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スクルドは、その言葉に思考を停止させた。彼女のある言葉が、彼女の心に突き刺さる。それは、単純な一言ではあるが、言葉に出せば重い言葉となるもの。
(力を……ってのは、分かったけど。今、嫁って言わなかった!? 嫁ってあの……奥さんってことよね!? えっ、でもヘイロンは見た目は女だし……。そういえば、ヘイロンって両刀使いだったし。えっ、じゃあなに!? 本当に嫁を貰ったの!? マジか~……まさか、先に結婚されるなんて。待てよ、私にだって旦那様候補はいる……ううん、別に一人じゃなくていいわけで! となると今からあの子達に色々と年長者として教えてあげれば………)
「スクルド……ぬっ!?」
なかなか返事が返ってこないことに少し不安を感じ、頭を上げてスクルドを確認する。その顔は、目をとろんととろかせて、口を少し開けて頬に少しばかり涎を垂らしていた。
「スクルド、おいスクルド……!」
「えへへ……優しく教えてあげるからね……」
「な、何を言っておるのじゃ? おい、スクルド」
「黒龍様、どうやらスクルド様は今の夢の中のようです。少しお待ちください」
アルバが、スクルドに詰め寄り背後に立つ。そして、後ろからむにゅっと溢れんばかりの膨らみを衣服の上から揉みしだく。
最初は、目をとろかせていたままのスクルドも揉みしだかれているうちに、目に普段通りの光が戻ってきた。
「ひゃ!? な、何をするのアルバ!? も、もう少しで……あの、可愛い子のウインナーを」
「卑猥な言い方しないでください」
「な、何が卑猥だというの!? アルバにはあのまだ小ぶりなウインナーさんの良さが分からないの!? あのまだ成長途中で……汚れを知らないあの可愛さを」
鼻息を荒くして頬を赤く染めていくスクルドをアルバは、まるでゴミを見るような冷えきった目で見つめる。目は、口ほどに物を言うと言うが、彼女は正にそれを体現してしまっていた。
スクルドのことを気持ち悪いと思っているのが、表面上に出てきてしまっていた。
「とりあえず、一回黙ってください。ショタコン野郎。彼らをそんな汚い目で見ないでください。可哀想です」
「あっ! 今、私のことショタコン野郎って言った! 私、王なのにそんなこと言っていいの!! それに汚いってなによ!」
「いいから黙ってください、年増なショタコン」
「年増!? うぅ……そりゃ私……エルフだし……実年齢はアレなわけだけど……年増って……」
スクルドは、地面に手と膝を突き落ち込んでしまう。それを見たアルバは、ため息をついて元の定位置に戻ってしまう。その場に残されたブラドは、彼女の落ち込みようにあたふたし、助けを求めるようにアルバに視線を送るが、彼女はいい仕事したなと言ったような満足的な目をしていた。
「くっ……。あの、スクルド落ち込むことはないぞ。お主は、エルフの中ではそれはまぁ年は取っているが、エルフ的には高齢という訳ではないし、それにあの子らとて、お主の美しさに惚れ込んでいたではないか」
「惚れ込んでいた……?」
「ふむ、あれは惚れておるの。駄々をこねて、離れたがらなかったではないか。間違いなく惚れとるの」
「つまり、相思相愛? 独りよがりな恋じゃなく、ショタコンの私でも愛してるってこと?」
「無論じゃ」
「よし、ありがと!! めちゃくちゃ元気出た~!! それで、お願いって何だっけ?」
「殴るぞ?」
笑顔で、拳を握るブラドの姿にスクルドは、冷や汗をかく。
「じょ、冗談、冗談。それで、嫁って誰なの?」
「ふむ、まぁ一人の為なら世界など終わらせてしまおうとする恐ろしい女じゃ」
「え~、なにそれ。んで、その人を助けたいってどういうこと?」
「実はの、この国の王を暗殺しようとしたんじゃが」
「ちょ、ちょっと待って……?」
頭の中を整理する時間が、スクルドには欲しかった。王を暗殺する、つまりそれはこの国を変えようとしているということだ。そんな大それたことをする気になったのかスクルドには、まったく分からない。
「な、何で王を?」
「知らぬ、ただあまりにもこの国は貧富の差も発展の差も違いすぎる。それを正すためみたいにじゃぞ」
「その為に、王を?」
「ふむ。私も現在の王は、どうも気に入らんしの。私の餌として、村人を捧げておったし」
「そんな酷いことを……」
「だから、助けを借りたい。今、嫁は捕まっておるのじゃ。嫁を助けだし、王を倒すには我々だけじゃなかなか力不足じゃ……だから」
スクルドにも文明の発展の差が開きすぎなのは分かっていた。都は、あんなにも発展しているというのに村と呼ばれる小さな集落の暮らしは、昔からそんなに進歩していない。
その為に親は都に出るが、子供を養う為に都から帰ってこれる人も少ない。それに村の防衛設備がちゃんとしていたら、このような孤児達は生まれなかった。
新たな命を見捨てている王には、スクルドも前々からどこか苛立ちを覚えていたが、行動には移せなかった。だが、それを行動に移したものがいる。
決して無視できなかったものがいる。
正しいことを為そうとしてる者の為に、少しでも助力できるなら。
スクルドの意思は、決まった。
「分かったわ、力を貸しましょう」
「すまぬ、感謝する」
「ただ、その嫁の為じゃないわ。私は、子供達の為に戦います。子供が、せめて今よりは安楽な暮らしができるように」
