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温かい目で見ていただけたら、幸いです。



ヘーベルは、口から大きく息を吐き出す。

その姿は、鬼や悪魔を思わせ、キューは幻獣でありながら、ぷるぷると震えている。



「ご、御主人様……。な、何故そんなに怒ってらっしゃるのですか? 私が何か粗相を」

「いや、お前に罪はない……。お前が、男だから……。私は、決めたんだ。次会った男は、必ず殴ると」



じりじりと詰め寄ってくるヘーベルの手を挙げて、降参のポーズを取るが、ヘーベルの顔つきは変わらない。



「わ、分かりました。御主人様、私が女ならいいのですね?」

「あぁ?」

「お忘れですか? あのクソバ……こほん。ブラド様がおっしゃっていたように私達には、人のような性別はありません。つまり、どちらにでもなれるのです」



キューは、印を結び強く何かを念じると、煙がポンッと身を包み、姿が変わる。

その姿は、先程のイケメンと呼ばれる美形の男とは違う。自分の身の丈より、少し大きな和服を着た少女となっていた。髪は、ヒマワリのように鮮やかな金髪。その髪の中の一本が、ぴょこんと立っておりお尻からは、触り心地よさそうな尻尾が生えている。自分の姿を確認するかのように、頭や尻尾をぽふぽふと触り、小さくため息をつく。



「ご、御主人様……。あの、これでお気に召しましたか……?」



自分の姿に恥ずかしさを感じているのか、頬をほんのりと赤く染めてモジモジとしている。その姿にヘーベルは、胸の奥底がキュンと締め付けられる。



「キューちゃん、おいで」



ヘーベルは、膝を降ろし、両手を広げるように迎え入れる素振りを見せる。キューの顔が、ぱぁっと明るくなり、ヘーベルに飛び込んでいく。



「御主人様~!」

「よしよし、ごめんね。頭突きなんかしちゃって」

「私こそ申し訳ございません。御主人様が、そこまで男性が苦手とは知らず……」

「ううん、気にしないで」

「あの……その。おでこ……まだ痛むので」



キューは、上目づかいにお願いする。勿論、ヘーベルは自分がケガをさせてしまった負い目もあるので、了承する。



「ふぅ~……。い、痛いの痛いの~飛んでけ~」

「ありがとうございます。もう痛くなくなりました」



キューは笑顔を見せ、ヘーベルに抱きつき、その柔かなものへと頭を預ける。甘い香りがし、優しく包みこんでくれるその場所は、キューを眠りに誘う。



「ちょ、ちょっと……。寝ようとしてない?」

「はっ!! 私としたことが!! 申し訳ありません、すぐにここから脱出しましょう」



名残惜しそうに離れると出口に向かうが、ドアは開かない。キューは、少し壁を触って困っていると、ヘーベルが前に出てキューを下がらせる。



「こういうのは、昔から決まってるの。引いても駄目なら……押してみなってね!」



体の中に溜めた気を吐き出すかのように、踏み込み両の手掌を叩きつける。叩きつけた部分がボコッと向こう側に膨れ上がり、ドアが吹き飛ぶ。



「どうよ、やっぱり昔の人の言葉は、大事にしないとね」

「ご、御主人様……。その開いたのは、良かったのですが……」



廊下に出ると耳をつんざく音が、響き渡る。それは、警報音と呼ばれるもの。つまりは、ヘーベルが脱走したことがバレたのだ。

ドタドタと左右から足音が近づいてくるのを感じ、キューは、ヘーベルの腕を掴み強引に引き寄せる。



「くそっ、女が逃げたぞ!!」

「ちっ。まだ遠くに行ってはいないはずだ!! 探せ、探せ!! 見つけたら殺すな、殺したら俺らがオーディン様に殺されるぞ!!」



兵士達は、すぐにヘーベルを探しに各々、一目散に駆けていく。それをヘーベルとキューは、天井から見ていた。キューの力で天井に張り付いていたヘーベルは、一人だけが残ったのを見計らって、降り立つ。

