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49.公的な決着

完結まであと二話!

さらっとざまぁ回。短めです。


 国王と宰相と各省の大臣。そして四大公爵家の当主が内密に集い、会議が開かれた。


 しかし、ここにローデリヒの姿はない。

 彼はすでに、王命により投獄されていた。


 クリストフの綿密で、周到で、手段を(えら)ばない、火の公爵家の総力を動員した調査により、十二分な証拠とともに、ローデリヒの様々な不正や悪行が白日の下に晒されたのだ。

 その中には、幾度かのオスカーへの暗殺未遂もしっかりと含まれている。


 これまでは腹で思うところはあっても、ガイスト王国の要となる精霊の加護を得た家門として互いに直接的には手を出せない関係であったはずだ。

 しかしローデリヒは肥大した私欲によって、越えてはならない一線を越えてしまっていた。


 クリストフの情報収集は、元はと言えばオスカーの願いを叶えるために始めた行動だったが、掘り下げるごとに明らかになるローデリヒの所業はもはや国賊に値すると判断し、完膚なきまでに叩きのめす必要があるという判断が下されたのだ。



 しかし会議の真の主題は、ローデリヒの浅はかな行いのことなどではない。

 その妻、ヘンリエッテの許されざる罪業についてだ。


 その罪は、ただ単純に辺境伯家の令嬢に対する殺人未遂にはとどまらなかった。

 使用された呪具がオスカーの功績によって回収され、魔塔が慎重に解析した結果、恐るべきことが判明したのだ。


 その翡翠の首飾りは、古い時代に作られた、現存の技術では再現が不可能なほどの非常に高度な呪具であったらしい。

 ヘンリエッテはこの呪具を、旅好きだった今は亡き実弟が国外で入手したものを、自身がエーデルシュタイン家に嫁ぐ前に譲り受けていたらしい。


 その後日常的に身に着け、長い年月をかけ邪悪な願いを掛けて、呪具に膨大な穢れを溜め込んだ。

 そして自らが育てた穢れに飲み込まれ、化け物のような存在になり果てたのだ。


 野生の獣が穢れを溜め込むと魔獣に変化する場合があることは、魔塔の研究によってすでに知られている。

 今回ヘンリエッテが穢れを取り込み、人間ではなくなった状態を、研究者たちは『魔人』と名付けた。


 非常に稀な事例とは言え、人間がそのように恐ろしいものに変化するという現象は、知れれば民心をいたずらに騒がせることになる。

 魔人の存在については極秘事項とされ、今後の魔塔の子細な研究が()たれることとなった。



 そしてヘンリエッテが風の公爵家に属する者でありながら穢れに身を浸し、守護すべき国土を汚染した行いは、この国が精霊からの愛情と信頼を失い、見放されてもおかしくはない大罪である。


 首飾りに蓄積されたヘンリエッテの穢れが魔獣を呼んだこと。風の公爵家が精霊の信頼を裏切り、風の守護が失われかけていたこと。

 それが、今回の魔獣問題の根本的な原因であるという結論が下された。


 これが表沙汰になれば、風の公爵家は国民の信頼を完全に失うだろう。

 その怒りは、他の三つの公爵家、ひいては王家に向けられる可能性も否定できない。


 風の公爵夫人、ヘンリエッテ・エーデルシュタインは病死として発表されることとなった。

 そして夫であるローデリヒは夫人の死を悼み、息子に後継を任せ、自領で隠遁生活を送ることになったと伝えられた。


 事情を知らずとも、彼の性根をわずかにでも知る者はその話を鵜呑みにはしなかったが、かといって真相を探るために危ない橋を渡ろうとする者は皆無だった。


 ローデリヒは日の当たらない場所で、行いにふさわしい罰を受けることとなった。

 その後、彼の姿を見た者はいない。


 そして、シェリル・デルファ侯爵令嬢は、辺境伯令嬢を夜会で階段から突き落としたこと、そして自宅へ招き、害そうとしたことが明るみになった。

 ヘンリエッテとの共謀が表沙汰になることはなかったが、その罪は重いと判断され、デルファ侯爵家は貴族籍剥奪、シェリルには鉱山で終生の苦役刑が科せられた。



 これが、国の中枢に関わる者のみの間で語り継がれる『ヘンリエッテの首飾り事件』の顛末である。


 しかし、ここまでのことを引き起こしたヘンリエッテの本当の望みが何であったのかは、誰も知る者はいなかった。



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