第2話
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見たとき手が震えました。
お読みいただき本当にありがとうございます。
でっかいアリさんに遭遇しました!。
すみません。話が飛びすぎました。
あれから大穴に入って恐らく上に上がっている最中に、目の前から何やらこちらに来る音が聞こえてきたので迎え撃とうと身構えていたら……出て来たんだよ。特大サイズのアリさんが。
全長三、四メートルくらいの全体が薄い黒色のこのアリさんに遭遇した時、逃げ出さなかった俺を褒めて欲しい。
人の腕を簡単に噛みきれそうな下顎をカチカチと動かしてこちらを見ているアリさんに、俺はもうガクブルフィーバーです。今ならガグブル新記録も夢じゃない。
こちらを警戒してか様子を伺って動かないアリさんに俺はこの場をどうするか、受験シーズン真っ盛中でさえここまで使わなかっただろう頭を必死に使う。
今思えば、絶賛大学への受験シーズン中に18禁コーナーで何してたんだろうな俺。
取りあえずは何かこの状況を打破出来る手はないか?。
こういう時こそアクティブスキル! と言いたいが残念ながら『毒針』しかない。使えねぇー! まだ一度も使ったことないけど。つうか、使いたくねぇー!。
パッシブスキルも現状で発揮されているのかはわからない。
今の装備も先ほどゲットだぜした大剣が一本と何とも心許ない。もちろん俺に剣の心得などない。木刀すら持ったことのない俺だ。そもそも素人な俺がこんなでっかい大剣を振り回した所で勝てるかどうかもわからない。
あっ、詰んだわこれ。いきなり終わっちゃったよ俺。まさかいざ地上へと向かった途端ゲームオーバーのdead endだよ。
カチリと下顎を動かした後、アリさんが動き出す。
「うおおぉぉぉ! まっ、待ってくれぇー!」
あっ! 喋れる。昆虫だから声が出ないと思っていたが普通に喋れるぞ。少し硬質な声だが何故だろう? 不思議とかっこいい声だと思うのは俺だけか? うん、俺だけだな。
すると言葉が通じたのかはたまた認めたくはないが同じ種族で意思疏通が出来ちゃったのか、あるいは俺の威勢のあるクールなボイスに恐怖を抱いたのかアリさんはピタリと止まる。
危なかったZE。何も解決してないけど。
取りあえず急いで何か手を打たないと……。
そこでまたアリさんが動く。
「ちょい待て! 話せば分かる!」
何が? と突っ込みは入れないで欲しい、今だけは。
何ともヘタレな光景だが虫恐怖症の俺が今だに奇声を上げて逃げ出していない状態に、こやつ只者ではない! とむしろ褒め称えて欲しいぐらいだ。
するとまたアリさんはピタリと止まる。
あれ? もしかして?。
「俺の言葉が分かるのか?」
な訳ないよねーと思っていたら何とアリさんが今確かに頷いたよ! マジですか!?。
こいつはほんとに凄い。ゲームオーバーになりかけで転生してすぐに死ぬという最悪なバッドエンド的展開になったと悟っていたのに思わぬ幸運だぜ。
さてと、何よりも先ずは早く地上に出たいのだが……。何せ転生したばかりだからな。
実は道に迷ってたんだぜ!。
ドヤ顔で愚痴ってみたが現状は何も変わらない。というか早くアリさん何処かに行ってくれないかな、怖いから。
「地上に道案内とか……出来ないよな……」
さっきまでどうやって倒すか悩んでいた相手に何を言っているんだと自分にぼやく。そもそも言葉は本当に伝わったのかもわからないのに期待をする方が無理があるだろう。
しかし、そんな俺の考えをすっぽりと覆い隠すようにアリさんはデカイ図体を楽々と動かして方向転換をするとこちらをチラリと見て歩き出す。
なんだと! まさか本当に!?。
俺は若干驚きと疑いの心を持ちながらもアリさんを追いかけるのであった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
あれからアリさんの後を追いかけて何時間経ったのかわからないが、迷路みたいな薄暗い道筋を黙々と進んでようやく明るい光が見えてきた。
