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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第七章 伊勢惣奉行編(躍進編)

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第百十一話 天下布陣

天正二年、三月一日。


岐阜城にて長島一向一揆の論功行賞が執り行われた。


これは長島に限らず、

ここまでの功を論じる場であった。


そのはずだった。


岐阜城・上洛殿。

最も格式の高い謁見の場である。


織田家を支える諸将が集う。


信長が諸将に向けて口を開いた。


「この場は、論功にあらず。


 長島の戦は終わった。

 だが、天下はまだ我が手に落ちてはおらぬ。


 ここより先は、功を数える場ではない。


 織田がいかに攻め、いかに治め、

 いかに天下を掴むかを示す場である。


 よく聞け。


 これより諸将には、それぞれの道を与える。

 その道こそ、織田の未来を切り開く刃である」


「「は!」」


皆が力強く応える。


信長は一拍置き、諸将の顔を順に見据える。


「権六。


 北陸攻めの総司令とする。

 越前を固め、加賀・能登を討て。


 北国の乱れは、そなたの手で鎮めよ」


柴田は顔を上げ、一際大きな声で応じた。


「承知!

 お任せくだされ!」


信長は続いて、明智光秀を見下ろす。


「光秀。


 丹波を平らげよ。

 その後は北近畿の総司令とする。


 石山本願寺を挟撃せよ。

 そなたの才は、山陰・山城を繋ぐ要となる」


光秀も真剣な眼差しで返事をする。


「承知仕りました。

 期待は裏切りませぬ」


秀政は平伏したまま考え込む。


(明智殿も一年ほど前倒しか。

 これも俺の影響か……)


信長は続けていく。


「五郎左


 越中太守とする。


 越中は切り取り次第と心得よ。

 その後は権六を助け、北陸を固めよ」


「ははっ!

 お任せあれ」


秀政が引っ掛かる。


(ん?前倒し以前に、越中“太守”?


 ……唐風か。


 守護でも国守でも大名でもなく、

 敢えてそう言ったのは、

 “一国を預ける”という殿なりの言い回しか?


 だが、まだ敵の領地は殿の物でも我らの物でもない。

 “切り取れ”ということだな。


 先に名をやる。

 それを実とするのはお前次第。


 勝ち取るまでは、絵に描いた餅――

 そういう意味か。


 確かに守護でも国守でも大名でもない、

 微妙な位置付けには相応しい役職か。


 実に殿らしい、

 ひねくれた言い方だ。


 まぁ、丹羽殿なら柴田殿と組んで、

 切り取っていくのだろうがな)


「秀吉。


 若狭・丹後・但馬を押さえよ。

 その先は中国攻めの総司令とする。

 西国の道は、そなたに託す」


「ははぁ!

 お任せくだされ!」


 さっさと平定してみせまするぞ」


(あぁ、これか。

 秀吉の言っていた通りだな。

 殿は前倒して中国を見据えている……

 ということだな)


「右衛門尉。


 花隈を拠点とし、石山本願寺に当たれ。

 本願寺を揺さぶり、畿内の乱れを抑えよ」


「は!承知しました!」


秀政が気の毒そうに佐久間を見つめる。


(佐久間の追放フラグは残っているみたいだな……)


「左近。


 伊勢北部を返上し、美濃東部を加増して与える。


 甲信の総司令とし、武田に当たれ。

 そしてゆくゆくは、関東まで手を伸ばせ。

 東国の道は、そなたの働き次第よ。」


「はっ!

 お任せください!」


秀政の中で嫌な予感が走る。


(え?

 もう滝川殿は武田攻め?

 だいぶ早くないか?


 殿は武田を早期に牽制するつもりか……


 ん?伊賀は?)


「備前。


 伊勢太守とする。


 尾張那古野は返上せよ。

 伊勢を切り取り、南近畿の総司令となれ。


 伊勢・志摩・大和・伊賀・紀伊の道は、そなたに任せる。」


「は!

 お任せあれ!」


(え?

 伊勢太守?


 つまり丹羽殿と同じか。

 南伊勢を切り取れ、

 北畠を根切りしろということか。


 あれだけ整えた那古野を奪うのか?


 とはいえ、城代ではなく、伊勢一国か。

 国持ち大名になるのは嬉しいな。

 独立性はないに等しいが……。


 ん?いやいや、待て待て。


 伊賀は罰ゲームだろう。

 滝川殿に振ってくれ。


 俺か?マジか?)


