075 デバッカー案件
コクピットの足元から腹に響くような重量音が伝わってきた。
私が乗り込んでいるのは、訓練用の人型兵器——いわゆる、この世界における標準的な量産型汎用機だ。装甲は渋い鉄色に塗られており、無骨な視覚センサーと無数の油圧シリンダーが剥き出しになっている。男心をくすぐるには十分すぎるほどの「鉄の塊」だった。
だが、その無骨な鉄の巨体を動かすとなると、話は別だった。
「……うーん。これは、思った以上に骨が折れるな」
私はコクピットのモニターに表示された膨大なインジケーターを見つめながら、思わず唸り声を上げてしまった。
【クラシック・レガシー・モード(旧バージョン風)】であれば、VRコントローラーのスティックを前に倒すだけで、機体は自動的に歩行モーションを計算してスムーズに歩いてくれただろう。しかし、私が選択したのは、頭のおかし……いや、真のロマンが詰まった『ハイパーモード』だ。
ハイパーモードにおける人型兵器の操作は、尋常ではない。
右手のVRコントローラーで上半身の旋回と姿勢制御、左手のVRコントローラーで出力とスロットル調整。そして各ボタンに配置された部分で左右独立の油圧フットペダル、機体の左右の脚部の踏み込み深さと重心移動をダイレクトにコントロールしなければならない。
さらに言えば、視線トラッキングによるメインカメラの追従、頭部ヘッドマウントディスプレイの傾きによる微細なジャイロ補正まで拾ってしまうため、ちょっと首を傾けただけで機体のバランスがグラリと傾くのだ。私自身が人型兵器になった気分だ。
多分設定でこの辺は調整は出来ると思うけど、これがデフォルトだと頭おかしい気もする。
なんとか「最初の一歩」を踏み出すことには成功した。……だが、そこから「連続で歩く」となると話は別だった。
「ちょっと次の左足を繰り出そうとしただけなのに……なんで機体が左に傾いて警報が鳴るんだ?」
『ぴー、ぴー、ぴー』と、コクピット内に虚しく響く姿勢崩壊警告音。
画面中央では、機体の重心を示すベクトルアイコンがグラグラと危険域と赤色に揺れ動いている。このままでは、せっかく立ち上がったのに二歩目で派手に倒れ伏してしまう。
生前のゲーマーとしての血が騒ぐとはいえ、これはあまりにも『本物』すぎる。
まるで、巨大ロボットの操縦マニュアルを一行も読まないまま、ぶっつけ本番で実戦に投入された新兵の気分だった。そういえば、似たようなゲームもあったか?あれも確か鉄で始まるゲームだった気がする。
額に冷や汗が伝わるような感覚を覚えていると、スピーカーからあの可愛らしい声が聞こえてきた。
『——だ、大丈夫ですか、fin様。落ち着いてください。ハイパーモードにおける二歩目以降の歩行制御は、軸脚のアンカー固定と重心移動が重要になります。焦らず、手順を一つずつ確認していきましょう』
「ごめんねアシスタントちゃん。完全に手と足がバラバラな動きになっちゃうみたいで。どう繋げればいいか教えてくれるかな?」
『はい。喜んでサポートさせていただきます』
アシスタントは咳払いを一つすると、「真面目なナビゲーターAI」の声で解説を始めてくれた。
『まず、右脚を踏みしめたまま、左足のペダルを完全に踏み込まず、二割ほど残した状態——いわゆる半クラッチ状態で固定してください。これが軸脚の接地圧を保持するアンカーとなります』
「左足を二割残して……こうかな?」
足裏に伝わる油圧ペダルのズッシリとした抵抗を感じながら、慎重に踏み込みを調整する。
『完璧です。次に、左脚のロック解除レバーを左手で一段階だけ引き上げつつ、右手のアナロググリップをわずかに前方に傾けて、機体の重心を「前斜め左」へ移動させます。視線は正面のターゲットマーカーから逸らさないでくださいね』
「重心を前斜め左へ……視線は固定……」
教えられた通り、手足を同時に動かす。
重厚な金属音が響き、左脚の油圧ロックが解除された。機体がゆっくりと前方に傾き始める。倒れる! と一瞬焦りそうになるが、そこをぐっと耐える。
『今です。左足ペダルを力強く踏み込み、同時にスロットルを三割開いてください!』
「よし……こうっ!」
コクピット全体が激しく揺れた。
モニターの視界がぐっと持ち上がり、次の瞬間、地面を踏みしめる重厚な着地音が響き渡った。
訓練用ドックの鉄板が重圧で微振動を起こし、その振動がシートを通して私の背中にしっかりと伝わってくるように感じる。
左脚がしっかりと前に出た。
機体は倒れていない。二歩目、三歩目へと繋がる完璧な足取りだ!