驚く事に最低でも三時間以上は休まず歩き続けたと言うのに身体が全く疲れない。
この身体はまだ今一慣れないが、普通に歩くのには大分慣れてきた。
明るく温かい光が徐々に強くなっていく。
気持ちが段々と焦ってくるのが分かる。もうすぐ地上だと気分が高揚してくる。
そして、ついに地上に出た。
決して不快ではない眩い輝きが身体に降り注ぐ。
視界に映る光景は見渡すかぎり緑でいっぱいだ。天を突かんと目指して立つ見上げるほど高い樹木に鬱蒼と生い茂る草木。
そこには前世でも見たことのない大自然が広がっていた。
茫然とその大自然に圧倒されて見いっていた俺は、隣にいるアリに視線をやる。
虫のくせにいいやつだ。ここまで無事に来れたのはこいつのおかげだ。
「ありがとうな」
感謝の言葉を口にするとアリさんは下顎をカチリと鳴らす。
何だかこうやって見るとこいつが可愛く見えてくる。虫嫌いな俺が不思議だ。
「良し。今日からお前の事は、アリーと呼ぼう」
アリだけに。
その瞬間アリーが突然輝き始めた。
「うお!」
俺は驚いて慌ててアリーから距離を取る。それと同時に身体の中から“何か”が抜けるような感覚に陥る。例えるなら力が抜ける感じだ。
そして、光が徐々に収まっていくとそこには二足歩行のカマキリの様な鋭利な鎌にアリとカマキリの中間―――どちらかと言えばアリ寄りな顔の赤黒い甲殻を持つ俺みたいな珍虫がいた。
何だこの怪物は! と驚いて固まっている所へ、俺の頭の中に文字が浮かんでくる。
名前:アリー
種族:昆虫種
称号:一般兵士
階位:第3領域
能力:固有スキル『再生』『立体知覚』
パッシブスキル『体温感知』『危険察知』『反応』『自己犠牲』『意思伝達』
アクティブスキル『毒針』『毒液』
何だと!? え! 何これ!。
もしかして進化しちゃった? どうして? 名前がアリー?。
俺何かした? そんなのアリですか。
それに呼応するかの様にさらに俺の頭の中に文字が浮かび上がる。
《パッシブスキル『意思伝達』を会得しました》
何でスキルをゲット出来たんだ? 『意思伝達』って何だ?。
もう何がなんだかわからないぜ。
それよりも衝撃的なのが、アクティブスキルが俺よりも一つ多い!。
別に全然羨ましくないがそれでもいいなぁって思ってしまうぜ。『毒液』だけど……。何処から出すのかな?。
「お前は何者だ?」
取りあえずこの珍虫化け物の正体を知ろう。ステータス出てるから分かるけど、念のためだ。このステータスが本当に正しいのかどうかもわからない事だし。
俺の問いかけに珍虫化け物―――略して珍化(ちんかじゃねぇぞ)はこちらを凝視? している様子で振り向く。
「アリーデス。我ガ王ヨ」
歪んだ硬質な声で珍化改めアリーが下顎をカチカチと動かしながら言う。
ちょっと待て! お前喋れるのか! しかも俺よりもなんかかっこいい硬質な声だぞ。歪んでるけど。
さらに王? 何だそれは? かなり心当たりがあるんだが、【王の心臓】とか称号の“王者”など、はっきり言って嫌なんだが。
「俺が王かは一先ず置いといて」
「王デス」
「えっ! いや、だから」
「王デス」
「それは一旦置いて」
「我ガ王デス」
「あー……うん。そうだね」
「我ガ王デス!」
「分かった、分かったから落ち着こうな」
何か頑なに王だと言い張るな……。ぶっちゃけ虫の王なんてめっちゃ嫌なんだが。
「それよりも、何故お前はその姿になったんだ?」
ここで一番の疑問を口にする。
もしかしたら俺が名前を付けたからそれに関係していると俺は推測する。現に名前がアリーになっていたし。
まず、考えられる可能性としてはこれが一番高いと思う。
その俺の推測を裏づけるかの様にアリーが答える。
「王ヨリ名ヲ授カリマシタカラデス」
表情は虫なので分からないが、それでもその声色から察するに感銘を受けているように聞こえる。
たが、名前? ってアリーの様子を見るにどうやらかなり重要な意味を持つらしい。
何かとても大切なものかも知れないな。