冷や汗をかく秀政をよそに、

信長は最後に、静かに言い放つ。


「これが織田の布陣である。


 天下は、もはや遠き夢にあらず。

 各々、己が道を進め。


 遅れた者は捨て置く。


 各々、切り取りに励め。

 働き次第にて知行は増すものと思え。


 以上だ」


「「ははっ!」」


諸将が一斉に平伏する。


その直後――

信長は一歩も迷わず立ち上がり、

側近の森蘭丸だけを従えて静かに退出した。


その背中に、誰一人として声をかける者はいない。


信長が完全に姿を消してから、

ようやく諸将は顔を上げ、

互いに小さく息を吐いた。


最初に顔を上げたのは柴田勝家だった。


「……ふぅ。殿の言葉は、

 いつ聞いても腹に響くわ。


 だが、やることは明白よ。

 加賀も能登も、まとめて叩き潰すまでよ!」


豪快な声が大広間に響き、

重苦しい空気が少しだけ和らぐ。


「権六殿は相変わらず剛毅ですな。


 越中は私が切り取りますゆえ、

 どうぞご安心を。」


丹羽長秀が柔らかな笑みで場を整える。


すると、その隣で明智光秀が静かに口を開いた。


「北陸は、権六殿と五郎左殿がおられれば盤石でしょう。


 私は丹波を整えた後、

 北近畿の取りまとめです。


 本願寺……これが厄介ですな」


光秀の声は穏やかだが、

その目は鋭い。


「石山本願寺を挟み撃ちにするならば、

 丹波の平定は急がねばなりませぬ」


それを聞いた柴田が豪快に笑った。


「ははは!

 明智殿は相変わらず細かいのぉ!


 わしは敵を見つけたら叩くだけよ!」


その空気を割るように、

秀吉が身を乗り出した。


「いやいや、権六殿。


 これからはただ叩くだけでは

 天下は取れませぬぞ」


にやりと笑う。


「若狭、丹後、但馬――

 まずはあの辺りをまとめて押さえますわ。


 そこから西へ、西へと進めば――

 中国はすぐ目の前じゃ」


柴田が腕を組む。


「ほぉ、猿のくせに随分と威勢がいいのぉ。

 調子こいて恥をかくなよ?」


秀吉は肩をすくめた。


「なに、殿が“任せた”と言われた以上、

 やるしかありますまい」


その時、

低い声が割り込んだ。


「猿……口で言うほど、

 西国は甘くないぞ」


佐久間信盛だった。


腕を組み、

秀吉を睨む。


「本願寺を抑えねば、

 畿内はいつまでも騒がしい。


 花隈から叩き続けてやるわ」


秀吉が笑う。


「それは頼もしい。


 わしが西を攻める頃には、

 本願寺も弱っておるでしょうな」


「当たり前だ」


信盛は短く言い切った。


その横で、

滝川一益が静かに口を開く。


「甲信か」


腕を組む。


「武田が相手となれば、

 簡単には終わらぬな」


柴田が笑う。


「だが左近ならやるだろう」


一益は小さく頷いた。


「やるしかあるまい。


 殿は“関東まで伸ばせ”と言われた」


わずかに笑う。


「ならば、

 そこまで行く」


頷きつつ、秀吉が秀政の方を向いて茶化す。


「芋、おみゃーが一番、楽そうやのぉ。


 伊勢は潰れかけの北畠じゃ。


 伊賀は大名がおらんし、大和は織田に従属しとる」


困った顔で秀政も返す。


「まぁ、伊勢は早々に切り取るつもりだが、

 伊賀は厄介だぞ。


 あそこは踏み込んだらいかん魔の地だ」


「また芋の臆病風がでたか、はっはっは!」


「ぬかせ。そんなことを言ってると、

 お前が一番こけるぞ?」


「そんなことあるか!

 まぁ、勝負じゃ、芋!」


その空気を、

柔らかな声が静かに整えた。


丹羽長秀だった。


「ははは。

 皆、気が早いことですな」


諸将を見回す。


「殿は道を示された。


 あとは――」


ゆっくりと言った。


「各々が、その道を進むだけでござろう」


柴田が大きく頷く。


「おう、その通りじゃ!」


秀吉も笑う。


「よし、では西はわしが頂く!」


滝川が腕を組む。


「甲信は任せよ」


光秀は静かに頷く。


「丹波は必ず平らげましょう」


秀政も呟く。


「俺も南近畿を治める。

 負けてはおれん」


丹羽が最後に言った。


「では――


 各々、任地へ戻りましょう。


 殿の天下を広げるために」


諸将がそれぞれ頷く。


戦国を切り開く強者の群れが、

ゆっくりと動き始めた。

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― 新着の感想 ―
芋粥さんがこの小説の主人公だから秀吉の浅井嫡男への愚行はなかった事になっているのか、それとも伏線でなにかあるのか。 あんな愚行は本当になかった事にして進んだほうが良いとは思うますけど…難しいところです
近江、山城、河内、和泉、恐らくこれらは織田の直轄地になる。 とすれば、上手くやれば安全な道を迂回させてもらい、必ず挟み込む形で戦えるし、危うくなったら逃げ込ませてもらえるかも。 もしかして、急がなけれ…
伊勢から南って航路としては必要だけど土地としては要らないよねぇ リアス式海岸のせいで湊が作りづらく海賊多い そのせいでろくに発展して無い貧しいから人が資源になって傭兵が多いという悪循環
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