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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第一章 足軽組頭編

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第一話 芋粥秀政、爆誕

挿絵(By みてみん)

芋粥 秀政は自分の名字が嫌いだった。


いもがゆ。


初対面で必ず一瞬、間が空く。

そして大抵が笑われる。


「珍しい名字だね」


そう言われる時は、まだマシな方だ。

小学生の頃は給食のたびに言われた。

高校では“芋”が正式なあだ名になり、大学では自己紹介をやめた。


外に出る理由は、もうなかった。


代わりに秀政が引きこもったのは、戦国時代だった。


『信長の野望』の新武将作成。

名字は必ず――芋粥。


能力は盛らない。

現実的な数値にする。

それでも、秀政は毎回、天下を取った。


笑われる名字ほど、縛りプレイは燃える。

どう勝つかを考えるのが、楽しかった。


ゲームをしていない時は本を読む。

東海地方の戦国史だ。

桶狭間だけじゃない。

名も残らない小競り合い、落城、調略、色々だ。

いずれ東海地方に限らず戦国時代全般にハマり込む。


足りない時は、Wikipediaだ。

細かい合戦、城跡、家臣団の動きにとどまらない。

内政、戦国時代の技術、海外の状況、気になることは全て調べて覚えた。


もし、自分がゲームのように戦国時代に立てば……。

絶対に上手くやる。


肥料や医療、治水に農政、制度、商売、この時代の常識。


こんな政治をする。

こんな技術を開発する。

こんな風に立ち回る。

そして天下を取る。


そのためのあらゆる知識を得るのに、有り余る時間を全てつぎ込んだ。


妄想するだけで――

気付けばいくらでも時間が経っていた。



その日、親はいなかった。


夕方になって、腹が鳴った。

カップ麺もない。

冷蔵庫にも手軽に食べられそうなものがない。


「……コンビニ行くか」


久しぶりに玄関を出た。

外の空気が、妙に冷たかった。


道路に出た、その時だった。


飛び出した猫。


それを避けようとして、トラックがハンドルを切るのが見えた。


――そこまでは、覚えている。



次に目を開けた時、秀政は野っ原の真ん中にいた。


アスファルトはない。

電線も家もない。


風に揺れる草、遠くに見える低い丘。

一瞬にして全く別世界に移動した。


「……は?」


声に出して、ようやく分かった。


(ここは俺の知る現代じゃない)


「まさか……異世界転生?」


そして――

新武将、芋粥 秀政。

戦国時代の現実世界に爆誕である。


戦国時代に爆誕。


……いや、そんな軽い話じゃない。


目を開けると、遠くに赤い光が見えた。

火事だ――そう思った。


違う。


村が――焼けている。


黒煙が空に伸び、火の粉が風に流されている。


「……は?」


無意識に足が動いた。


近づくにつれ、それが“火事”なんて生易しいものじゃないと分かる。


人が逃げている。

倒れている。

斬られている。


虐殺だ。


あれは――旗。

見覚えがある。


「……今川?」


頭が追いつかない。


(異世界じゃない?

 映画のロケか?

 ドッキリか?)


そんなはずがない。

あまりにリアルだ。


今川の騎馬隊が村を蹂躙し、何事もなかったように走り去っていく。


今川勢が走り去ると、村から人の声が消えた。

そして燃える音だけが残った。


村に入った瞬間、血の匂いが鼻を突いた。


(現実か?やっぱりマジみたいだな)


吐き気をこらえていると、向こうから一人、農民が走ってくる。


「弥八!

 大丈夫だったか?!」


(……え?)


「みんな死んじまった。

 お前のおっ父も、おっ母もだ!」


言葉が耳を素通りする。


「俺んとこももうダメだ。

 おらぁ、清須に行くだ!

 また今川が来るかもしんねぇ!」


男は一息にまくし立て、振り返りもせず去っていった。


「待て!今年は何年の何月だ?」


「永禄三年の五月だぁ。弥八、大丈夫け?」


そこまで言うと逃げるように走り去っていった。


(……弥八?俺が?)


ここまでの情報が全部繋がった。


(ああ。

 そういうことか)


「……これが――

 噂の戦国転生ってやつか」


辺りを見渡す。


知っている顔はない。

秀政のことを知る者ももういない。


この世界の家族も死んだ。

知らない世界に飛ばされて、いきなり頼れる相手がいなくなった。


(――ふっ)


それでも、思わず笑いが漏れた。


「よし」


腹の底から声を出す。


「俺は、芋粥秀政!」


野っ原に向かって叫ぶ。


「天下人だーーー!」


誰も聞いていない。

だが、それでいい。


新武将・芋粥秀政。

初期イベントは最悪だ。


――だが、いつもの芋粥プレイなら、ここからだ。


桶狭間直前の織田領、出世の匂いしかしない!

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― 新着の感想 ―
私は学校ガチャ外したので、主人公の悩みはリアリティがあると感じました。レア苗字発祥の地元などと、珍しがるヤカラの住む土地で事情は同じではないですからね。親が引っ越してから大人の(大人だからまともかはと…
>足りない時は、Wikipediaだ いや……せめて図書館に…
>足りない時は、Wikipediaだ。 ちょっと笑ってしまった wikiに書いてある参考文献を読んだとかならわかるけど本の次にwikiは薄いでしょ
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