23.オムレツのゆくえ
次の日は、一段と冷えた朝だった。
山に来たのを痛感する。
いつも早起きの宗佑は部屋で一番に起きた。
着替えを探したけれど、それらしいものがなかった。
まぁ、これでいいか。
昨日の午後から来ているこの服のまま朝食会場に向かった。
宗佑は、旅館の、どうやって作っているのか、ミミみたいなのがぐるっとついたシワシワのオムレツが好きだ。お父さんは、目の前で作ってくれるホテルのオムレツが好きだという。中がとろっとしていて、好きな具を選ぶところからもう自分専用だ。宗佑が好きなそのオムレツは、たぶんどちらかというと工業製品のような食品だ。中にひき肉とニンジンが入っていて、ケチャップがかかっている。ミミがちょっと乾燥して硬いのがいい。
そのオムレツが、レタスのうえに乗っていて、プレートのとなりの窪みに半月形のハムとミニトマトが一つ。一口大の焼き魚。クロワッサン1つにオレンジ一片。味噌汁、ご飯にふりかけ、牧場の朝。
最高だな、と思った。欲を言うならヤルクトかジョアがほしいけど。ヨーグルトより、プリンがいいけど。
いつもの給食とはまた違う旅館の、というか民宿のご飯。食べ慣れないのか食が進まない児童もそれなりにいるようだった。ぜいたくだな。そんなことを思う。ペロリと綺麗に食べ終わり、見渡すとすこし離れたところにいたミヤは牧場の朝とオレンジしか食べていないようだった。オムレツ、残すって選択肢があるのか!ミヤと目が合った。そして、それに気づいた周りが、えっそれしか食べないの?ミヤに声をかけた。食べなくても様になる。何なんだ。
だって、宮崎さんだよ
昨日の、ルームメイトの声が頭に響いた。
「オムレツ、ほしい」そんな声がつい宗佑の口をついて出た。
助け舟と思ったのか、ミヤが破顔して、「なになに、そうちゃんオムレツ好きなの!」嬉しそうに宗佑のプレートにオムレツを載せてくれた。
「うん」
小さく答えると、「わ、そうちゃんかわいい」男子がからかった。「なになに!」女子が話に混ざってくる。
「そうちゃんオムレツ好きなんだって、余ってる人ー?」
こういうときのウザは何なんだ。
一致団結したウザ。徹底的なウザ。懇切丁寧なウザ。
めんどくさいので無視してオムレツを食べる。
やっぱり美味しい。
かといって、もうこれ以上いらないけど。
「半分あったよ」
どこから来たのか、そして何で割ったのか分からない、2つに分けた半分です、というオムレツが、味噌汁の蓋の裏に乗せられてまわってきた。ウワァ…
超やなんだけど。食べかけなの?なんなの?
え、嫌がらせ…?
嫌な顔がやめられない。
「あかりがまだ食べ終わってなかったからゲットした!」
奥の方で女子が嬉しそうに言った。
は、結局食べかけなの?なんで?
困っているうちに、宗佑の前に、味噌汁の蓋にのったオムレツ半分が着座した。
「半分なら食べてみようかな」
ミヤが言ったのが聞こえた。え、そういうのあるの?あの子の残りだからってこと?昨日あんなにバッサリすごいことになってたのに?
僕は、聞こえないふりをして、一瞬でその一切れを食べた。ぱくりと一口。もぐもぐと味わう様子をみんなが見ていた。




