第3話
すみません。
一旦消去して修正をさせてもらいました。
まことに申し訳ありません。
森が騒がしいとアリーから聞いて大量のモンスターが徘徊して暴れているのかと心配をしていたが、森の中は予想に反して不気味な程静寂だ。
足場が悪い道なき獣道を意外とスムーズに歩きながら、周囲に注意深く視線をやる。
意識を集中して見ることで気づいたが、この身体は凄く知覚能力が高い。
固有スキル『立体知覚』のおかげか、人間だった頃の視界と比べて今の視界は360度全方位全てが正確に見えるのだ。
さらにパッシブスキル『体温感知』により、そこら辺にいる小動物の存在が分かる。
意識を集中すればその動きや細かい仕草まで手に取る様に掴める。
何とも奇妙な感覚だ。
運動能力も知覚能力と同じで格段に高くなっており、全く疲れを感じない。
この身体には驚かされてばかりだ。もちろん色んな意味で。
風が吹くごとに草木や樹木の枝がサラサラと揺れる。それに伴って青臭い湿った空気が運ばれてくる。
若干薄暗く感じるが、この驚くほど高い知覚能力があればなんの問題もない。
しかしながら奥へと進むにつれ雰囲気が徐々に変化してくる。
昼間だというのに日差しが入ってこないせいか、段々とあちらこちらに暗闇が生まれ、気温が少し下がってるように感じる。
それが何とも言えない不安を煽る。
ひんやりとした空気の中で進路上にある草木や樹木を掻き分け、時には避けてひたすら前へと進む。
静かな森の中は時折鳥のものであろう獣の鳴き声以外には俺とアリーの足音だけが響く。
100メートルか150メートルぐらい進んだ地点で突如目の前の草木が激しく揺れる。
俺が動くよりも後ろにいたアリーがいち早く瞬時に動き、俺の前へと守るようにして出てきて身構える。
その行動に驚いたが、今の緊張した状況の中ではそれが凄く心強い。
揺れ動く草木から、俺とアリーの目の前に現れたのは20体程の人型のモンスターだ。
小さい子どもぐらいの小柄な体躯。醜悪に満ちた顔に、平べったい耳と鼻に裂けた口から覗く鋭い歯。
粗末で貧相な装備をした者もいれば、腐った布だけを巻いている者もいる。
俺はこのモンスターを知っている。
ファンタジー世界ではお馴染みの王道的テンプレな存在、 ゴブリンだ!。
すげー! 本物だ!。
前世でやっていたゲームの中ではこんにちはさようならを繰り返していたファンタジーモンスタ ー!。
まさかこのタイミングで遭遇するとは。
数は圧倒的にあちらが上だ。
ゴブリンがどの程度の強さなのかは分からない 。
どうせ弱いんだろうと思って侮ってはいけない 。
それは驕りだ。その驕りは自分に隙を作って弱点となり、取り返しのつかない事態を招く。
たかがゴブリンだと思って不用意に動くのは危険だ。
……てか、いつの間にか囲まれちゃってるし! うっそ! マジで! いきなり万事休す!。
なんかこういう危機的状況さっきも体験したような気がする。
しかし、不思議とそこまで恐怖を感じない。
アリーがいるからだろうか? それともこいつらは危険じゃないと本能が判断しているからなのか?。
とにかく今ではそれがとてもありがたい。
戦闘中に腰が引けていたらそこにつけこまれて、一気に攻められてしまう。
そうなると体勢を立て直す前にやられてしまうのは火を見るより明らかだ。
さて、一体この状況をどうするか……。
俺とアリーの周囲を取り囲むようにして広がっているゴブリン達に隙を見せない様にして、この状況をどう対処するか思考を巡らす。
俺が思考に浸っている最中にアリーが警戒と敵意を含んだ声で言い放つ。
「死ニタクナケレバ失セロ」
おいぃぃー! アリーさんいきなり何言ってんのぉー!。
そんな敵対心丸出しの態度で、ゴブリン達を触発して戦闘パーリィになったらどうする!?。
俺逃げるぞ。全力で。
「王ヨ。コノ者ヲドウシマス?」
そこで俺に振る!。