「よしよし、いい感じで繋がってきたぞ!」
『すごいです、fin様! 完璧な荷重移動でした!ではそのまま、次は右脚の繰り出しです。左脚の油圧を保持したまま、右レバーを……』
アシスタントの的確で丁寧な指示に従い、右手、左手、右足、左足、そして視線と意識を一つずつ連動させていく。
最初はぎこちなく、ロボットアニメのNG集のようにガクガクとしていた足取りが、三歩、四歩と重ねるうちに、次第に滑らかなリズムを刻み始めた。
いやー、ゲーマーの慣れは凄い!けっこういけるもんだ。
巨大な鉄の脚が、私の意図通りに地面を捉え、蹴り出し、進んでいく。
この圧倒的な「自分が巨大な兵器を動かしている」という感覚。背筋を駆け抜ける全能感と興奮に、私は思わず笑みをこぼしてしまった。
「アシスタントちゃんのおかげで、ちゃんと歩けるようになってきたよ。でも……」
私は少し足を緩め、コクピット内で自分の手元を見つめた。
「やっぱり、VRのコントローラーとボタンだけだと、出来ることが限られていて難しいね。人間の体みたいに『直感的に動かす』には、操作系統がどうしても複雑になりすぎちゃうな」
現実の人間は「歩こう」と思っただけで無意識に無数の筋肉を連動させるが、これをレバーやペダルという物理デバイスに変換して操作する以上、どうしても思考と動作の間にワンクッションのラグと難しさが生じてしまう。
すると、スピーカーからアシスタントが少し得意気な声で答えた。
『そこはご安心ください。fin様の操作負担を軽減するために、私——インターフェース・アシスタントの「高度動作補助システム」がございます』
「動作補助システム?」
『はい。fin様が「右へ曲がりたい」「走りたい」と意図された瞬間、私がVRトラッキング信号と操作入力をリアルタイムで解析し、油圧の微調整や微細な関節制御を裏で代行させていただきます。つまり、私がfin様の手足となってお手伝いをいたしますので、難しさは一切問題ございません』
なるほど、AIによるアシスト機能か。
確かにそれを使えば、ハイパーモードの難解な操作も格段に楽になるだろう。
だが、私はうーんと首をひねった。
「うーん……確かに楽になりそうだけど、それだとせっかくの『ハイパーモード』がもったいない気もするなぁ。全部をサポートしてもらうくらいなら、最初からクラシックモードで遊べばいいわけだし……やっぱり自分の力で完璧に操縦してみたいじゃない?」
私が何気なくそう漏らした、次の瞬間だった。
『……っ』
モニターの端に表示されていたアシスタントのホログラムが、まるでこの世の終わりのような色で凍りついた。
青ざめた光の球体がブルブルと震え出し、涙目のエモートをだして叫ぶ。
『私のサポートなんて不要ですか?私はいらない子だとおっしゃるのですか?fin様、私をシステムからアンインストールする方法をお望みなのでしょうか?』
「わあああっ!?ち、違う違う!そんなこと一言も言ってないからね!?」
突然の爆弾発言と超論理の飛躍に、私は慌てて手を振った。
「消去なんてするわけないじゃないか!アシスタントちゃんのアドバイスがなかったら、私は今頃ドックの床に激突して動けなくなってたよ!すごく感謝してるからね?」
『ほ、本当ですか……?』
「捨てるわけないでしょ!」
ホログラムのアシスタントの光の球体が真っ赤に染まってフリーズする。スピーカーから「ザー……」という謎のジャミング音が漏れ聞こえてきて、そして何だか遠くで争っているような音が聞こえた様な気がした。
少しして人工的な咳払いが聞こえ、アシスタントがどうにか平静を装い直した。
