048 続、四回目の配信も重要な件
「さて、会社設立の発表でみんなびっくりしちゃったかもしれないけれど……その関連で、まだまだ嬉しいニュースがあるんだ」
『重大な話しかない』
『事件だらけや!』
『これ以上何があるの!
『まだまだあるのね!』
『良いニュース!良いニュース!』
『突発なのに大事件しかない』
『もうおなか一杯です!』
『フィン様忙しいwww』
私は軽く息を整え、デスクの上の紅茶のカップに視線を落としてから、再びカメラへと向き直る。
「まずASMRのDL数がね、すごく好調みたいで。本当に、みんなありがとう。あ、正確にはASMRというか……ボイス販売、なのかな?」
私が少し照れくさそうに首を傾げると、コメント欄は瞬く間に祝福と愛あるツッコミの弾幕で埋め尽くされた。
『ふにゃふにゃの原因!』
『ふにゃふにゃのおかげでお耳が鍛えられてきました!』
『しあわせをありがとう!』
『あれ、すっごいの自覚がないの可愛すぎるだろ』
『毎夜毎夜、社畜の精神を救済する聖典ではある』
『聞けば聞くほど時間も飛びます!』
『お嬢様が増えました!』
『DL数も当然の結果です!』
『次のDLコンテンツ待ってます!』
『むしろ安すぎるまである』
『お布施足りてますかフィン様!?』
『多重購入はほどほどに!』
「あはは、そんなに買ってもらっちゃって大丈夫なのかな。次のボイスやコンテンツの予定は……うーん、まだ具体的なスケジュールは未定なんだけどさ。そのうち、また気合を入れて頑張るから、楽しみにしていてね」
『待ってます!!』
『命を延ばして待つ』
『みんなの希望がつまってる!』
『そのうちって言っておきながら突発で出てきそう』
『気合いれたらみんな帰って来れなくなるよフィン様』
『試されるファンの脳内』
『次が出るまでにASMR聞いて頭も鍛えておきます』
『マイペースなところも最高に尊いフィン様』
みんなの温かい返事を聞きながら、私はふと手元の台本に目を落とし、次の話題へと移る。
「それでね、新しく出来た『公式サイト』まあ、ココでもあるんだけど。そちらのほうは、もうしっかり見てくれたかな?」
『見ないとここに入れないので!』
『それはそう。みんな見てる』
『見た見た!!!』
『サイトがしっかり出てきてビビった』
『端から端までクリックしました!』
『デザインがガチすぎてビビッたわ』
『あれ凄くない!?』
『戸棚と書斎も凄いよね』
「うん、そうなんだよ。その公式サイトについて、いくつか説明しておかないといけないことがあってね」
私は少し苦笑いを浮かべながら、両手を軽く広げてみせる。
「実は公式サイト、特定の時間になると不思議な『部屋』が現れたり、妙な仕掛けが動いたりする仕様になっているんだ。……でもね、これを作ったはずの『社長』本人も、どうしてあんな仕様になったのか、よく分かっていないらしいんだよ」
その言葉に、コメント欄が一斉に反応する。
『どういうことだよwww』
『なんで!』
『社長!』
『全ての元凶は妄想先生じゃなかったのか!』
『ついに犯人わかっちゃったね!』
『作った本人が分かってないってなんだよwww』
『バグの放置か!?』
『ホラーゲームの導入か何かですか?』
『腱鞘炎の元凶は社長なんだ!』
『社長……おまえだったのか!』
『生贄社長すごすぎる!』
「あ、そうだ。そういえば言い忘れてたけど、うちの会社の社長は、もともとは有名なゲーム開発に携わっていた人でね。すごく優秀な人なんだけど、基本は裏方メインの仕事人だから、表に出てくることはないんだ。だから、みんなも直接見かけることはないと思うけれど、そういう人が裏で支えてくれているよって事を覚えておいて欲しいかな」
その説明を聞いた瞬間、コメント欄の推理とツッコミが一気に加速した。
『戸棚作ったり書斎作ったりしてる生贄社長すごいwww』
『生贄お前だったのかよ!!!』
『生贄がすべての元凶!』
『書斎の先に進めないよ社長!どうにかしてくれ!』
『あの謎の部屋はいったい!』
『裏方だからってやりたい放題で草』
『社長!もし配信見てたらあの部屋にもフィン様を実装してください!』
『社長ありがとう!いつも素敵なBMG聞いてます!』
みんなの面白おかしい社長へのクレーム?を眺めながら、私は「まあまあ、みんな落ち着いて」と苦笑する。
確かに、あの書斎や戸棚のインパクトは強烈だったし、裏で頭を抱えているあずささんの姿が目に浮かぶようだった。しかしこのままだと生贄社長で定着しそうな……。
「それからね公式サイトには、これからもまだまだ色んな面白い機能やページが実装されていく予定なんだ。だから、気が向いたときにでも、たまに遊びに来てもらえれば嬉しいな」
私は最後のトピックへと話を続ける。
「そしてもう一つ。公式サイトには、実は『マスコットキャラクター』が常駐することになったんだよ。名前を……『サーバーちゃん』っていうんだけどね」
――サーバーちゃん、という名前が出た瞬間。
