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おまけ2【IF】:井上真理:自由な念話

【これはif展開であり、本編の展開と一切関係ございません】

※もし真理とアリシアの自由な念話が政府から許可されて昼間も堂々と念話していたら、というifです

『おはようございます、真理さま』

「おはようございます、アリシアさん」


私――井上真理の朝は、そんなやり取りから始まる。

実は政府に私とアリシアの念話が発覚したんだけど、そのあとどういうわけか急に自由にやっていいことになった。一体何があったんだろう。まあ嬉しいしいっか。

アリシアはこの世界に転移してから3週間。まだ病院生活が続いているらしい。大変そうだなあ。


っと、着替えないと。

でも服を脱いで着ながらも口はフリーなので、ついついおしゃべりに没頭してしまう。


「今日は調子どう?」

『はい、よろしいです。真理さまは本日も学校ですか?』

「うん、今日は化学の小テストがあるの。苦手なんだけど、うーっ!」

『ふふ。小テストは大変なのですか?』

「そうだよー。ただ授業聞けばいいんじゃなくて、普段から家でも勉強しないといい点数取れないの。まあ対策はしてるけど」

『偉いです』

「アリシアは今日何があるの?」

『今日も赤荻さまとミーティングです』

「また? よくやるね」

『はい。魔法について詳しく知りたがっているようですので、連日説明しております。それから退院後の生活についても少々』

「なるほど、‥‥あ、私朝ごはん! また後でね!」

『はい、切ります。頑張ってくださいね』

「頑張る! アリシアもね」

『はい』


スマホと違って手に持たなくてもいいので、家族や他人の目がない限りやりたい放題である。


   ◇


登校の道で、私は左右両方からほっぺたを引っ張られていた。


「真理、嬉しいことがあっても顔に出さない」

「顔に出さない~」


何かとは言わないけど咲希も萌仁花も多分、私とアリシアの関係に気づいていると思う。この関係は国家機密だから親友にも話せないんだけど、親友もおそらくこのことを察しているんだと思う。


「ふぁい‥‥って! 嬉しいことなんてないからね!」

「はいはい。最近学校で真理のことが噂になってるわよ。どんな噂だと思う?」

「えーっと、脚のスネ毛が1本減ったとかそんな噂?」

「どんな噂よ! はぁ~‥‥あのね、最近、真理に彼氏ができたって噂があるの!」

「え、えええ!? 何でそうなるの!」

「最近の真理が浮ついてるからに決まってるじゃない。自分で気づかないの。変に疑われたくなければせめて今日くらいは普通の顔しなさい」

「‥‥うん、分かった、普通にしてる」

「まりまり、にやけてる~」


咲希と話してる途中にいきなり萌仁花が割り込む。


「うぇ、えへへ、そ、そうかな‥‥」

「にやけてる~うれしそ~かれぴできたんだね~」

「だから男じゃないってば!」

「ふーん、じゃあ女なんだ~」

「そ、そ、そ、そ、そ、そ、そ、そ、そ、そ、そ、そ、そ、そ、そ、そ、そ、そ、そ、そ、そ、そ、そ、そ、そんなっ」

「顔真っ赤にしてるんじゃないわよ」


咲希が手刀で私の頭をこんと突いて、現実に引き戻してくる。

‥‥今日は気をつけよう。ていうか毎日気をつけよう。


   ◇


学校にいる間、アリシアから念話が来ることはめったにない。アリシアも宿河原高校へ編入する予定で、時間割はすでに共有しているらしいけど、休み時間にも来ない。

ああ、休み時間はたいてい友達と話してるって前に言ったせいかな。話してる最中に念話来たら困ると思われているんだろう。念話は電話と違って魔法だから、アリシアたちが魔法使いとすでに把握されている病院内ではともかく、学校では安易に使うことができない。

要するにアリシアは私の都合のいいタイミングを事細かに把握することができない。念話はアリシアの方からしか発することができないので、こうして守りに入るのも致し方ない。私の方から念話を飛ばすことができたらいいんだけどな。


『真理さま、今お一人ですか?』

「おわっ、うん、1人で誰もいない廊下歩いてる。ちょっとだけだよ」

『ふふ。小テストはいかがでしたか?』

「うん、8割くらいできたんじゃないかな。アリシアは?」

『わたくしは昼食に大好きなプチトマトが出て嬉しかったのです』

「ふふふ」


昼休みとはいえ学校の休み時間に念話が来るのは珍しいっていうか初めてじゃないかな。たまたま学級委員長の用事で特別教室に挟まれた薄暗い廊下を歩いていてよかった。短い会話だけど嬉しい。そんな気持ちに浸っていると、後ろから呼び止められる。