しかも、そういう言葉はもっと早く、さっきの言葉の前に言って欲しかった。
俺が心の中で冷や汗を大量に流している所へ、この群れのリーダーだろう一体が前へ一歩出てきて口を開く。
「強キ者、ココカラ先ヘハ行カセナイ」
喋った! すげー!。
ゴブリンって喋れるんだな。
少し濁声だが、十分に聞き取れる。
ゴブリンは相手の強さよりも数で判断していきなり襲いかかってくると思っていたが、喋ることが出来るとは思わぬ僥倖だ。
これなら会話から交渉に持っていけるかもしれない。
しかし、先ほどのアリーの敵意を含んだ言葉に警戒をしたのかひしひしと敵意を感じる。
一つ間違えば、取り返しのつかない様なギリギリの状況だが、何とか巻き返してみせる。
「お前は何もするな。ここは俺に任せろ」
取りあえずはまず、今にも飛び掛かろうと鎌をゆっくりとちらつかせているアリーを抑える。
「シカシ」
「良い。俺を思っての言動だろうが、今は俺に任せて一旦下がれ。何、心配するな」
アリーが不満の声を上げるが、俺が引き下がらないと察したのか渋々といった様子で俺の後ろに下がる。
よし、先ずはアリーを引き下げるのに成功した。
さて、ここからが本番だ。
それと気になったんだが、強き者とは一体誰を言っているんだ?。
恐らくアリーの事なのかもしれない。
何せ幾度となく激戦があっただろう洞窟の中で生き残っていた戦士だもんな。
「初めまして、俺の名前はトーマ・サイトゥー。 こちらがアリーと申します」
ここは笑顔だ。
交渉に上手く事を運ぶには笑顔が大切だ。
虫だから表情が分からないけど……。
こういうのは気持ちで何とかなる! はず…だよね?。
ゴブリン達がざわめきだした。
俺はそれに構わずなるべく温厚な声色で言葉を繋げる。
「俺達はこの先に用事はないのですが、何かあるんですか?」
俺が喋っている間に数人のゴブリンが後ずさる 。
中には怯える様にして震える者も出てくる始末だ。
俺何かした? 普通に喋っただけだよね?
もしかしてこの先に何かあるか聞いては駄目だったとか?。
「ココカラ先ヘハ行カセナイ」
ゴブリンがその手に持つ全長80センチ程の刃の幅四センチぐらいの両刃の長剣を握り締める。
こいつはヤバイ!。
何がいけなかった!?。
笑顔か! 笑顔がいけなかったのか!?。
そうか、確かにこんな昆虫が笑顔で話し掛けてきたら、誰でもすぐに成敗してやる! と壮絶な戦いを挑んでくるだろう。
俺なら殺虫剤をかけて直ぐに害虫駆除業者さんにマッハで助けを求めるだろうからな。
たが、表情が出ているとは思えないが 、俺の“顔力”ってそんなに怯える程凄いの?。
何か軽くショックを受ける様な複雑な気分だな。
きっと力を入れて頑張り過ぎたから笑顔が逆に怖くなったんだろうな。
それならよくあることだ。
そうと分かったら俺は顔だけではなく身体全体の力を抜く。
力の入れすぎは返って良くないってよく言うもんな。
それなら納得だぜ。
別に俺の顔が怖いとかそんなんじゃないよな?。
「すみません。まだ慣れないもので(この身体に )」
すると突然、長剣を握り締めたゴブリンがその長剣を振り上げて襲いかかってきた。
「!!」
俺はその突然の行動に固まる。
そんな襲い掛かるほど俺の笑顔が気に入らなかったの!?。
「ガアァ!」
ゴブリンが俺との距離を詰める。
そこへ俺の後ろにいたアリーが前へ瞬時に出てきて、こちらに向かってくるゴブリンに目にも止まらぬ早さで迫り、その鋭利な鎌を錆びた長剣に振るう。
錆びた長剣はアリーの風を切り裂きながら振るわれた鎌によって、あっけなく切り離され折られる。
アリーがゴブリンの身体に体当たりをして転ばすと、その身体の上に足を乗せてゴブリンの動きを封じる。
そして、先ほど錆びた長剣を折ったその頑丈な鎌をゴブリンの首を目掛けて振り上げる。
「待て! アリー!」
俺の制止の声に、鎌を降り下ろし、後数センチという高さでゴブリンの首を跳ねかけたアリーがピタッと止まる。
