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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第八章 伊勢太守編(国作り編)

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第百十六話 蝮の血、吠える

秀政、松之助、南條、木曾は

いち早く鈴鹿入りし、居住区建設に取り掛かっていた。


木曾が区画計画を立て、南條が設計・監督し、

松之助が資金と人を出す。


これは無茶な計画ではあったが、現在、

日に日に居住区が出来上がっていく。


この進捗であれば、

二ヶ月という異常な期間で

居住区までは完成しそうだった。


だがその時、

四人が籠る、かび臭い稲生館へ

一騎の早馬が飛び込んできた。


「大変です!

 この国替えの隙をついて、北畠が兵を挙げました。


 その数三千。


 鷺山様が二千の兵で迎撃を試みておられます」


秀政が顎を撫でながら、悔しそうに呟く。


「そうか……北畠が黙っていてくれるとは思っていなかったが。


 折角、町づくりが面白くなってきたところで

 水を差してくるか。


 鷺山は侍大将に上げたばかりの、いわば暫定の守将だ。

 浅野が来るまでの繋ぎと思っていたが……」


唸りながら考え込む。


「浅野はすぐには動けないな。


 鷺山に伝えよ。松ヶ島、木造で籠城せよ。

 ひと月以内に援軍を向ける。


 それまで耐えよ!」


「承知しました!」


早馬が再び走り出した。


秀政は別の早馬を呼んだ。


「那古野まで向かってくれ。

 村瀬に命じて、那古野兵の千を鈴鹿まで連れてきてくれ。


 到着次第、俺が大河内へ援軍に向かう」


「は!」


那古野へも早馬が飛ぶ。


「はぁ、俺が出かける間は、街づくりは任せるぞ。」


「お任せください」



二日後――

南から早馬が再び駆け込んできた。


「鷺山様、北畠軍三千を撃退しました!


 圧勝です!」


「は?


 真か?


 あ……済まぬ、那古野にもその報を伝えよ。

 村瀬に兵の移動は不要だとな」


(鷺山、思ったよりやるな。

 さすが道三・義龍の血か。


 これなら安心して鈴鹿の街づくりが出来る)



時を戻す。


「北畠勢、三千。木造城へ向かっております!」


伝令の声に、鷺山利玄は静かに目を閉じた。

浅野はまだ那古野から動けていない。


木造城と松ヶ島城に置いた兵は、

合わせて二千。


守れるのは――

自分しかいない。


利玄は静かに息を吐いた。


(繋ぎ、か。

 浅野殿が来るまでの“繋ぎ”と皆は思っておる。

 ならば、繋ぎがただの繋ぎではないことを見せてやろう)


利玄は立ち上がり、

与力と組頭たちを呼び集めた。


「日根野、大野、河村。

 北畠が来た。三千だ」


ざわめきが走る。

しかし利玄は微動だにしない。


「正面から戦えば負ける。

 だが――

 蝮は正面から噛みつかぬ」


その言葉に、日根野正勝が薄く笑った。


「奇襲、伏兵、夜襲……斎藤家の十八番ですな」


「そうだ。お前の得意を使う。


 河村は前衛で“崩れたふり”をしろ。

 森川は焦って突撃するふりで敵を煽れ。

 北畠を山道へ誘い込む」


河村兵介が頷く。


「堅実に退きます。

 敵は必ず深追いしましょう」


「堀田は伊賀衆を率い、

 山上に罠を仕掛けろ。


 丸太と石を縄で固定し、

 合図で落とす。

 土砂崩しで敵を分断する」


堀田甚兵衛が口元を歪めた。


「山は我らの庭。任せてくだされ」


「大野は槍隊を率い、

 分断された前衛を叩き潰せ。


 森川は側面から突撃。


 中根は退路を塞げ」


大野甚九郎が槍を握りしめる。


「槍鬼の名、ここでも轟かせてみせましょう」


利玄は最後に、全員を見渡した。


「敵は三千。こちらは二千。


 三千を三千のまま戦う必要はない。

 分ければよい。

 締め上げればよい。


 蝮の戦いを見せるぞ」



河村兵介の隊が、

わざと押されるように後退した。

森川与一が「逃げ腰」を演じ、

敵を煽る。


「追え!崩れたぞ!」


北畠軍は勢いに任せて山道へ突っ込んだ。


隊列は縦に伸び、

前後の連絡が途切れる。


その瞬間――


「日根野、今だ!」


山上から合図の笛が鳴った。


次の瞬間、丸太と巨石が一斉に転がり落ちる。

土砂が崩れ、山道を埋め尽くした。


「うわああああっ!」


悲鳴が響く。

北畠軍は完全に分断された。


前衛千。

後衛二千。


利玄は冷たく呟いた。


「これで三千は三千ではない。

 ただの千と二千だ」



「大野、行け!」


「おうとも!」


大野甚九郎の槍隊が、狂気じみた勢いで突撃した。

槍が唸り、敵兵を次々と貫く。


「森川、側面から!」


「任せろ!」


森川与一の突撃隊が横から食い込み、敵は完全に崩れた。


「中根、退路を塞げ!」


「承知!」


中根三郎が冷静に道を封鎖し、

逃げ場を奪う。

前衛の千は、わずか半刻で壊滅した。



山田が狭い山道で弓と鉄砲を浴びせる。

堀田が森からの奇襲を仕掛け、

敵は混乱の極みに達した。


「敵は怯んでおります!」


「ならば、締めるぞ」



利玄は本隊を率い、

分断された敵の中央へ突入した。


「退路を断て!包囲せよ!」


北畠軍は完全に挟撃され、

士気は崩壊した。


「降伏する者は助けよ。

 逃げる者は追うな」


利玄の声は冷たく、

しかし揺るぎなかった。

戦いは終わった。


北畠軍三千は――

壊滅した。


死傷千、逃散千五百、降伏五百。


数日後、秀政は報告に訪れた鷺山を稲生館で迎えた。


「鷺山、よくやった。

 頼もしくなったな。

 侍大将にして間違いはなかった」


利玄は深く頭を下げた。


「蝮の血が騒いだだけにございます」


秀政は笑った。


「ならば、その血を今後も北畠に向けて使え。

 お前は今日から、正式に南方の要だ」


利玄の胸に、熱いものが込み上げた。


(これでようやく、父上や祖父上に顔向けできる)


「北畠はしばらくは閉じこもるだろう。

 お前のおかげだ」


この戦で北畠の脅威は一度退いた。


芋粥は鈴鹿の国造りに

全力を注ぐことになる。

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― 新着の感想 ―
数で劣る相手に対して軍を縦に伸ばして当たるなど、北畠の将が愚昧なだけでは?という気もしますがね。名門だけに家格だけで将を務める者もいるのでしょうか。まあそれも含めて指名する領主の至らなさということです…
北畠の求心力にも相当影響を与えたことだろう。大きな勝ちですね。
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