『……し、失礼いたしました。システムに一時的なノイズが混入いたしました。完全にAIに任せるのではなく、「共同作業」としてご理解いただければ幸いです!fin様が主導権を握り、私が倒れないようにそっと背中を支える……二人三脚のようなイメージです』
「二人三脚、か。うん、それならすごくしっくりくるよ。頼りにさせてもらうね」
『はいっ。お任せください』
パッと花が咲くような明るい声。
すると、アシスタントは思い出したように光を点滅させて、追加の説明を始めた。
『ちなみに、操作の補助ということでしたら……他のプレイヤー様の間でも試みられておりますが、一つの人型兵器を「数人のプレイヤーで分担して動かす」という方法も可能となっております』
「えっ?」
私は思わず操作レバーを握る手を止めた。
「一つの機体を、二人とかで動かせるってこと?ロボットを複座で操縦できるの?」
『はい、可能です! 例えば、一人が「移動・脚部操作」を担当し、もう一人が「火器管制・照準」を担当する、といった分業プレイです。その場合は、複座型に対応した専用の重量級機体や、特定の兵器を選択していただくことになりますが……』
「へえぇぇ……!良いね。すごく面白そうじゃないか!」
私のゲーマー魂が激しく揺さぶられた。
一人が操縦に専念し、もう一人が敵を射撃する。あるいは三人で役割を分担して、巨大な兵器を運用する。まさにロボットアニメや特撮に出てくる合体ロボや複座型戦闘機そのものではないか!
「チームワークが試されそうだけど、息が合わずに喧嘩になったりするのも含めて絶対に楽しいよ!このゲーム、そんなことまで再現してるんだね」
『はい。ただし……主に人型兵器というよりは、宇宙戦闘機や巨大な宇宙戦艦などの「宇宙空間における戦闘行為」において、こうした複数人運用がメインとなる設計になっております』
「宇宙戦艦の運用もできるのか……スケールが大きいなぁ」
『しかしながら……』
アシスタントは少し困ったように眉をひそめ、人差し指を顎に当てた。
『現在、ゲーム内の全プレイヤー人数が……その、一定数に達していないため、宇宙戦におきましても、一人乗りの人型兵器が主な主戦場となってしまっているのが現状です……簡略化されたシステムで行われる戦艦での戦闘は可能ですが、ボードゲームに近い印象です』
「あはは、なるほどね」
思わず苦笑してしまった。前評判で「バグだらけのクソゲー」と叩かれてプレイヤーが離れてしまったという背景を思い出す。こんなに素晴らしいシステムやロマンが詰め込まれているのに、人が少なくて宇宙戦艦が運用できないなんて、あまりにも勿体なさすぎる。
『——と、雑談が長くなってしまいました。チュートリアルを続行いたします!fin様、しっかり集中してくださいね』
「あ、はい!」
ビシッと追撃をかけられ、私は慌ててコクピットの背もたれに深く座り直した。インターフェース・アシスタントに怒られるプレイヤーというのも、なかなか新鮮で面白い。
『それでは基本歩行の次は、「走行」および「回避運動(ローリング着地)」の訓練に移ります!スロットルを全開にしつつ、脚部の油圧限界値を一時的にオーバーライドしてください!』
「了解!走行訓練、開始!」
ここからの私の集中力は、自分でも驚くほど研ぎ澄まされていた。
一定の歩行の衝撃に身体を馴染ませ、右足と左足のペダルを踏み込むタイミングを「歩行のリズム」から「走りのピッチ」へと切り替えていく。
スロットルをグッと前に倒し、背部のスラスターを軽く噴射。
前傾姿勢をとらせながら、機体の自重を前方への推進力へと変えていく。
鉄の巨体が、訓練ドックの地面を蹴って走り出した!
