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第37話 2回目のデート(その13)

「月見里さん、あそこにクレープ屋さんがあるよ」

「本当だわ。キッチンカーが出店しているのね」


 仁は2人が座っているベンチから少し離れたところに、キッチンカーが止まっているのを見つけた。その車はクレープを売る移動販売車で、家族連れや、カップルがクレープを買うために並んでいた。


「月見里さん、行こうか?」

「気を遣わせてゴメンなさい。ここは私が奢るわ」

「月見里さんは財布を出さなくても良いよ。ここは僕が奢るから好きなものを頼んで良いよ」


(クレープぐらいなら、何とか私の手持ちのお金で出せたのに、気を遣わせてごめんなさい。はぁ、でも、こういう台詞がすぐに出る兼田君ってステキだわ)


 頼子は、仁にお金を出してもらってばかりいたため、細やかでもお返しをしようとしたが、自然な流れで仁が柔らかく制止した。


「いっぱいあるわね。どれにしようか悩むわ」

「本当だ。クレープって奥が深いんだな。知っているものから、良くわからないものまでたくさんあるんだなぁ」


 キッチンカーの前にはメニューの書かれたボードが立てかけてあり、そこには名称、写真、価格がわかりやすく掲示されていた。


「少しお高い価格設定のクレープもあるんだね。キャビアはチョウザメの卵というのはわかるけど、シュールストレミングって何だろう? 月見里さんは知っている?」

「いえ、わからないわ。他のクレープより高い設定だから美味しいのかしら? 写真を見る感じだと魚? かな?」


 仁と頼子はシュールストレミングクレープの写真を見ながら、価格の高い謎のクレープに興味を持った。


「すみません、シュールストレミングって何ですか?」

「お客さん、なかなか良いものを見つけましたね。シュールストレミングとは、ニシンを塩水で付けたものです。少々癖がありますが、慣れるととても美味しく食べられるんですよ」


 仁が謎の具材について店の人に尋ねると、男性店員は丁寧にどのようなものか説明した。


「僕はこれにしてみようかな。月見里さんはどれにする?」

「そうねぇ。イチゴクリームでお願いしようかな」


 2人は注文するクレープを決めた。


「すみません。シュールストレミングクレープとイチゴクリームクレープをお願いします」

「くっ、くっ、くっ、ありがとうございます。すぐ作りますのでお待ちくださいねぇ」


 注文を受けた店員は、頼子が注文したイチゴクリームクレープから作り始めた。


「はい、おまちどおさま。先にイチゴクリームクレープね」

「ありがとうございます」

「さて、次は彼氏さんのを作りますね」


 頼子はイチゴクリームクレープを受け取り、続いて店員は仁が注文した品を作ろうとした。


「今戻ったわよ。って、アンタ、何を作ろうとしているの?」

「何って、シュールストレミングクレープだよ」


 そのとき、外出していた女性店員が戻ってきた。男性店員に対して作ろうとしていたものを尋ね、答えたところで女性店員の顔色が変わった。


「アンタ、デート中のカップルにそんなネタメニューを出すんじゃないわよっ」

「・・・やっぱりそうだよな。申し訳ない。シュールストレミングは売り切れました。他のものをご注文ください」

「え?」


 この2人の店員は夫婦のようであった。女性店員に叱責された男性店員は、仕方なく仁の注文をキャンセルして、他のものを頼んで欲しいとお願いしてきた。

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