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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第八章 伊勢太守編(国作り編)

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第百十二話 伊勢引っ越し

第八章 伊勢太守編(国作り編) 開幕

論功行賞が終わると、

諸将はそれぞれの任地へ散っていった。


新たな戦場。

新たな領地。

信長が示した「天下布陣」が、

ここから本当に動き始める。


秀政はすぐには那古野へ戻らなかった。


滝川一益から伊勢の引き継ぎを受ける必要があったからだ。

加えて、芋粥家の本拠を伊勢へ移す以上、

その手続きや諸々の承認を岐阜で済ませておく必要もあった。


そのため、秀政はしばらく岐阜に留まった。


そして手配が整うと、

伊勢に居る者も含めて、

芋粥家の諸将を那古野へ呼び寄せる。


論功の結果を伝え、伊勢移転の準備を、

ここで一度まとめるためだった。



数日後。


秀政は那古野城へ戻った。


城門をくぐる前に、

一人の男が待っている。


松親だった。


「おぅ、松親。

 久しぶりだな」


「はい、義兄上」


松親はいつものように整った礼で頭を下げる。


「北伊勢は特に問題は生じておりません」


「それは良い」


秀政は満足そうに頷く。


「で、何か用か?

 お前も上段の間に来てくれ。


 皆に向けて話がある」


「承知しました」


松親は答えた。


だが、すぐには歩き出さない。


「ですが――

 その前に義兄上にだけお伝えしたいことが」


秀政は少し首を傾げる。


「なんだ?」


「田丸殿のことです」


「あぁ」


秀政は思い出したように言った。


「落馬だとな。

 不幸な事故だ。


 井口に続いて、

 よくないことが起きすぎる」


少し空を見上げる。


「熱田様にでもお祓いに行くか」


「それは良いことですね」


松親が穏やかに頷く。


「田丸様は公家武者。

 馬の扱いがそれほど得手ではなかったのかもしれません」


一拍置く。


「ですが――

 それよりも、南伊勢のことです」


秀政の目がわずかに鋭くなる。


「北畠か、具房殿は真に残念だった」


「はい」


松親は淡々と続けた。


「その件に関して、

 田丸殿が一枚噛んでいたようで」


秀政の顔色が変わる。


「何だと?」


「雅千代派を焚きつけていたようです」


松親は静かに頭を下げた。


「申し訳ありません。


 私も長島に目が向いていて、

 そこまでは気づきませんでした」


そして続ける。


「ですが、田丸殿が事前に事故で亡くなられたことで

 田丸殿が焚きつけた証拠は、どこにも残っておりません」


少し声を落とす。


「不幸中の幸い。

 もしそれが表に出ていれば、

 田丸殿は芋粥の客将。


 我らも危うい立場になっていたでしょう」


秀政は腕を組んだ。


「そうか」


小さく頷く。


「田丸殿は北畠に愛着があったんだろうな。


 早めに引き上げさせればよかった」


「はい。そうですね」


松親は淡々と答える。


「ですが義兄上。


 北畠は、具房の嫡男雅千代がありながら、

 外部の血である茶筅丸様を世継ぎとしました」


視線を少しだけ上げる。


「田丸殿を抜きにしても、

 いずれ必ず同じことが起きたでしょう」


そして静かに言う。


「血とは、

 武家にとってそれほど固執されるものなのです」


松親の声は穏やかだった。


「芋粥も、北畠と同じ轍を踏ませるわけには参りませぬ」


秀政は黙り込む。


(なるほど……)


確かに、

北畠の状況は今の芋粥と似ている。


だが芋粥の場合、

完全な他家の血ではない。


明の子が世継ぎとなる。


全く同じではない――

そう思いたかった。


「……確かにそうだな」


秀政は小さく言った。


「万丸も松丸も、まだ若い。


 才を見極めた上で、

 甲乙つけがたいならば――」


少し言葉を探す。


「松丸を選ぶ方が安全かもしれんな」


松親の表情が明るくなる。


「義兄上、それは御英断です」


深く頭を下げる。


「世継ぎは慎重に決めるべきものです」


その言葉を聞きながら、

秀政はふと違和感を覚えた。


先ほどの田丸の死。

そして、井口の死。


松親の目は、

そこに向いていない。


もっと先を見ている。


まるで――

彼らの死など、路傍の石が

転がり落ちただけのことのように。


そんな風に感じられた。


かつて、お悠が言った。


『正直、私は少し苦手でしたけれど』


政成も言っていた。


『もし松親が不手際を起こせば』


政成も、お悠も、

松親を恐れている。


(松親は確かに薄情だ。


 昔からそうだった。


 だが――

 それが芋粥に向くとは思えない。


 いや。


 妄信するのも、

 また危ういのかもしれない)


秀政は少し笑った。


「松親、お前は薄情な奴だな」


冗談めかして言う。


「井口の時も、田丸の時も。

 話し方がやけに淡々としておる」


松親が目を丸くする。


「え?そうですか?」


首を傾げる。


「私も井口殿や田丸殿の死は、

 悼んでおりますよ」


少し困ったように笑う。


「田丸殿は少々固くて苦手でしたが、

 井口殿は嫌いではありませんでした」


松親は少し思い出すように言った。


「井口殿は物を食べる時、

 鼻の穴がいちいち膨らむんです」


秀政が思わず吹き出す。


「本当に美味しそうに食べる方で、

 見ていて楽しかったのですが……」


松親の声が少し落ちる。


「そんな人が、いきなり戦場でいなくなる」


静かに言う。


「怖く、そして悲しいものですね」


秀政も頷いた。


「そうだな」


そして、小さく言う。


「戦は、なるべくやりたくないものだ」


(それだ)


言いながらも秀政は思った。


出来すぎた話し方。

整いすぎた態度。


(お悠が松親を苦手と言った理由は、

 これなのかもしれない。


 これが……違和感の種か?)


