3話 影-異空間 (1)
この様子もずいぶん昔のことのようだ。
国杜様に反旗を翻した村を壊滅させた時、あれもとうに3年は前なのか。
まぁ、とはいっても大規模すぎて悪目立ちはしてるがな。
「シュタルド騎士団長、A〜L全部隊いつでも出撃可能です」
「そうか」
一部隊42人、総勢504ともなる精鋭たちが揃い踏みとなった。
正直、狭い洞窟内で人数の圧力をかけても意味はさほどない。
ヤツらの始末であれば私と連携のできる部隊で事足りるであろうが、ここは前人未到のSSSダンジョン。
頭数が多いことに越したことはない。
私は彼らの先頭へと出て、その渇望を一身に受けた。
「2年ぶりとなるが、今回の作戦を主導するシュタルドだ。新しく入った者には馴染みはないかもしれないが、聖騎士団団長を務めている。よろしくたのむ」
サッと自己紹介を終えると、歓喜と憎悪をごった煮したような歓声が上がった。
いつも必要以上の「成果」をあげていたからな、敬われも恨まれもしているのは理解している。
だが、この任にそんな私情は関係ない。
国杜様直々の任務に疑問を抱くなど、世間知らずのバカか能無しの革命家だけなのだ。
「まず、腕に自信のあるものと私が先行して奥に進んでいく。ヤツらのレベルであればある程度の階層までは進めるだろうからな。他のものは一階層から順にくまなく人海戦術で探していけ。いいな」
指揮官がリュゲルである以上、このダンジョンからすぐに逃げだそうとするのは考えにくい。
外に逃げたところであいつらほど目立つヤツらはいないからな。
このダンジョンを根城にしようとしていると見て間違いない。
隠れてやり過ごそうにしろ、奥に進んでいこうにしろ、この人海戦術があればいずれ見つけられるだろう。
問題は、ヤツがその時にどんな手を打ってくるつもりなのか、だ。
トカゲの考えなんて予測はできない。
後手には必ずまわされる。
マンパワーと実力派で戦力の分散をさせ、どちらのチームでもある程度の肉壁で始末できるようにはしているが、さて、どうなるか。
「さて、それではチーム分けをするが……、A隊隊長クレア、D隊隊長コロトジカ、G隊隊長マーカトニクス。以上三名は私とこい。他の隊の者は隊長命令を遂行、A隊D隊G隊は各隊に合流し指示を仰ぐように」
この2年で騎士団のメンバーもかなり増えたようで、私がヘタに関与するよりは各隊長に委ねたほうが効率もいい。
ADG隊は顔ぶれが変わっていないので、ある程度動きの予測はできる。
この3人とは付き合いも長い。
連携らしい連携もとれるだろう。
よし、作戦はこれで────。
「はい!!!!!!!!!!」
「……ん?」
部隊の後方、なにやら甲高い声が辺りに響いた。
ものすごく嫌な既視感のある声。
「シュタルド様!! アチシにも先陣切らせてくださいなっっ!!!!!」
「………………名前は」
「アチシ、ミコトと申し、ます!!!! 絶対役にたち、ますっ!!! ぜひオトモさせてくだ、さいっっ!!!!!」
「…………」
いつから…………、ここは託児所になったのか。
身長はおよそ150センチ。
クリッとした目といえば可愛らしく聞こえるが、ただ童顔なだけ……というより本当に子供のような見た目の女。
なぜかいま、まったく関係ない数日前を思い出していた。
リュゲルと、ヒナタと、あともうひとり。
年増のくせしてバカみたいに派手な衣装でヘラヘラしてるあのガキくそエルフ。
あれとまさしく同じ系譜。
こいつらには仲間の神経を逆撫ですることしか脳がないのか。
「ね! ね! いいですよ、ねっっ!!!」
「…………すぅ……、……隊の規律を乱すことは許されんぞ」
「えー! 頑固っっ!!」
これが今時の若者か。
教育機関の崩壊をこんなところで目の当たりにするとはな。
まあ、ちょっと凄んだだけで引き下がっていくのは操作しやすく助かるが。
だがしかし、彼女をあしらったのも束の間、私の神経へと手を伸ばしてきた者がもうひとり。
「ま、いいんじゃないでやんすか。だんちょーさん」
話しかけてきたのはD隊隊長コロトジカ。
こいつもヘラヘラタイプだが、仕事はできるヤツなので信頼できるヘラヘラタイプだ。
「なんだコロトジカ。引率教師にでも興味あるのか」
「あれ、聞いてないでやんす? こいつ国杜さんの娘でやんすよ」
「なに?」
こいつが?
お嬢様……とは呼べそうにもないな。
「まだお子さんでやんすがね、実力としては隊長クラス……つっても過言だったり過言じゃなかったり」
なるほど、彼女が日本人ならば役にはたつ。
戦闘能力によっては前線を張らせても問題はあるまい。
「よし、わかった。配置の変更を行う。A隊D隊G隊隊長ならびミコト兵士は私と同行してもらう。それ以外の者は変更なしだ」
「うぉおおお!!! やたーーーー!!!!」
国杜様の娘とあらば死なせるわけにもいかない。
私のそばに置いていたほうがなにかと安全ではあるだろう。
……というのは建前で、この手のヤツは目を離した瞬間、火種の元凶と化す。
危機感のある現場で暴れさせていたほうが扱いやすかったりする。
「ヒュー、珍しい。あの堅物団長が」
「ふん、私もこの2年で学んだのだ。あの手の性格は規則正しく従わせたらトラブルしか生まないとな」
「あはは……リリムちゃんかな。ご愁傷様で」
「よし、それでは各員配置につけ。私たちもいくぞ────」
「……」
「…………ん?」
一瞬だ。
ほんの一瞬、数十秒。
クレアとなんともない会話をした。
他の兵へと指示をした。
そして再度、私の部隊へと顔をむけた。
なぜ彼らは苦笑している。
そしてなぜ、肝心のヤツが跡形も点在していない。
冗談だろう?
目を離した瞬間とはいったが、一瞬も一瞬だぞ。
この一瞬で起こせるトラブルなど、普通ならたかが知れているのではないか。
「彼女は」
「あー……そうですね。シュタルドさんの話が終わるやいなや、こう……ダダダっ! ……と」
「…………」
「……」
「………………あいつの実力は隊長クラスなんだよな」
「あ、はい。それくらいはあると。ある程度は単独行動を許しても……」
「違う。隊長クラス『しか』ないんだよな」
「あ……。あー…………そう、ですねぇ……」
何度もいうが、ここは前人未到のSSSダンジョン「ピースエデン」だ。
私が雑魚の殲滅に2分もかかるのだぞ。
浅層でこれなら、さらに奥はどうなるか。
「私は少し急いでいく。お前らは手筈通りに進んでいけ。いいな」
「へ、へーい。了解……」
とりあえずみつけ次第、あいつの頬は叩こうと思う。
指導でもなんでもない。
私のストレス発散のためだ。
………………
…………
カランと鳴らすランタンが、空洞音と共に奥へと消えた。
持ち上げた拍子に炎がゆれる。
休息はとれた。
準備も整った。
私たちにできることは、このまま進むことだけだ。
「よし、いくぞ……」




