18.しおり
ウィンタースクールも目前。しおりが配られた。
表紙にあたるところに、大きな額縁のような枠が印刷されていた。各自ここに表紙をデザインして持ってくる、という宿題が出ていた。
こういうの、本当に苦手だ。
日程も、ウィンタースクールであることも学校名も、
表紙に必要な要素は既に枠の外にすべてかいてあるのだ。あとはイラストでも描けばいい、そういう枠だと分かる。
でも、絵心もないのに何を描いたらいい?
いや、違う。
何を描いたら格好悪くないのか。
無難を攻めたい。
いつも、それが宗佑にはわからないのだ。
ポケモンとか、マイクラとか、キャラクターを描いている人もいたし、ウィンタースクールらしく雪山にリフトを描いたりしている人もいた。ミヤは、シルエットでスキーしている人を描いて、ロゴのように英語で自分の名前を書き入れていた。
宗佑は、いつかのあの子のイラストを思い出して、メガネを端に小さく描いて手をとめた。
「そうちゃん、そんなにそのメガネお気に入りだったの…!」誰かが気づき、宗佑のメガネをじっくり見ながら隣に1つメガネを描いてくれた。そのあと、宗佑のしおりはみんなの手をわたり、三者三様…30者30様みたいな、メガネのイラストで埋め尽くされた表紙ができた。あの子が描いたメガネはどれかよく分からない。でも、寄せ書きされて額におさまったメガネたちが宗佑には宝物に見えた。
金管バンドの練習からの下校時、あの子が「ねえ、あのメガネ」声をかけてきた。ちょっと写真撮らせてくれない?そう言われ、宗佑は仕方なくランドセルを下ろし、連絡袋からしおりを取り出した。あの子も荷物からタブレットを取り出し、写真を撮るのを待った。影になっちゃうから持ってて、と頼まれて、下駄箱の床と直角にしおりを持った。
あの子は丁寧に端まで収まるように画角を調整し、額装されたメガネたちを画像フォルダに収蔵した。
「完成したところ見たかったんだよね」
とても嬉しそうに笑っていた。
「何の絵にしたの?」
宗佑が聞くと、あの子はランドセルのポケットのようになっているスペースに、ファイルにも入らず少し上が飛び出ていたしおりをサッと取り出して見せてくれた。雪山、わらじづくり、野口英世記念館。ウィンタースクールの主はアクティビティがイラスト化されて、その周りに感想の記入欄がついたようなものだった。
「振り返りのときに書こうと思って、いい想い出になるくない?」
不適切な日本語。なるくない、ってどういう言葉だ。
そう思いながらも、すごくいい表紙だなと思った。
宗佑の反応がいつも通り薄いからか、もともとあまり反応を期待されてなかったからか、すぐにあの子はカバンにしおりをしまって歩き出した。僕は自分の額装メガネのしおりを手に持ったまま追いかけた。
ぱらぱらとページをめくりながら歩く宗佑の手元を眺め、あの子がひとりごとのように話しかけるように、そのどちらともいえる感じで話しかけてきた。
「班長会ってなにするんだろうね」
「班長なの?」
「そだよー」
僕もだ、と言う前にあの子の家の方向との分かれ道がきた。
振り向きもせず、じゃ、と声が届く頃にはあの子はぐんと向こうにいた。1人になると、たたっと靴音を響かせて走っていく。
ミヤのすきぴ。
僕の…何?
楽しい時間が積み重なって、宗佑にとってはすごく仲がいいように思える相手で、それでもあの子にはもっとずっと仲がいい子が沢山いるんだろう。
ままならないよね、人生は。
あっという間にあの子の姿は小さくなっていった。




