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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第七章 伊勢惣奉行編(躍進編)

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第百六話 長島大戦、開戦

九月。


長島。

木曽川と長良川に挟まれた湿地帯。


集結した七万の織田の軍勢、

かつてない規模の大軍である。


だが、信長は命じた。


「正面から攻めるな」


湿地帯、堤、水路。


長島は天然の要害だった。

正面突破をすれば、損害は大きい。


だから――

包囲し、兵糧を断つ。

逃げ場を消す。


最後に焼く。


これが信長の戦だった。



まず動いたのは北の柴田勝家。


重装の槍隊、鉄壁の軍が、

北側の堤防と土手を押さえる。


門徒が最も出てくる可能性の高い場所。


柴田の軍は動かない。

ただ、立つ。


槍を揃え、


盾を並べ、


堤を塞ぐ。


門徒が突撃してくれば、

ここで受け止める。


鉄の壁だった。



西の丹羽長秀。


戦の名人ではない。


だが――

戦を作る男。


湿地帯、ぬかるみ、泥。


そこへ道を通す。


杭、板、石。


兵が踏み固める。

湿地が道に変わる。


さらに柵、塀、土塁。


夜襲を防ぐための囲いが次々と築かれていく。


包囲線は、

ただ囲むだけではない。


守らねばならない。

丹羽はそれを知っていた。



南の羽柴秀吉。


土木の天才。


堤を築き、橋を架ける。

湿地に人工の道を作る。


兵が渡れる。

荷車が通る。


補給が止まらない。


秀吉の工事は、驚くほど速い。

昼に杭を打てば、

夜には道が出来る。


南側の包囲は、

完全に閉じられつつあった。



東の佐久間信盛。


役割は監視、包囲線の維持。


地味な仕事。


だが――

最も重要な仕事。


ここが崩れれば、

門徒は逃げる。


だから、

動かない。


陣を張り、

見張りを置き、

夜も火を絶やさない。


静かな包囲。

東の空気は、常に張り詰めていた。



そして――

遊撃。


滝川一益。


北伊勢を知り尽くした男。


水路、干潟、複雑な地形。


そこを自由に動く。


門徒が突破を試みれば、

そこへ現れる。


叩く、追う、消える。


機動部隊。

包囲線の穴を埋める刃だった。



そして――

芋粥秀政。


伊勢惣奉行にして、兵站総責任者。


七万の軍勢。


その補給線は、

一度も止まらなかった。



こうして長島は囲まれた。


北、柴田。


西、丹羽。


南、秀吉。


東、佐久間。


その外を滝川の遊撃が巡る。


そして海――

九鬼水軍と白子水軍が伊勢湾を封鎖していた。


陸も、海も、逃げ道はない。


長島。

一向一揆最大の拠点。


その島は、

巨大な檻の中に閉じ込められていた。

秀政は高台から戦場を見渡す。


「……押しの一手だな」


お悠が隣で言う。


「包囲殲滅戦にございます」


秀政は頷く。


「門徒は飢える」


そして最後に言った。


「戦は、これからだ」


長島大戦。


その幕が、

静かに上がった。



滝川一益から、秀政のもとへ使いが来た。


「芋粥様、滝川様より援軍のお願いがございます」


秀政はすぐに陣を訪れる。


滝川は水路図を広げながら言った。


「厄介な敵がおる」


「どのような?」


「船に乗った鉄砲隊だ」


水路を指でなぞる。


「小早で縦横無尽に動き回り、

 近づいて鉄砲を撃ってくる。

 撃てばすぐ逃げる」


秀政は頷いた。


「なるほど」


「動きが素早いゆえ、弓では上手く狙えぬ。

 追えば水路へ逃げる」


滝川は秀政を見る。


「備前殿は鉄砲足軽を九十丁連れてきておると聞いた」


秀政は答える。


「はい」


「奴らを牽制してほしい」


秀政は即答した。


「承知しました。ではすぐに準備して参ります」



自陣に戻る。


お悠は兵站責任者として陣中にいた。

一際目立つ。


前線だ。


鎧姿である。


黒漆の胴丸。

胸元には芋粥家の抱き沢潟紋。

女性の体格に合わせ、

腰回りをやや細く絞った小札重ねの当世胴。


漆黒の光沢は、戦場の空気を切り裂くように鋭い。


肩は動きやすいよう、大袖ではなく小袖板。


髪を後ろで結い、

鉢金で押さえ、

黒漆の陣笠をかぶる。


濃紺の袴。

黒漆の脛当て。


腰には短めの打刀。


凛々しく、美しい姫武将であった。


(こんな危険な場所にお悠を連れてきたくはなかった。

 だが、言うことを聞かん。


 しかし……お悠が居てくれる。


 ただ、これだけで戦場で勇気が湧いてくる)


