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第35話 2回目のデート(その11)

「兼田君、もう大丈夫よ」

「本当に大丈夫?」

「ええ、心配させてゴメンね」


 頼子はベンチに座って休憩したことにより、呼吸が安定し動けるようになった。そのことを仁に伝えると心配そうな表情を浮かべたため、頼子は安心させるように立ち上がり、ベンチに座っていた仁に向かって元気さをアピールした。


「また辛くなったら遠慮なく言ってね」

「ええ、わかったわ」

「それじゃ公園内を散策しようか」


 中央公園は、木々が生い茂り自然豊かな公園として整備されている。面積も街中にある公園としては比較的大きな規模を誇り、仁や頼子のように散策する者、子供と一緒に遊ぶ家族連れ、ジョギングなど運動に励む者など、それぞれの利用方法で活用していた。


「久しぶりに来たけど、あまり変わっていないわねぇ」

「僕も小さなときに来た以来かな。夏なんてカブトムシ取りとかしていたよ」

「へぇ。そうなのね。確かあの木の樹液に集まるのよね?」

「よく知っているね。あれはクヌギの木だけど、今は丸いどんぐりが取れるんだよね」


 頼子は幼い頃の音羽を連れて休日にたびたびこの公園を訪れていた。その頃を懐かしんでいると、仁から子供の頃の思い出を聞かされた。


「あまり気にしていなかったけど、この丸いどんぐりってクヌギだったのね」


 頼子は足元に落ちていた丸いどんぐりを1つ拾い上げて観察していた。


「そうなんだよ。丸いどんぐりはよく知られているけど、名前まで知っている人って少ないのかもしれないね」


 どんぐりを見ている頼子に、仁は丸いどんぐりについて語った。


「あら、小さな穴が空いているわね」


 頼子は、手に持っているどんぐりに不自然な穴が空いているのを見つけた。


 コンニチワ


「キャーッ! むっ、虫っ!」


 頼子がその穴を見ていると、中から白いイモムシが顔を出した。それに驚いた頼子は、手にしていたどんぐりを投げ捨てて仁に抱きついた。


「だっ、大丈夫?」

「ええ、ちょっとビックリしただけ。あっ!」


 心配する仁に対し、頼子は安心させるため顔を上げ、大丈夫だと伝えた。すると目の前に仁の顔があり、頼子は思わず見とれてしまっていた。


(よく見ると月見里さんの顔って整っていて綺麗だなぁ。このプリッとした唇なんか目が吸い寄せられそうだ)


 仁も、目の前に頼子の顔があり、その美しさに見とれてしまっていた。


「兼田君」

「月見里さん」


 頼子は両目を閉じて何かを待っているようであった。女性経験のない仁であっても、これは何を求めているのか容易に想像できた。


「ママー、見て、あの2人、チューしようとしているよ」

「こら、見てはいけません」


 良い雰囲気になっていた2人に対し、小さな子供が声を上げた。すると一緒にいた母親が慌てて子供を止めようとしていた。


「「あっ!」」


 2人はその言葉で我に返り慌てて離れた。


「「あはははは」」


 そして一定の距離を保ったところで、仁と頼子は場の雰囲気をどのように保てば良いのか悩んで空笑いをした。


(わ、わ、私ったら、場の空気に流されて、な、な、何て言うことをしようとしていたのっ、相手は娘と同じ年代の子よ)


 頼子は場の雰囲気に流され、思わず大胆な行動をしてしまったことを反省した。


(抱きついてきたときの月見里さん、凄く柔らかかった。それにあの子が声を出さなかったら、そのまま……あうっ)


 一方、仁は頼子が抱きついてきたときの柔らかさを思い出し、そのまま行けばファーストキスになるかもしれなかったと考えると、恥ずかしさで顔が赤面してしまった。

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