第23話
生活魔道具店は、家具屋と同様で展示された物のすぐ隣に、圧縮されたキューブボックスが入った籠が置いてあった。そこで驚いたことといえば、見慣れた冷蔵庫や洗濯機があったことだ。それぞれ、冷却食料庫、衣服用洗浄機といった別の呼び方をされているが、使い方は奴隷たちの話を聞く限り、ほとんど同じようだった。文字が読めないので、どんな機能かを聞きながら日本の家電製品と比較して購入していった。
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さて、次は何がいるだろうと、私の手のひらで開かれたノートへ視線を落とす。
《ノート》
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狐人→治療器具、医学書、薬品、 ̶清̶潔̶な̶部̶屋̶
龍人→ ̶大̶き̶な̶ベ̶ッ̶ド̶、新聞
狼人→ ̶鍛̶錬̶す̶る̶場̶所̶(̶庭̶や̶部̶屋̶)̶
鬼人→ ̶頑̶丈̶で̶壊̶れ̶な̶い̶部̶屋̶
エルフ→ ̶静̶か̶な̶場̶所̶に̶あ̶る̶家̶
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食料品は、最後にした方が良いだろう。あとは狐人と龍人のか。狐人のは時間がかかりそうなものが多そうだが、しっかり選んで欲しい……となると先に新聞か。
生活魔道具店を後にした私たちは、それから新聞販売店に来ていた。新聞販売店の表には、ココナッツブラウンの配達鳥ゴーレムが綺麗に陳列しており、それらの瞳にはエメラルドの輝きを放つ石が埋め込まれている。
ゴーレムとは、動く泥人形のことで、作った主人の命令を聞いて動くロボットのようなものだ。この配達鳥ゴーレムに新聞を運ばせて、家まで届けさせるようだ。
ゴーレム自体は知識としては知っていたが、形としては地を歩く巨人型ものしか知らなかったので、小型のものがあることに思わず目をぱちくりさせた。
店の中へ入ればぱっと見、各新聞社の新聞がずらりと並べられているようだった。だが、いまの私にはそれらに何が書かれているのかはわからない。
"最近の社会情勢が気になる"と龍人が言っていたから、「全部とるか?」と聞けば、「いいや」と首を横に振った後、暫くの間、店内をぐるりと回って二社の新聞を手に取った。
「不倫だののスキャンダル新聞はいらん。では、これらを頼む」と言って渡してきた。
(やけに新聞社が多いと思ったら、そういうやつも入ってるのか……)
ずいっと私の胸に押しつけられた新聞を受け取って、カウンターへ向かう。
「この二社の定期購読を申し込みたい」と言って私は新聞をカウンター上に置いた。
「では、こちらに住所を記載して下さい」
そう言って店主が背後の棚に置いてあった配達鳥ゴーレム一体と、カウンター下の引き出しから細長い紙を取り出してきた。
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定期購読申し込み
ゴーレム番号:W-68
住所:
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(このほっそい紙に?)
内心驚きつつも、アイテムボックスから不動産で貰った『土地及び建物売買契約書』の控えを取り出して、そこに書かれている家の住所を写して書いた。
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定期購読申し込み
ゴーレム番号:W-68
住所:ヒーラギ,ヴィヴィロア,ミューベリ市,FC₂AoBB
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書いたそれを店主に渡す。
「住所にお間違いはないですかい?」
「……もう一度確認します」
一度、「大丈夫です」と言いそうになって頷きかけたが、読めないので全然大丈夫じゃない。だから、「龍人も確認してくれ」と『土地及び建物売買契約書』を渡して確認させる。
「大丈夫だな」
そう頷いた龍人に安堵して、店主に再度手渡した。
そして、店主は定期購読申し込みの紙を先程カウンター上に置いた配達鳥ゴーレムの後頸部の細長い穴へ差し込んで入れた。
「配達先、配達先……ヒーラギ,ヴィヴィロア,ミューベリ市,FC₂AoBB……登録完了、登録完了」
すると、ゴーレムの目がきらりと光って、翼を羽ばたかせながら機械的にそう喋った。
「これで登録完了しました。明日の朝からこの二社の新聞を配達します」
ゴーレム登録料と申し込み料金を支払って隼人たちは新聞販売店を後にしたのだった。
(ゴーレムって……喋れるのか)
〜住所の記載〜
ヒーラギ,ヴィヴィロア,ミューベリ市,FC₂AoBB
建物名または表札名,都市名,地域名,ポストコード
※イギリスの住所を参考にしました




