意は整っていた。


くノ一が御影の変装を手伝う。


粗末な商人の衣、

主人と娘、番頭と侍女にしか見えない。


「父上……」


心配そうな娘に構っている暇すらない。


「急ぐぞ」


教高は、ただそれだけ伝える。


侍女役のくノ一が導く。


「こちらへ」


四人は闇に紛れる。



それから少しして、

館の周りを足音、松明、怒号が取り巻く。


「囲め!」


「逃がすな!」


兵が押し寄せる。


教高たちは遠目にそれを見る。


「……助かった。

 よくぞ知らせてくれた。

 礼を申す」


「いえ、急ぎましょう。

 まだ逃げきれてはおりませぬ」


その場を急ぎ立ち去った。



屋敷の門が破られる。


取り残された家人の悲鳴のみが響く。


「……おらぬ!?」


混乱する志摩国衆の兵たちは一歩遅かったことを悟った。



裏山、獣道、滑る土、

そんな中を進む。


枝が頬を打つ。


御影が息を切らす。


「……っ」


「止まるな」


将が短く言う。


やがて、海が見えた。


小さな入り江に一艘の舟、

そして漁師が待つ。


無言で頷くと船に誘う。


四人が乗りこむと舟は海に出た。

そして音もなく、闇に溶けた。



志摩湊。


夜明け前に商船が一隻、停泊している。


既に準備は整っている。


「乗れ」


船長からの短い指示。

そこに問答はない。


教高たちが急いで乗り込むと、

すぐに船は湊を離れる。


志摩が遠ざかる。


御影が不安そうに振り返る。



やがて、陸が見える。


教高が訝しんで問いかけた。


「……向かうは南伊勢では?」


船長の答えはない。


船は桑名湊へ入る。



降りた瞬間、

教高の目が変わる。


「……ここは、

 桑名、か?」


周囲に兵の気配を感じて、

刀に手を当てる。


教高が低く押し殺したような声で言う。


「……謀ったな」


「その通りでございます」


その時、背後から声が発せられた。


慌てて振り返ると、そこに男が立っていた。

千種政親だ。


静かに歩み寄る。


教高の目が細くなる。

刀を握る手に力が入る。


御影は怯え切っていた。


「……貴殿は?」


政親は一礼する。


「お初にお目にかかります」


警戒を解かせるために刀は佩いていない。


「拉致ではございませぬ。

 この通り、私は丸腰です。


 兵達も教高殿を守るために配置したまで」


教高はそれでも警戒したまま問いかける。


「拉致ではなければ、何だ?」


「保護にございます」


教高の視線は鋭いまま。


「符丁まで使ってか?」


政親は答える。


「必要でございましたゆえ」


一歩、近づく。


「ご安心ください、害意はございませぬ。

 ご息女が怖がっておいでです。


 警戒を解いていただけませんか?


 私は田丸行家様に、

 かつてよくしていただきました」


懐から書状を出して、差し出す。


「ご覧ください」


教高が警戒しながらも受け取る。


目を走らせる。


筆跡、文、手が止まる。


「……これは?」


「今は亡き式部少輔様(具房)とも、

 やり取りした折のものにございます。


 筆は偽れませぬ」


沈黙の後、疑念がゆっくりと解ける。


政親は続ける。


「式部少輔様には御恩がございましてな。


 その御恩返しとして、

 無下に北畠の血が流れぬよう、

 お連れしました」


教高が問う。


「……何を望む?」


政親は首を振る。


「何も。


 先ほども申しました通り、これは御恩返し。


 式部少輔様が徳に報いたいだけでございます。

 真に式部少輔様に関しましては残念なことです」


「式部少輔様が南伊勢を立て直したのも、

 芋粥の手助けがあったとは、噂に聞いたことがある。


 信じられぬ話だが、真の話だったか」


「はい、その時に御恩を受けたのです。


 教高殿、まもなく南伊勢は戦になります」


そして、うつむきつつ、静かに続ける。


「おそらく、北畠本家は滅びます」


空気が重くなる。


「芋粥も、織田の命により北畠を攻めますが……。

 名門を絶やす気はございませぬ」


教高は黙る。


政親は頭を下げた。


「しばし、匿わせていただきたい。


 それだけにございます」


沈黙が続く。

やがて、教高が息を吐く。


「……よかろう。

 どうせ志摩で失うはずだった命だ。


 御厚意に預かりましょう」


御影は何も言わない。


ただ、政親を見ている。



桑名城、二の丸。


二人はそこへ通された。


守られた場所であり、

外界から切り離された空間でもある。



夜、廊。


神崎が現れる。


政親は振り返らない。


「神崎」


一拍おく。


「見事であった」


神崎が頭を下げる。


政親は静かに言う。


「北畠御影を手に入れた。


 これで――」


わずかに口元が歪む。


「名跡が手に入る」


夜風が吹く。


「子はたくさん必要だからな。

 義兄上のように仲睦まじくありたいものよ」


その言葉だけが、静かに残った。


ただ、神崎は静かにその背中を見つめる。

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