「ああ、井上、ここにいたのか」

「はい」


振り返ってみると、3年生の森岡先輩だ。確か去年の体育祭で同じチームになって、その時から話しかけられることが増えてきたんだよな。


「‥そのさ、体育館裏に来てくれないか?」

「ここでもいいですよ、人目ないですし」

「いや、体育館裏で話してみたかったんだ」


‥‥ここ西棟2階の、それも西寄りなんだけど。わざわざ中央棟1階まで歩く必要ある? しかも昼休み終わるまであと10分だよね、遠くへ行くのもリスクだよね。森岡先輩って確かに優しくていい人なんだけどこだわりが変っていうか、そういうところだと思う。

‥‥相手は先輩だし、あんまり強くは言えない。仕方ないなあ。やれやれ、と、ついて行ってみる。


「去年、体育祭で同じチームになった時から気になってました。俺と付き合ってください」


体育館裏で先輩に深く頭を下げられる。短髪のつむじが見えてくる。


「ごめんなさい、私には他に好きな人がいるんです」

「‥‥それって、誰?」


うわ、食い下がってきた。無難に切り抜けてみる。


「詳しくは言えませんが、毎日話している人がいます」

「‥‥っ」


先輩は目を丸くして「えっ」と声に出す。


「‥‥どうかしましたか?」

「‥‥いや、井上、幸せそうな顔をしてるんだなって。そうか‥‥彼氏がいるんだな、噂は本当だったのか‥‥時間取ってごめんな、じゃあな」

「え‥‥はい」


しつこい先輩だと思ってたけど‥‥なんか私、助かった?

え、ええ‥‥?


‥‥えっ?


「わ、私に彼氏はいませんっ!!!」


そう叫ぶ頃には目の前には誰もいなかった。

ただ予鈴の音がむなしく響くだけだった。


   ◇


「わたしに彼氏はいませんっ!」

「もにもにに彼氏はいませんっ!」


下校のときにも、2人にいじられる。私の声があまりに大きくて周りに聞こえてしまっていたらしい。恥ずかしい。私は手で顔を覆いながら歩いている。


「迫真の演技だったわよ。彼氏じゃなくて彼女でしょ」

「な、なんのことかな‥‥?」

「ねえ~さきさき、彼氏のことはかれぴって言うんだけど、彼女のことはかのぴでいいかな~?」

「そこは萌仁花の好きにすれば」

「わかった。まりまり、かのぴいるんだね~?」

「い、いませんっ‥‥」


そんな私を挟んで、2人は左右から人差し指で頬をくりくりしてくる。


「嘘はいけないわよ、真理」

「嘘はいけないよ~まりまり」

「だ、だから嘘じゃない‥‥」


   ◇


‥‥ようやく家に着いた。やっと逃げられた‥‥。2人に別れを告げ、「はぁ‥‥」とため息をつきながら自分の部屋に戻ってみれば。


『嘘はいけませんよ、真理さま』


そんな声が聞こえてくるものだから、私はぴくっと肩を震わせる。思わず部屋の中を見回すけれど‥‥じきに念話だということに気付く。


「やめてよアリシア、びっくりした」

『ふふ。もうすぐ通話の時間ですよ♪』

「そ、そうだね忘れてた、準備するね!」

『真理さまが現在お付き合いになっている彼女について詳しくお聞かせください♡』

「ち、違うよ! わ、私に彼女なんていないからっ!」

『ふふ、白状していただきますよ』

「‥‥さ、さっき友達と会話してた内容がわかるんだね」

『はい、話しかけようと念話を繋いだら偶然聞こえてしまいました』

「もうアリシア、恥ずかしいよー!」

『ふふふ』


‥‥そのあとのオンライン通話では恋愛の話はノータッチだった。た、助かった‥‥?

昼休みの念話の続きだった。オンライン通話でも念話とか堂々と言えるので気が緩んでしまう。


   ◇


その夜は念話を使って、アリシアに簡単な数学の授業をする。アリシアが数学に興味を示していたので、共通の教科書を開いて、ひとつひとつ丁寧に説明する。

長時間念話しても政府から叱られないので気楽だ。教科書を指さしながら伝える。映像を見せられないのが残念だけど、それでもアリシアと話しているだけで幸せだと感じてしまうひとときだった。


   ◇


‥‥翌日の学校では、私にいるのは彼氏ではなく彼女だったという噂が広がっていた。


いや何でだよ。だからアリシアとはたしかに毎日話してるけど別に付き合ってるわけじゃないってば。ただの友達だよ。昨日の体育館裏でどうしてそんな話をしちゃったのかよく分からないけど、少なくとも友達以上の関係はないからね。

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