首に足をかけ、男と反対方向に倒れこみ、足の力で首を締め上げる。キュッと首が絞まり、男は意識を失う。



「丁度、服が欲しかったところなのよね。ありがたく頂くわ」

「御主人様、無事ですか?」

「勿論。それよりもキューちゃん、この男を部屋に押し込んでおいて」

「かしこまりました」



キューは、男を引きずりながら、部屋へと連れていく。それを見て、ヘーベルは脱がせておいた装備に着替えを始めた。





ブラドは、一人森の中にいた。

森には、どこか綺麗な空気が漂っており、この森が神秘的なものを感じさせる。

その時だ、茂みの中から小人サイズのオーグが現れ、木の棒を振って襲ってくる。



「今、私は虫の居所が悪い。もし、これ以上やるというのなら……この顔を潰すぞ」

「ギョエ!!」



オーグの頭を手で握りこみ、潰そうとする。オーグは、暴れて離そうとするが、力強く掴んでいる手は離れない。オーグは観念し、暴れるのをやめた。

戦う意思がなくなったと思ったブラドは、オーグを投げ捨て森深くを目指して、再び歩き出す。

だが離されたオーグは、諦めておらず背後から木の棒を振りかぶるが、どこかから放たれた矢に射られる。



「ふむ、来客かの?」



木の枝に数人の若い女達が、弓をブラドに構えている。だが、それは人とは違った。耳が人よりも異様に長く、その金髪は、太陽の光に当たって銀色にも見える。衣服は、独特の露出を押さえた。自分の身の綺麗さを訴えるような白の彼女らの民俗衣装を着ていた。

エルフと呼ばれる種族の者達だ。

だがブラドは、そんなエルフ達には気も触れず、歩みを進めようとする。



「止まれ、黒龍よ!! これ以上は、我々の領域だ!!」

「待つのじゃ、私は主らの王に用事があってきたのじゃ。通してくれんかの?」

「もう一度言う、これ以上は近寄るな!!」

「やれやれ、どうやら相当嫌われておるようじゃの……。だが、私に喧嘩を売って、ただですむと思っておるのか?」



ギッとエルフの女兵士達を睨み付ける。その睨みに一瞬、物怖じするがすぐに睨み返した。



「お前ら待て!! この方は、王の客人だ」

「おっ、久しいのう~。アルバ、元気にしておったか?」

「はい、お久しぶりでございます。黒龍様、兵が粗相をしてしまい申し訳ありません。今、この場でこの者達の首をはねますので」



和やかさとは違い、目をつり目にさせ、額には少しシワが寄っている。エルフらしからね彼女、アルバは腰に携えていた西洋の剣――ロングソードと呼ばれる真っ直ぐな両方に刃が備わっている。刀身は厚くなっており、形状は十字架を模しており神聖な武器を思わせる。

剣を構えたアルブは、本気で矢を向けたエルフ達を処罰しようとする。



「よい、気にするな。こやつらも自分の仕事をしたまでのことじゃろうしの」

「情けをかけて頂きありがとうございます」



剣を地面に突き立てて、膝をつき、頭を下げる。その姿にブラドは、頭を上げろといって頭を上げさせて、道案内を頼む。



「それにしても、今日はどのような件で?」

「ふむ、あやつに願いがあってきたのじゃ」

「願い?」



様々な木々を抜けたその先にエルフの国『アルフヘイム』があった。

森の奥深く、そこは別の世界だ。

木々を斬り倒し、地面が深く抉られ、その中心にはヨーロッパのような城に都のようなアスファルトやコンクリートではなく、レンガで建造された住宅があった。



「ここに来るのも久々じゃの。アルバが、幼き頃に来て以来じゃからの……」

「そうですね。あの時の私は、まだ幼かった」

「ふむ、じゃがあのじゃじゃ馬娘が、今はこんなにも落ち着いておる。年月とは、恐ろしいものじゃの」



魔法の世界に来たかのような感覚を覚えさせられる場所にブラドは、過去に来ていた。巨大なレンガの真っ直ぐな橋の下を覗けば、そこは断崖絶壁。落ちればひとたまりもない。

コツコツと足音が静かな森に響いていく。空には、鳥が心地よさそうに飛んでいる。

橋を二、三十分かけ渡り抜くと次は大きな城門があり、内側から門は、開かれる。門の先には、都からは考えられない昔ながらのレンガ造りの住宅が並び、人々もせかせかと歩いてはいない。

