常識の欠如
「ったく、クソ親父が」
親父に蹴られた頬をさすりながら仕留めた『角のやつ』を引きずり俺は家へと向かい歩を進めていた。
『角のやつ』は比較的遠くにいたので仕留めに行くのに少し時間がかかってしまったが、これも親父のせいだ。
先ほどの威圧のせいで森の中にいる生き物が俺たちの住んでいるあたりから一斉に離れてしまい見つけるのに苦労してしまった。
なんとか気配を探り森の端にいるのを見つけたが、親父の威圧のせいで警戒心が高まっていたため仕留めるのにいつもより気配を隠さなければならなかった。
ただ『角のやつ』は風と大地を操って攻撃をしてくる厄介な奴ではあるが、肉質は柔らかく防御面は大したことがないため首を蹴り砕きそのまま近くにあった割と平べったい石を使い血抜きを済ませた。
つまり『角のやつ』は大したことのないこの森では比較的安全に狩れる獲物だ。
だが親父に「修行になんねぇから狩るの禁止」と言われている。『角のやつ』が食べれるのは1年に2回、何か祝い事がある日だけである。
「肉も柔らかくてうまいし俺は毎日のように食べてたいんだけどな」
『角のやつ』は焼いても煮てもうまいし、『デカいやつ』とは違い臭みもなく下処理も楽で重宝するんだけどな。
そんなことを考えているとだんだんと家に近づき、俺は家の近くにある解体場所へと向かい『角のやつ』を解体し始めた。
角と毛皮をきれいに剥ぎ取り内臓を取り出す。生まれてこの方10年以上毎日のようにやっているので慣れたものだ。
「しっかし親父のやつなんで今日は祝い事でもないのに『角のやつ』取ってこいなんて言ったんだろ。あの『女』とかいうやつに食わせるためなのか?」
「おぉ、クソガキ。それバラし終わったら焼いて中に運んでこいや。ちっとはええけど飯にすんんぞー」
「あー!」
家の窓から親父が声をかけてきたのでそれっぽく返すと俺は肉をそれぞれの部位へと切り分け足を鍋の中へ入れ茹でるとその間に柔らかい腹の部分の肉を切り少し薄めに切りフライパンで焼いた。
いつも通りの調理を済ませ家の中へ運び込むと『女』はこっちを一瞥して小さく会釈をした。
どうやら話し合いも済んだらしく冷静な顔をしている。傷跡も綺麗に治っているところを見ると親父が治したのだろう。
しかし俺がテーブルに料理を並べると眉間へしわを寄せた。
「…なんですかこれは」
「なにって…肉だよ」
「それはわかっています。問題としているのは何の肉なのかということです」
「『角のやつ』だよ。柔らかくてうまいぞ?」
「角のやつ?」
俺はこの後加工しようと持ってきていた角を机の上へ置き「こいつの肉だ」と説明をした。
すると顔はみるみる青ざめ血の気が引いているのが分かった。
「クロード様。もしかしてとは思いますが、こちらは『ウィザード・ディアー』の肉でしょうか?」
「あぁそうだ。うめぇぞ?」
「美味しいかどうかは別として、こちらの肉は彼が捕ってきたのでしょうか?」
「おぉ、そうだ」
「……」
女は人差し指をこめかみにあて考え込むしぐさをとると「はぁ」と小さく息を吐いた。
「クロード様がおっしゃっていた意味が分かりました。確かにクロード様に育てられているのが分かる強さですね。文句のつけようがありません」
「最低限は仕込んであるからよ。あの話、受けてくれんなら俺もついていくぜ?」
「ん?あの話って何だ?」
俺は席につくと二人の顔を見た。
「おぉ、ライト。おめぇも支度しろ。カイトのところに一緒に行くぞ」
「あ?カイトってなんだ?」
「さっきの話聞いてなかったのかよ。俺の友達だよ」
「ん?友達って何だ?」
「……クロード様。どうにもご子息様は常識が欠如しているように見えるのですが」
「あぁ。そうなんだよな。俺みたいな雑な奴が子育てするとこういう当たり前のこと教えるの忘れんだよなぁ」
「ん?なんだ2人とも難しい顔して。腹減ってんならとっとと飯食おうぜ?」
俺の言葉を聞き2人ともはぁっとさらに大きな息をもらした。