配信ルームのデスクトップの隅で、青白い光の粒がピコピコと慌ただしく点滅した。自分にしか見えないその光景に、私はちょっと目を細めつつ、説明を続ける。
「小さな女の子の姿をした子たちなんだけど、サイトのどこかをうろちょろしていても、あまり気にしないでスルーしてあげてね。なんでも、社長曰く『まだ未完成だから、あちこち勝手に歩き回っちゃうかもしれない』ってことらしいからさ」
その説明に、コメント欄の空気が一変した。
『なんだそれは!?』
『どういうことだ!?』
『サイトを徘徊するマスコットとかホラーかよwww』
『サーバーちゃんは草』
『待って、あの青白い子たちか!?』
『さっき公式サイトに居たのをクリックしたら、持ち上げられたんだけど大丈夫?』
『何?って顔でめっちゃ見られてました!』
『なんかバグみたいな子達かな?見たかも!』
『持ち上げて落として、サーバーちゃんごめんて』
『書斎の奥であの子たちに遭遇したら謝ることしかできんて!』
『旧サーバーちゃんを潰したのは我々である事を忘れてはいけない……』
『不法侵入したら秒でどこかに飛ばされそう』
『私達がフィン様のHPを覗いてる時サーバーちゃんも私達を覗いているのだ』
『やっぱりホラーじゃないですかヤダー!』
『サーバーちゃんよろしくね!』
コメント欄が「サーバーちゃん」の話題で大盛り上がりを見せる中、私としても、あのカルト的なまでに忠実な電子生命体たちがサイト内を闊歩している絵面を想像すると、少しだけ複雑な気持ちにならざるを得ない。まあ、無事に動いてくれているなら良しとしよう。
私は軽く手を叩き、全体の空気をキュッと引き締める。
「はいはい。そんな感じで、今回の公式サイトや新会社の諸々の説明はこれくらいにしておこうかな。そろそろ配信のほうも、いい時間だしね」
私のその言葉に、コメント欄からは名残惜しそうな声が上がる。
『えっ、もう終わり!?』
『早いよー! まだ脳が焼き足りない!』
『突発でやる話じゃない件』
『はいはい!みんな明日から平日ですよー!』
『連休終わるよー!終わらないでー!』
『フィン様の話す内容が濃いよ』
『また雑談とかしてほしい』
『楽し過ぎて一瞬だった』
『フィン様いくらでも見てられる』
「うん。今回は突発的なテスト配信だったのに、こんなにたくさんの人が集まってくれて本当にありがとう。みんな、お疲れ様でした」
私が柔らかく微笑みながらそう締めくくろうとした、その瞬間だった。
流れるコメントの中に、ふと一筋の異質な、しかし非常に鋭いツッコミが混じり込んだ。
『喫茶店は!?』
『そういえば喫茶店!』
『喫茶店って何だったの!?』
『そうだよ冒頭で言ってた喫茶店!』
『妄想先生が言ってたケーキ屋さんとの関係は!』
『回収してない伏線があるぞ!フィン様を逃がすな!』
『みんな言いたい放題で笑う』
――しまった。
私自身ですっかり忘れていたわけではないが、つい流されるままここまで来てしまった。あの、執事喫茶の一件について、誰もが気になって仕方がなかったらしい。
「いやー、あれは本当に色々大変だったんだよ!またいつか、機会があったらやってみたいね!」
『誤魔化したぞ!』
『いやまて!これってやっぱり居たのでは!?』
『フィン様が自供したぞ!』
『まじの執事だったって事!?』
『主で執事なフィン様って何!?』
『執事喫茶は本当にあったんだよ!』
『いーーなーーー!次回はありますか!』
『話から逃げたー!』
『今の絶対話すの忘れてたろ!』
『華麗なるスルー技に草』
『でも楽しそうだから許す!』
『フィン様が楽しかったらOKです』
『出来れば今度告知とか、執事喫茶の話とかしてください!』
「そうだね……。じゃあ機会があればまた!
それじゃあ、今回はここまでということで!みんな、またねー!」
私はこれ以上追撃を受ける前に、鮮やかな手つきで配信終了のボタンを叩いた。
画面が暗転する直前まで、コメント欄は爆笑とツッコミの弾幕で埋め尽くされていた。
『お疲れ様でしたー!』
『フィン様またねー!』
『急な配信ありがとうフィン様!』
『明日からも社畜頑張ります!!』
『配信ありがとうでしたー!』
『逃げるの早すぎて草』
『お疲れ様でしたあああああ!!』
プツリ、と配信の接続が切れる。
静まり返った作業部屋の中で、私はふうっと大きく息をつき、椅子の背もたれに深く身を預けた。画面の端ではサーバーちゃん達が「お疲れ様です、フィン様」とばかりに小さな光をまたたかせている。
「さて……これからの『Plan_B』ってどうなることやら」
私は小さく呟きながら、次の仕事の準備を始めるために、再びデスクへと向き直るのだった。
「ところで雫。聞いておきたいんだけど―――」
「何でございましょうか彰様」
私はメイドに向き直って、質問した。
「Vチューバーのイベントって何?」
なにやら面白いイベントがありそうで、私は思わず眼を輝かせた。




