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アリシア:中身

‥‥杖は威力を上げるためのものなのですよね。嘘はついておりません。嘘は。


『お姉様、杖がなくても日本と戦えそうですか?』

『そ、そうですね、今この窓から見える範囲でしたら簡単に破壊できます。杖がなくても、破壊する時間がのびるだけです。もとの世界の王城のような対策のされている部位は難しいですが、この世界に魔法がないのならほぼ問題はありません。‥‥ララもそういうことを考えるようになったのですね』

『他意はありません』


その言い方からすると、エレナもララもあの猫のようなおとなしい態度のままでいて、内心強い不満をお持ちだったのですね。ためこませてしまいましたね。


そんな物騒な念話の途中に、わたくしは床に座ったまま、ぽんとベッドの上に頭を乗せます。マノラの助言通りにやってみましたが、王女としてメイドや貴族と話しているのとはわけが違います。これまでわたくしは王族でしたから、家族以外はみなわたくしより身分が下なのです。今は違います。相手がわたくしを対等な存在なのか、下に見ているのか分かりません。だから怖いのです。

確かに入院は日本にとっては必要な措置だったのでしょう。ものを回収するのも医療上必要な措置で、その返却に政府から待ったがかかっている状態なのだと思うのですよね。それを返してほしいとお願いするときも、下から見上げてはダメで、あくまで対等としてお願いする。

わたくしもエレナも気は弱い方なのです。今回はマノラがいたのでなんとかできたほうなのですが‥‥もしマノラがいなかったらと思うとぞくっとします。


『‥殿下?』

「あ、失礼しました」


念話のときは小さめの声で、口に手を当てるだけでなく、口の周辺に軽い結界魔法を使いながらやることにしました。相手が盗聴するにしても、どのような手段を使うのか全く分からないのです。この対策は魔法を使った盗聴に対しては、盗聴者の技量次第で有効になります。そして、魔法がなくても声は周囲に全く漏れません。結界の張り方を間違えなければ、ですが。


ただ、念話魔法の欠点として、念話魔法を習得している人は複数の人に゙同時に音声を送れますが、そうでない人は念話をかけてきた人にしか返事できません。なので念話のできないマノラを入れて4人で会話するのはちょっと大変です。


「マノラ、こちらが交渉で出せるカードを整理しようという話でしたね」

『ああ、あくまで友好関係を築きたいのならカードは限られるね。ちょっとでも敵対的な態度を取るとすぐ崩れて元に戻すのに今の5倍くらい時間かかるよ。だから今日みたいに粘り強くやらなくちゃいけない』

「銘じておきます」

『まあ、1年たって帰るときに水晶玉が返却されなければ、日本を火の海にするのもやむなしとは思うけどね。まずクロヱを使って兵営地を特定、そこを破壊してから、次は王都(※日本の首都と読み替え)を破壊するって脅すほうがいいかな。日本にとって水晶玉と国民の安全を天秤にかけるなら、ほぼ間違いなく壊さずに返してくるだろうね。もし壊したら、その時はその時』


マノラにそう言わせるほど、水晶玉はわたくしたちにとっては重要アイテムなのです。聖女が見つかっても見つからなくても、どっちみちわたくしが死ぬのはあの世界なのですから。

‥‥そしてマノラもこういうことをすらすら言うくらいストレスがたまっていますね。致し方ないことです。それに、その作戦には穴がありますよね。


「‥‥マノラもみなさんも。今はまだ1ヶ月もたっていません。わたくしたちは戦いに来たわけではありません。不満があるのはわたくしも同じです。でも、わたくしたちが連れて帰る予定の聖女も日本人だということを忘れないでください。日本と友好関係を結ぶのは、聖女の協力を得る下地を作るためにも重要です。そう考えると戦わないほうがわが国が助かる可能性が上がるので、今できることを精一杯やりましょう」

『‥‥はい』

「それで、どこまで話しましたっけ‥‥モニカのマジカルバッグの中にある本がまだ返却されていないのですよね。エレナは魔法学8冊、植物学4冊のみで、ララは何冊でしたか?」

『‥‥‥‥‥‥‥‥50冊くらい、です』

「本の中身は?」


赤荻さまからもララからの聞き取りができていないと言われたのですが、もしや、日本人にも言えないくらいやばい本を入れていたのでしょうか。ララは魔法学の学者ですし、エレナよりも高度な専門書を入れた可能性は十分ありえます。


『‥‥‥‥し‥‥』

「し?」

『‥‥‥‥‥‥‥‥小説です』


‥‥ええと、そんなものをモニカのマジカルバッグに?


「何の小説ですか?」

『‥‥殿下、ララは男と女が裸で抱き合う小説を好んで読みます』

『お姉様、言わないでくださいっ!』

「ララ、声が大きくなってますよ」


念話なので顔は見えませんが、真っ赤になっているのでしょうね。はい。アダルト小説を50冊。仮にも王国の命運を背負った決死隊の荷物として。マジカルバッグの容量は考えなかったのでしょうか。エレナのようなおとなしい性格をしてずいぶん大胆ですね。

‥‥‥‥いろいろ言いたいことはありますが、とりあえずただの嗜好品なのはよかったです。


ちなみに我が国にとって男という存在は空想上のものですが、憧れる国民は多いです。このような小説も一部で出回っているのです。日本では多分、受け取られ方が違うのでしょうね。


「‥‥マノラ、これは返却してもらえそうですか? ‥‥‥‥分かりました。エレナよりも先に返却される可能性が高いそうです。文化研究に協力すれば、より早まります」

『‥‥‥‥け、研究しなくでいいからっ、返さなくていいです‥‥‥‥』

「エレナの本は翻訳を進めているのでしたね。そこから単語や文法を特定されて、いずれ解読されますよ」


そこからララの言葉はありませんでした。悶え苦しむ声が聞こえます。‥‥とりあえず話を進めます。


「ところでエレナの12冊は今すぐ返してほしいくらい大切なものですか?」

『いいえ、もとの国が滅ぶ可能性も考えて、いざというときには日本に引き取ってもらうつもりで持ってきました。内容は全部覚えておりますし、なんなら私が幼い時に勉強のために書いた写本が国に残っています。‥‥ですが勝手に取り上げられるのは傷付きますね』

「‥‥分かりました。返してもらえるようマノラと相談して交渉します」


‥‥さりげなく言っていますが、エレナもその年齢で魔道士団の副団長に上り詰めるためにかなりの努力をしていたのですね。話の本筋ではないので、後でねぎらっておきましょう。


「ちなみにあの本を読めば日本人も魔法が使えるようになりますか?」

『いいえ、魔法の使用には魔力が必要ですが、そのためには親のどちらかが魔力持ちでなければいけないことが分かっています。つまり日本人がわが国の人と作った子供は魔法が使えます。後天的に魔力を増やすことはできますが、ゼロからの魔力獲得はごく一部の例外を除いて不可です』


そういえば我が王国は今こそ全員が魔法を使えますが、はるか昔は魔法使いは少数派だったと聞いたことがあります。その時に研究されていたのでしょう。


「それは黙っておきましょう。ことと次第によっては、1年後帰還する時に1人置いて行けと言われかねません」

『ですが、そのことも日本側にある魔導書の中に明記してあります』

「‥‥‥‥祈るしかないですね」


ここでマノラから『日本が王国と長期的な友好関係を保ちたいなら、こちらにも拒否権を与えてくれるはず。仲良くなりたいと思わせるのが一番だよ』という助言をもらいます。今はちょっと話がずれるので、後でまた詳しく相談しておきましょう。

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