言い訳「君が願うのならば要らない人」――紫の供述
私が欲しかったのは、本当は何だったのか、今でも判りかねている。
体だったのか、心だったのか、今も判らない。
ゆっくりと指を滑らせるお前の肌――お前はくすぐったそうに「やめて」と笑う。
やめろと言うのならば、と手を離せば、不満そうな表情が戻ってきたから、首を傾げる。
「オルカだとしても、やめろと言われたらこうすると思うが――?」
耳元で囁き、私がオルカの代理品であることを強調する。
そういう契約だ――この人にとって、私は決して手に入らないオルカの代わりなのだと。
昔からオルカとは似ていた。
オルカを残虐にして、色香を増したのが私だと周囲は興奮していた。
この国では、優しさなど意味を持たない。
優しさは性癖では特別必要ない、この国で必要なのは残虐性と色香、それと見目の美しさ。
それだけあれば良いからと、国民は私を熱望した――私の薔薇は紫、色町の次期国王。
オルカを真似て黒に染めた部屋を見渡し、相手の女性を黒いベッドに腕で縫い止める。
「どうして、欲しい?」
そんなの言葉にしなくても判っている――だが敢えて言わせるのが浪漫というもの。
女性は泣きながら、口にする。
『殺して欲しいの』
女性のか細い声に、そうきたか、と自嘲しそうになる。
先日、従姉妹――姉様であるエミリ様を殺したのは私だ。
何もかもこの女性欲しさに、殺した。
この女性が望むのであればと。最初は単純に、オルカに惚れた女の哀れな行く末を同情しただけだった。
エミリ様が死んでも、オルカの薔薇は手折れなかった。
エミリ様を自国に繋ぎ止め、二人だけの世界を作り上げ、この女性は自ら二人きりになる世界を逃してしまったのだ。
二人が結ばれる日を、作り上げてしまい、自責に駆られている――。
「お前は、我が儘を言っているのは自覚しているね?」
『あの人が欲しいの』
「――……お前の国の性質上、決して結ばれないよ、聖女様」
わざと言ってやる、お前は清らかな国の乙女でないといけないのだと。
甘い声にたっぷり毒を孕ませて告げると、聖女様はぐすぐすと泣き出したから、愉快だ。
泣いている間は、オルカのことではなく、私のことを考えているのだと感じ取れる瞬間だ。
「あいつの国は、死の国――判るな?」
それから、お前もオルカの幸せを願うふりして、嫉妬で殺しを依頼したのも。
「黄色いのは全てお見通しのようだよ、否、オルカとエミリ以外はだな」
『どうしてそんな意地悪言うの?』
「――なぁ、クリスティーナ。よく考えて欲しい、私との婚約を、もう一度。
そうすれば冷静になるはずだ、お前がどうしたいのかも、お前が何を願っているのかも」
それから、私が何を考えているのかも――。
お前は本気になったら、欲しい物全て手に入るはずだよ――?
お前は本気を見せれば良い。
私はお前の本気になる姿が一番見たいのだよ――。
臆病で卑怯な薔薇の遣り取りがまだまだ続く。
ああ、懺悔するつもりはない。
私は私の欲のままに生きた、それに皆が賛同し、罪から逃れた。
それが現実での答えならば、正解だったのだと錯覚しても良いだろう?
私は、私自身をあの件に関しては卑怯で臆病だとは思わない――。
まぁ、私と白薔薇だけの秘密だけどな――?