神聖な種族であるエルフの国といえるのは、納得できる場所となっていた。



「足元、お気をつけください」

「ふむ、それにしても。やはり人里よりここは落ち着くの」

「人には人のあった暮らしが。エルフには、エルフのあった暮らしがございます。私達、エルフはあまり賑やかなものを好みませんから」



何十段もある階段を抜け、やっと城に入り、王室へ案内される。アルバは、王室に案内するとドアをノックした。



「スクルド様、黒龍様がいらっしゃいました」

「本当!? 丁度良かった、早くいれて!!」

「かしこまりました」



ドアは、ゆっくりとアルバによって開かれた。その先には、ブラドが予期してないものがあった。



「な、何をしておる……」

「へっ? 赤ちゃんにミルクあげてるんだけど?」



人の赤子を抱えたスクルドは、哺乳瓶でミルクを飲ませていた。エルフの王と呼ばれるだけの風格を彼女からは確かに感じる。だが、神聖なエルフの純潔さとは違い、露出度の高い衣装を着ていた。エルフの象徴の長い耳、母性を象徴させる膨らみは、衣服では留めることが出来ず、少し溢れているように見える。



「スクルド……お主……遂に人の子に手を出してたくて……誘拐を」

「ご、誤解よ~! この子達は、森で親を無くしたり親に捨てられたりした子達よ」

「ふむ、そうだったのか。すまなかったの……ついショタコンだったお主が人拐ひとさらいを始めたのかと」

「エルフの女王である私がそんなことするわけないじゃない!!」

「ちなみに、ここにいる子供達は、皆。男の子です」

「ぬっ……やはり、スクルド……」

「違うって言ってるでしょ~!!」



彼女の怒声に、まだ小さな子はびっくりして泣き出してしまう。アルバは優しくその子を抱き抱えて、横に揺りかごのように揺らすと落ち着いてくる。



「お姉ちゃん、お姉ちゃん。ご本読んで~!」

「ほ、本じゃと?」

「ヘイロン、お願い。この子達を落ち着かせたら話を聞くから」

「ふむ……仕方ないのう……。小僧、本を読んでやるからこっちに来い」



頭を優しく撫で上げて、絵本を受け取り座り込んで普段とは違った優しい声で読み上げていく。

女三人、各々子供を落ち着かせるのに、三時間はかかり、三人とも疲れきっていた。



「はい、坊や~。おやすみなさい」



最後の子供を眠らせ、大きなベランダに移動した二人は、手すりに体重を乗せながら月を眺めている。

すると、アルバが赤のワインと二つのグラスを持ってくる。そのワインを受け取り、グラスをブラドに渡して、つぐ。



「ふむ、綺麗な赤色だ」

「でしょ~。私のお気に入りなんだよ~ヘイロン」

「今、私の名前はブラドじゃ。そっちの方が気に入っておる」

「え~、無二の親友の付けた名前は気に入らなかったの~?」

「私には、綺麗すぎる名前じゃからの」

「だって、ヘイロン。綺麗じゃん」



グラスをすぐに空かし、ボトルからまた補充する。ブラドから話を振ってこないことに痺れを切らしたスクルドから話を振る。



「それで、お願いって?」



ブラドは、一気にワインを飲み干し、グラスを手すりに置くと真っ直ぐに真剣な目で、ブラドは見つめる。すると、ブラドは頭を深く下げた。

スクルドは、そのことに驚いた。

彼女は、プライドが意外にも高い女性だ。自分が、悪かったとしても頭を下げず、喧嘩してブラドに罪があったとしても謝って貰ったことがない。

そんな彼女が、頭を下げた。

どのような願いを言われるのか、彼女は喉をゴクリと鳴らして、待った。



「兵を……力を貸してほしい。大切な人を……嫁を助けたい……頼む!!」




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