危なかった。
これが原因で、目の前で仲間を殺されて激怒したゴブリン達と一戦を交える最悪の事態はなんとか回避出来た……はずである。
アリーが何故止めたのかと言うようにこちらを見る。
そのアリーの下で動きを封じられているゴブリンも恐怖と驚きの色をした瞳で同じくこちらを見る。
その驚きは、命は助かったが何故止めたのかと言いたげな雰囲気だ。
俺はその二人の問いに答えるため口を開く。
「俺は戦いをするためにこの場に来た訳ではない。ゴブリン達と血生臭い殺しあいをしたい訳でもない。この先に何があるか知らないが、お前達と敵対する意志はない」
俺は二人だけではなく、この場にいる全員に言うように声を張り上げる。
よし、何とか震えずに言えた。
よくやった俺。
俺はアリーに「離してやれ」と言う。
それにアリーは何か言いたげな感じだが、何も言わないまま渋々といった様子で足を退けて拘束を解くと、俺を守る様に傍に立つ。
拘束を解かれたゴブリンは立ち上がると、俺を凝視する様に見つめる。
再び森に入った時のような静寂が舞い戻る。
俺とアリーの周囲を取り囲むゴブリン達は困惑したように、俺とリーダーだろうゴブリンに忙しなく視線を向けて成り行きを見守っている。
森を吹き抜ける風が草木を揺らしてサラサラと音を鳴らす。
ピリピリとした張り詰めた空気が場を支配する。
誰も、物音一つ立てない中でようやくリーダーだろうゴブリンが見つめるというよりは睨んでいた目を細めると口を開く。
「何ガ目的ダ?」
俺はそれに答える。
「何も。ただ、寝床を探しているだけだ」
それから暫く俺の真意を図ろうと、ゴブリンが細めていた目をさらに細めて俺を見つめる。
このゴブリン、どうやらこの群れの中では比較的知性があるようだ。
そうでなければリーダーなんて務まらないか。
「王ノ言葉ヲ疑ウ気カ、貴様。王ノ前二立チ塞ガルノナラバ死ダ」
アリーが鈍く鋭い輝きを放つ鎌を威圧する様に目の前で、こちらを見つめるゴブリンに突きつける。
「アリー!」
「王、コノ世ハ弱肉強食デス。強キ者ハ弱キ者ヲ従エルノハ当然ノ理デス」
「………」
このアリーの言葉に、俺という存在全てを震わし、響かせる衝撃を与えた。
それは異世界に転生したばかりで、いまだ残る斉藤灯真という人格にか。
それともこの異世界に生まれおちた、トーマ・サイトゥーという人格にか。
恐らく両方だろう。
この気持ちは一体何なのか………。
「貴様ラ、王ノ慈悲ヲ無視シテナオモ前二立チ塞ガルノカ」
アリーが怒気にも似た荒立たしい声色でゴブリン達全員に言う様に声を張り上げる。
そこで、口を閉ざしてこちらを見つめていたゴブリンがその重たい口をようやく開く。
「コノ先二アル、我々ノ村二危害ヲ加エル気ハ無イノカ?」
村? という言葉に反応しながらも確固たる意志が籠った声色で、俺は―――答える。
「約束しよう。絶対に危害を加えない」
何を見たのか。
ゴブリンは目をカッと見開く。
―――そして。
「分カッタ」
ざわりと、周囲のゴブリンが騒ぎだす。
それを一睨みで黙らす。
「付イテコイ」
ゴブリンが背を向けて歩きだす。
……えっ!? いつの間にゴブリンの村へ行く流れ!?。
周囲のゴブリンもそれに続く様に動き出す。
……まあ、いいか。
ここはこの流れに乗ろう。
もう色々ともめるのは面倒だ。
俺はアリーと共にゴブリン達に付いていくのであった。
何事もなければいいんだけど……。
名前:トーマ・サイトゥー
種族:昆虫種
称号:“転生者”,“王者”
階位:第5領域
能力:固有スキル『超再生』『立体知覚』
パッシブスキル『王者の風格』『直感』『調和』『体温感知』『危険察知』『超反応』『 生存本能』『意思伝達』
アクティブスキル『毒針』
お読みいただきありがとうございます。
一旦消去をさせていただき本当に申し訳ありませんでした。