秀政はお悠の元に向かった。


「お悠、俺は出陣する」


お悠はあからさまに心配そうな顔をする。


「え?あ、はい。ご武運を」


「大丈夫だ。危険のない戦いだ。

 それよりも兵站は任せるぞ」


危険がない。その一言でお悠の顔も少し緩む。


「はい、お任せください」


秀政が言う。


「では行ってまいる。頼んだぞ」


お悠は一礼する。


「はい! 弥八様も必ず生きて戻ってください」


「もちろんだ」



秀政は尾張から、鉄砲名人の火野甚四郎正種と

九十丁の熟練鉄砲隊を連れてきていた。


だが、そのまま並べはしない。


七十丁、

そして二十丁に分ける。


二十丁は撃たない。


装填だけを行う。


撃つ者は七十。


二十丁分は装填役が次々に銃を渡す。


火野が撃つ。


すぐ次の銃。


撃つ。


また次。


火野は装填を意識することなく、連射できる。


回転式速射陣だった。



やがて水路の向こうに影が現れる。


小早。


五隻。


船の上には三人の鉄砲足軽、

多数の弓兵、

そして船頭と漕ぎ手。


船は滑るように動き、

滝川隊へ鉄砲を放つ。


機動小早鉄砲隊――

厄介な敵だった。


そこへ芋粥隊が到着する。


秀政が火野を見る。


「敵の鉄砲の射程外から、鉄砲足軽を撃ち抜けるか?」


火野は即答した。


「行けます」


火野は地面に伏せる。


左肘。

右肘。

銃床。


三点で体を支える。


国友流、三点伏射。


銃を安定させ、反動を逃がす射法だ。


五十間。

この距離でも当てられる。


対して敵の鉄砲は、

三十間まで近づかなければまともに当たらない。


通常の足軽が木盾を構え、

鉄砲隊の傍に立ち、矢に備える。


小早が近づく。


五十間。


火野が銃を受け取る。


撃つ。


轟音。


船の鉄砲足軽が落ちた。


次の銃。


撃つ。


また一人。


装填役が次を渡す。


また撃つ。


鉄砲の音が連続する。


二十丁の回転式速射。


五隻の小早の鉄砲足軽が次々と撃ち抜かれる。


続いて七十丁の鉄砲隊が火を噴く。


船頭。


弓兵。


次々に倒れる。


小早は動きを失った。


その瞬間――

滝川隊の弓兵が矢を浴びせる。


矢の雨。


長島が誇る機動小早鉄砲隊が、

わずかな時間で沈黙した。


秀政が頷く。


「よし、これで役目は果たした」


振り返る。


「退くぞ。

 前線は何が起こるか分からん」


芋粥隊は颯爽と引き上げた。


戦場に長く留まらない。

それが秀政の戦だった。



遠くから滝川がそれを見ていた。


鉄砲の連射。

沈む小早。


滝川は思わず唸る。


「備前殿……」


小さく笑う。


「良い鉄砲隊をお持ちだ」


こうして織田軍は、

静かに長島を圧倒していく。


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― 新着の感想 ―
芋粥はんが、上上下下左右なコマンド地面に書いてて、殿、これは何でござるな質問に、無敵、とかなやりとりないかなあ、なんて妄想。ついでに伝説の樹の下なお迎えを奥方にやってもらって、、、(笑)奥方にあのきの…
機動小早鉄砲隊、戦況を打開出来る可能性を秘めた部隊が瞬殺 「ぜ、全滅!?機動小早鉄砲隊が全滅!」 まるでリックドムを失ったコンスコンの気分でしょうね
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