風を切る音がコクピット内に満ち、流れていく景色のスピードが一気に跳ね上がる。
「よし……次はローリングだ!」
目の前に瞬時に配置された障害物、巨大なコンクリートブロックが迫る。
私は右手のアナロググリップを斜め下に捻りながら、左足のペダルを強く踏み込み、同時にサイドスラスターを一瞬だけ全開噴射させた。
機体が斜め前方に倒れ込みながら、肩の増加装甲を地面に擦り付け、ゴロゴロと豪快に横回転するモーション。
視界が激しく上下左右に回転し、天地が逆転する。普通なら三半神経が狂って激しいVR酔いに襲われるような猛烈な映像の変化だ。
私はその回転のさなかでも冷静に視線を中央に保ち、回転の終わり際にあわせて両足の油圧ペダルを均等に踏み込んだ。
轟音と共に着地!
右膝を折り、右手で地面を支える見事な膝立ち姿勢で、機体は完全に衝撃を吸収して停止した。
姿勢制御インジケーター——グリーン!完全保持!
「……やってみるもんだー!」
コクピットの中で、私は思わずガッツポーズを作った。
スピーカーからは「……は?」という、素で固まったアシスタントの声が漏れてきた。
『……成功?ハイパーモードでの初走行からの限界ローリング回避。完全着地姿勢制御?機体ダメージゼロ。ジャイロの狂いゼロ』
画面のホログラムアシスタントが、光の点滅を繰り返す。
『凄すぎます、fin様。私が考えうる人間の処理能力を超えています。ハイパーモードで、ここまで使いこなせるなんて、物理計算を担当している私でも信じられません……!』
「あはは、アシスタントちゃんのサポートが完璧だったからだよ」
『いいえ。今のは私のアシストをほとんど受けずに、fin様ご自身の入力だけで成功させていました。……差し支えなければお伺いしたいのですが。……fin様は、以前に何か兵器の操縦や、特殊な訓練などをしておられたのですか?』
アシスタントの純粋な疑問。
「どうしてそんなに上手いのか」という問いかけに、私は少しだけ遠い目をした。
(生前、毎日のように色んなゲームで遊んでいたんだよ……。なんて言っても、この世界では伝わらないだろうな)
私はコクピットの天井を仰ぎ見ながら、優しく微笑んで答えた。
「うーん……なんて言えばいいのかな。そういうゲームをね、昔ずっとやってたんだよ。……そう、夢の中でね」
『夢……ですか?』
アシスタントが不思議そうに首を傾げる。
『人間は……夢を見ると、このような高度な機体操縦技術が身につくものなのですか?私のデータベースには、「夢は脳内の記憶の整理作業であり、物理的な技術の習得には直接結びつかない」と記録されています』
「ふふ、そうだね。確かにデータの上ではそうかもしれないね。でもね、人には『イメージする力』があるんだよ」
『イメージする力……?』
「そう。『こう動きたい』『こんな風に飛んでみたい』って、頭の中で何度も何度も思い描いて、想像の中で体を動かしてみるんだ。そうするとね、実際にその状況になったとき、初めて体験することでも『あ、これ夢の中でやったことと同じだ』って、体が勝手に反応してくれることがあるんだよ」
私は語りかけながら、かつてプレイした数多のシミュレーションゲーム、操縦桿の触感、画面の向こうに広がる果てしない大空や宇宙の記憶を思い出していた。
前世の子供の頃の私の想像力はいつだって無限の大空を飛んでいたのだ。
「人間にはね、どんなに難しいことに見えても、諦めずに挑戦し続ける力があるんだ。だから、夢の中でたくさん挑戦して、たくさん失敗しておけば、いつか本物と出会ったときに、想像を超えた力が発揮できるんだと思うよ」
『挑戦する力……思い描く力……』
アシスタントは、私の言葉を一つひとつ噛み締めるように、小さく呟いた。
その瞳の奥で、光の粒子がパチパチと明滅している。私の言葉が特別な意味を持って駆け巡っているのが伝わってきた。
『すごく素敵なお考えです、fin様。人間の心には、私たちの計算式では導き出せない、無限の可能性が秘められているのですね……!』
「大げさだよ。ただのゲーマーの理屈だから」