だがすぐに思い直す。


松親は子供の頃から知っている。


(薄情ではあるが、

 そこまでの悪党ではない。


 いや、しかしだ。


 悪が悪事を犯すとは限らない。


 強く善を信じる者こそが、

 その強い信念で、

 悪事を犯すことが多いのも現実だ。


 現代においても、戦争は大抵それだ。

 もしかしたら、 それが人の本質かもな。


  薄情な奴ほど特に。


 まさかな……)


「おっと」


秀政は歩き出した。


「皆を待たせている」


振り返る。


「松親も上段の間まで来い」


「は!」


松親は深く頭を下げ、

その後に続いた。



秀政たちが到着した時には、

すでに芋粥家の面々が揃っていた。


那古野城、上段の間。


家臣たちは皆、主の到着を待っている。


松親は政成の隣に座る。


そして、秀政が上座に立つと、

家臣たちは一斉に頭を下げた。


そのまま秀政が座る。


「皆、面をあげよ」


畳に向いた顔が、一斉に上がる。


秀政が真剣な顔から、急に笑みをこぼす。


「お前たちが知りたいのは、

 俺がこの論功行賞で受けた褒美のことだろう」


村瀬が悪びれず答えた。


「その通りです!

 焦らさずに教えてくだされ」


秀政は渋い顔を作る。


「残念ながら、この那古野は取り上げられてしまった。

 俺がこの席で話をするのはこれが最後だ」


皆が驚くが、お悠が真っ先に反論した。


「なぜにございますか!

 弥八様は誰よりも、長島攻めに貢献しました。


 そしてあの武田の赤備えも撃退したのです!」


皆も同じことを考えていたのだろう。


「そうだな。だが長島の仕置で、

 随分時間がかかってしまった」


松親も不服そうに反論する。


「大殿様の気が知れぬ。

 それは滝川様の不手際であろうに!」


そこで秀政が、またニヤリと笑顔を作った。

それで皆は察した。


これは驚かせるための前置きだと。


「だから少々渋めの褒美だが……。


 俺は伊勢太守に任じられた」


皆が一斉に目を丸くする。


「太守?」


お悠が素直に疑問を口にする。

秀政は微笑みながらそれに答えた。


「唐風の言い方だな。


 守護でも国主でもない。


 だが、殿が俺に伊勢の領有を認めた。

 伊勢には北畠が残っている。


 それを討ち、切り取る自由もある。

 近隣諸国さえ、切り取り自由だ。


 殿が捻った言い方をしたまで。


 つまり、太守とは……。


 未だ実を伴っていない、

 名ばかりの国主ではあるが、

 励めばいくらでも攻め取れる――


 伊勢の戦国大名じゃ」


「だ、大名?!


 城代でもなく、国持ち大名?!」


驚かされる覚悟は皆していたが、

それ以上に度肝を抜かれた。


政成、お悠が涙ぐむ。

浅野も震えた。

村瀬は口を開けたまま固まった。


「とは言っても織田家に連なる大名じゃ。

 裁量権は今までと比にはならぬが、

 殿の家来であることに違いはない。


 まず伊勢を平定し、

 その後は志摩、伊賀、大和、紀伊を討てと。


 南近畿の軍団長よ。


 いずれは大大名になるわけだ」


「「だ、だ、大大名!?」」


皆が綺麗に合唱した。


「皆の扶持は大きく見直す。

 それと役割もな。


 那古野を手放すのは惜しいかもしれん。

 だが、今は長島戦役で荒れてはいるが、

 伊勢は元々肥沃な土地だ。

 何しろ、海がある。


 商業を発展させ、土地を開き、

 湊を大きくする。


 やることも多ければ、

 そこから得られる富も桁違いぞ!」


政成も嬉しそうに呟いた。


「それはやりがいがありますな」


秀政は立ち上がった。


「皆の者、引っ越しじゃぞ!」


「おぉ!」


こうして芋粥秀政は、

伊勢太守として歩み始めた。

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― 新着の感想 ―
そういえばこの時点での大和国は松永と筒井が支配権を争っている感じなのでしょうか。その場合、織田はどちらを味方だと判断している時期なのか。紀伊は根来や雑賀が厄介そうですし、芋さんも大変だけど作者さんも信…
泣いて松親を斬ることになるな。
この先もしも頭の切れる歴史的ネームド武将が家臣になった時、松親の化けの皮が剥がれる未来が、作品的にわざとネームド武将は入れて無いのがなんとなく分かりますが、そろそろ知識階級である坊主を相手にするならぽ…
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