「その名前ってただの名前とは違うのか?」
俺の質問にアリーがまだ感銘が残って震えている声で答える。
「違イマス。我々二トッテ名トハ、ソノ者ノ魂ト直結シテイルソノ者ノ存在ヲ示スモノデス」
なるほど。
つまり、名前とは言わば魂の名みたいなものでその者の魂と同じ意味合いを持つのだろう。
ただの名前だがアリーみたいなモンスター? にとっては大切なものであり、要するに“重み”が違うと言うことか。
ここで二つの疑問が生じる。
それは何故名前を付けた事でアリーが進化したのかと、俺がその名前を付ける事が出来たのかだ。
何故進化したのかは恐らく俺がアリーにアリーという名前を付けた時に感じた“何か”が抜けたとき“それ”がアリーの中に入ったからだろう。
二つめはまだ今一分からないが、俺が“王”という事か“階位”が関係しているかだ。
現状ではまだ何とも言えないが恐らくその可能性は高いだろう。
アリーの他にも名前を付けてアリーの様に進化したのならそれはほぼ間違いないだろう。
それと同時に“何か”も失われるだろうがはたして失った“それ”は再び元に戻るのだろうか?。
まあ、それは後にでもいいから取りあえず一旦保留だ。
今は寝床と食糧を確保する事に専念しよう。
あの洞窟に戻るという手もあるが、それは嫌だ。最後の手段として取っておこう。ここまで来る最中にもたくさんの死骸やら死体がごろごろあったし、精神衛生上よろしくない。
それに、何と言っても異世界だ。冒険したいぜ!。
俺は目の前に広がっている森へ向かって、大地を踏みしめるように足を動かそうとしたのだが。
「えっと……、アリー? 何でお前は俺についてこようとしてるの?」
俺の後ろにピタッと寄り添うように(めっちゃ怖いんだけど)動いているアリーに尋ねる。
「王ヲオ守リ致シマス」
アー、ナルホド。ソウデスカ。
「い……いらん。それに、俺は王ではない。アリーもそんな律儀に王だとかで俺に付き従わなくていいんだぞ?」
「私ノ命ハ貴方様ノモノ。ドコマデモオ供シマス」
かっけー!!。
やべー、めっちゃかっこいいんだけどアリー!!。
アリみたいなモンスターなのに俺よりもかなりかっこいいぞ。
これが見た目が虫じゃなかったら、俺は感動のあまり雄叫びを上げていたのに。
「しかしだな」
「ソレ二、森ガ騒ガシイ様子デス」
えっ!? 森が騒がしい?。
「どういう意味だ?」
「恐ラク人間達ガ来タカラデショウ」
人間が来たから森が騒がしいのか?。
考えてみれば、俺が生まれた洞窟の中は多くの激しい戦闘の痕跡がそこら中にあった。
想像を絶する激戦だったのは言うまでもない。
つまり、それほどの大多数の人間がこの洞窟に来たのだ。ここまで来るにはこの森を通らなければならない。
ならばこの森を通る時、警戒心の強い動物やモンスターとかがそれに影響されて自分の縄張りを一時的に移動している可能性が高い。
それで森の中が混乱しているのか。
これは予想よりもかなり危険かも知れない。
モンスターとの遭遇率が高くなってしまい、それによって戦闘が発生してしまう確率も高くなってくる。
これは覚悟しておいた方がいいだろう。
そうなると、やはりアリーと一緒にいた方がいいか……。
「一緒についてきてくれるか?」
俺の申し訳ないお願いにアリーは強く答える。
「モチロンデス。我ガ王ヨ」
《アリーの称号が『一般兵士』から『近衛兵士』に変わりました》
《これによってパッシブスキル『不屈』を会得しました》
俺の頭の中に文字が浮かび上がる。
近衛兵士か。
凄い頼もしい響きだ。
「これからよろしくな、アリー」
「光栄デアリマス、我ガ王ヨ」
俺は少しの安心感を感じると、アリーを連れて真っ直ぐと目の前の森を見据える。
若干緊張しながら大剣を強く握り締めて、足に力を入れて大地を踏みしめる様にしてつけると、一歩、また一歩と力強く歩き出すのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回から物語がかなり変化する予定です。