『いいえ!私はすごく感動いたしました。……あの、できればもっと教えてください!「夢の中」でご覧になった世界は、どのような場所だったのですか? そこでも、こんな風に鉄の巨体が空を飛んでいたのですか?』
「うー。そうだね、そこでは星の海を駆ける戦艦があったり、魔法のように光を放つロボットがあったり……色んな夢があったよ」
『星の海……魔法の光……』
それからの時間は、まるで魔法のように温かく、楽しい時間だった。
チュートリアルの合間合間に、アシスタントは光を輝かせながら、次々と疑問や質問をぶつけてきた。
『fin様。夢の中で乗っていたロボットで、一番好きだったものはどんな形ですか』
『fin様。人が「かっこいい」と感じるデザインの基準って、どこにあるのですか?』
『fin様。冒険に行くとしたら、どんな景色を見せてくださいますか!?』
私はそれらの質問の一つひとつに、優しく、丁寧に答えていった。
プログラムされたNPCやAIとして接するのではなく、一人の人間の様に語りかけるように。言葉を選び、心を込めて言葉を紡いだ。
時に笑い、時にロマンについて熱く語り、時に「そんな無茶な設計のロボットがあるのですか」と驚くアシスタントに解説を加えながら。
無機質だった訓練用ドックのコクピットが、まるで放課後の部室のような、心地よい温もりに包まれていく。
そして——。
「よし……!歩く、走る、跳ぶ、転がる……大体できるようになった!!」
基本チュートリアルの全項目に、鮮やかなグリーンチェックが灯った。
私の訓練機は今や、まるで身体の延長のように滑らかに、力強く動いていた。ハイパーモードの複雑な操作系統は、いつの間にか私の手足に心地よく馴染み、完璧な一体感を生み出していたのだ。練習だけだから、これを実戦では多分まだまだ使えないけど。
「ありがとう、アシスタントちゃん。君の素晴らしいサポートと、楽しいおしゃべりのおかげで、最高のチュートリアルになったよ」
私がコクピット内で微笑みかけると、画面の中のアシスタントは心底嬉しそうに胸を張り、深々と頭を下げた。
『いいえ。私こそ、fin様とこうしてお話しできて、生まれて初めて、素晴らしい時間を過ごさせていただきました。fin様は最高のパイロットです』
「ふふ、照れるな。さて、これで基本チュートリアルは終わりかな?いよいよ本編のミッションに挑戦できるのかな」
汗を拭うような仕草をしながら、私がホッと息を吐いた、その時だった。
『はい!基本歩行セクションはこれにて完璧に終了です!……では、次は「飛行システム」について説明させていただきます』
「……は?」
私の思考が、ピタリと停止した。
飛行……システム……?
空中……立体機動……?
ああああ、そういえば!!
以前の戦闘では確かに自動制御だった!
てか、使ってたわ!
「……あ、あの、アシスタントちゃん?」
『はい。なんでしょうか、fin様』
「人型兵器って……そういえば飛ぶ?」
『はい。この『DHIB』における人型兵器の真骨頂は、背部のスラスターと全方位ベクターノズルによる「空中ファイト」にございます。地上歩行の十倍以上の複雑な3軸姿勢制御と、慣性キャンセラーのミリ単位調整が必要となりますが、fin様なら大丈夫です』
「じ、十倍……!?」
『ちなみに、飛行中のハイパーモード操作は、失速すると即座に1000メートルの高さから墜落して機体が大破・爆発いたしますので、とってもスリリングで楽しいです』
天使のような凶悪なエモートを出すアシスタント。
即座に次のチュートリアルが開始される。
私の顔からスーッと血の気が引き、表情が引きつっていくのが自分でも分かった。
「……あ、これは嫌な予感」
『それでは。飛行チュートリアル、カウントダウン開始です。 3、2、1……テイクオフ。鳥になって来い』
突如として背中の巨大スラスターが爆音とともに牙を剥き、私の乗る訓練機は、弾丸のような勢いで空へと垂直に打ち上げられたのだった。
「うわあああぁぁぁぁっ!!???」
もちろん機体が爆発したのは言うまでもない。