ブラドの手を掴み、スクルドは笑顔を向ける。ブラドは、それに応えるように握り返し、笑顔を返した。
●
その頃、ハバキとアリスは、人通りが少なくなった道の真ん中で、訓練―修行をしていた。
「アリス、スピードを上げるぞ!」
ハバキの手には、二本の日本刀ではなく、二丁の黒く塗装されたガバメントが握られている。その拳銃で、ハバキはアリスを撃つ。
銃弾を銃口の向きから、ある程度先読みし、アリスは避ける。銃弾は、彼女を捕らえることなく、建築物の壁に被弾する。
その銃弾が被弾した先は、赤く染まりインクがぶちまけられる。実弾ではなく、ペイント弾を使っての訓練だ。
「はぁぁぁ!!」
踏み込み、レイピアの剣先をハバキの喉元へと突きだすが、それをしっかりと視界に捕らえたハバキは、軽く避け左側に飛び込む。飛び込み様に左脇腹と左側頭部に銃弾を撃ち込み、髪と服にペイントをかけ、赤く染める。
「くっ……」
「アリス、今ので死んだぞ? それじゃ、その女の子に殺されちまう」
「分かっている……分かっているが」
「アリス、俺を殺す気でこい。じゃなきゃ、殺す気できてる奴なんかに勝てないぞ」
ハバキは、銃を構え、すぐ、次の訓練の準備をする。アリスもそれに合わせて構える。
「はぁぁ!!」
彼女の気合いの声の後に、二回の発砲音が聞こえ、次に彼女の声は聞こえてこない。それは、聞かずとも彼女がその弾丸を食らってしまったということを表していた。
二人は訓練を終えて、ホテルへと戻り、アリスは衣服や髪が汚れてしまったということで、シャワーを浴びたいとハバキに言い、それを了承した。
「くそ……ハバキの奴、容赦なく撃ってきて。この、インク落ちるのか?」
シャワーの蛇口からお湯を流し、髪を洗う音が聞こえてくる。それは、勿論部屋の中に響きわたっており、ベッドに座ってハバキはそれを聞いていた。
(な、なんだ……。この緊張感は……。二人きりでホテルで先にアリスがシャワーを浴びて、俺はそれを待っている。なんだか、これって……)
そこで、ハバキは今の状況も考えて、不謹慎だと思い、考えをやめようと取りあえず羊を数え始める。
「羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹……」
「ふんふんふ~ん」
だが、その邪念を捨て去ることができずに、ハバキは更にアリスを意識してしまう。ピチャピチャと聞こえてくる音に心臓が早鐘を打ち、体の中を熱い血液が巡る。
ハバキは、ふとした出来心で風呂場の様子が気になり、足音を忍ばせて、そっとドアに耳を傾ける。
「しっかり洗わないとな……」
タオルで体を洗うときにシュ、シュと擦れる音が耳へと流れ、ハバキも年頃の男性だ。つい、その音でどこを洗っているのか、想像してしまい顔を真っ赤にする。
「んっ、あっ……これウネウネ動いて……」
突如として色っぽい声を出し、ハバキはその声で全身が熱くなり、逃げ切れなくなった熱さを我慢することができずに、ハバキはベッドに倒れてしまう。
そして、丁度シャワーを浴び終わり、ほんのりと頬を赤らめ、湯気をあげたアリスが出てくる。
「んっ、ハバキ。大丈夫か、顔真っ赤だぞ?」
「だぁいじょっぶだぁ、しぃんぱいない」
「本当か、どれ?」
ベッドに寝転がっているハバキに覆い被さるように手を付き、ゆっくりと顔を近づける。ハバキの鼻孔を女性特有の甘いシャンプーの香りが鼻孔をくすぐり、体を強ばらせる。
そんなことは全く気にしていないアリスは、額をコツンと合わせ、体温を調べる。アリスの吐息が顔にかかる距離にハバキは、気持ちを必死に押さえこむ。
「二人ともお邪魔でしたか?」
「えっ?」
「んっ?」
二人が目をやると、すぐ横にキューが膝をつき、二人の様子を見ていた。
「な、何者だ!!」
「姉上様、私でございます。キューでございます」
「キュー? えっ、キューちゃん!?」
「左様です、ご主人様がこの姿を気に入っていただけましので」
「ご主人様? えっ、ヘーベルと会ったの?」
「はい……。ですが、助け出すことができませんでした……申し訳ございません!!」
頭を深く床につき、体をぷるぷると震わせている。顔は、はっきりと見えないが、その顔はとても悔しがっているようにアリスは感じた。
「大丈夫だ、キュー。ヘーベルのことは、気にするな。あの黒龍の姐さんだって、仲間を集めにいったし、俺らだって今修行中だ。みんなで助けようぜ」
「ハバキ様……ありがとうございます」
ニカッとハバキは、笑みを浮かべてキューの頭を撫でる。だが、一回撫でられると嫌そうにキューはハバキから離れた。
「あっ、わりぃ。嫌だったか?」
「いえ、ただあまり男性の匂いがつくと……またご主人様に嫌われないか心配で」
「えっ?」
クンクンと体の匂いをかぎ、キューは風呂場に入っていった。どうやら少しではあるが、男性の匂いがあり、気になってしまったようだ。
「はぁ……それにしても二人きりだと思ったのに」
「んっ? 何か言ったか、ハバキ」
「いや、何でもない」
ハバキは、拗ねたように毛布を深く被り、眠りにつこうとする。
「ヘーベル……みんな、お前の為に動いてくれている。待っていろ、私達が必ず助け出すから……」
ベッドのシーツをキュッときつく握り、ランプの明かりを決意のこもった目で見つめる。まるで、別の世界の自分の借りを返すように彼女は、ヘーベルを自分の妹を助け出すことを胸に深く誓った。




