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男性が少ない世界で執事っぽいVしてます  作者: そういう作品だったらいいなって
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001 気がつけば転生してる件

そうだったらいいなって。

「いてっ……」

思わず零れた情けない声とともに、固いフローリングの床の上でゆっくりと上体を起こす。


 数分前まで何をしていたっけか。洗濯物を取り込もうとして足をもつれさせたんだっけ、それとも掃除機のコードに足を引っ掛けたんだっけ。ぼんやりとする頭を押さえると、手のひらにわずかな冷や汗が張り付いていた。

脳の奥底で、昨日まで霧がかかっていたような記憶のモヤが、急に晴れていく感覚があった。


 私はたしか、前世では35歳のごく一般的なサラリーマンだったはずだ。毎日のように満員電車に揺られ、死んだ魚の目でパソコンを叩き、仕事のストレスを紛らわせるために定時後にはジムに通い詰めて運動をする――そんな、泥臭くて忙しない日常を送っていた。そして確か、この前は嫌な残業を押し付けられて、徹夜明けのオフィスで急に視界が暗くなり、そのままぽっくり逝ってしまったんだったか。


 目の前にある天井の見慣れない木目や、自分のやけにか細く白い手首を見下ろしながら、私は盛大に頭を抱えた。


「……まじかよ。転生して高校生くらいの少年に生まれ変わってたのか」


 少なくとも前世の世界とは違う。両親をすでに事故で亡くしている私こと、『比良(ひら) (あきら)』は、国から手厚い「男性保護費」という名の生活費が毎月振り込まれ、労働せずとも衣食住が完全に保証された、いわゆる男性が保護されている世界だ。

 そして定期的に国の監査役がやってくるという面倒臭さはあるものの、社会の荒波に揉まれることなく、引きこもって一生を終えることすら可能な環境だった。


 ふと、自分の部屋のまわりを見渡してみる。

綺麗に片付けられた広い一室、高級感のあるインテリア、そして生活に必要なものはすべて整えられている。外の世界では女性が社会の主導権を握り、政治も経済もすべて回しているというお話だ。

 男性は保護され、大事にされる一方で、表立った社会進出の機会は非常に限られている。

 ただ――中身が35歳の酸いも甘いも噛み分けたおっさんである私からすると、働かずに部屋の隅でただボーッと生き続けるのは、退屈すぎて気が狂いそうだった。何より、男としてのプライドが『このままでいいのか』と密かにざわついている。国からお金をもらって生きているだけの『お飾り』のような人生など、おっさんの魂を持つ身としてはあまりにも座りが悪い。


 自分の両手をもう一度見つめてみる。

骨と皮ばかりとは言わないが、かつての自分が仕事で鍛え上げたタコの様な指の塊は跡形もなく、ひどく華奢で頼りない少年の体躯がそこにあった。運動をまったくしてこなかった引きこもりの体なのだから当然といえば当然だ。


 前世の記憶があるからといって、今のこの細腕でいきなり何かできるわけでもない。まずは少しずつ体を動かして、感覚を取り戻していく必要がありそうだ。


「――彰様ッ!」


 けたたましい音を立てて、自室のドアが勢いよく開き放たれた。

反射的に顔を上げると、記憶を頼りにすれば。そこに立っていたのは我が家の専属家政婦にして、この屋敷のすべてを取り仕切る気高き我が家のメイドさん。

『一二雫』(ひとふた しずく)さんだった。


 身長170cmのすらりとした長身に、身体の細いラインに美しく沿う漆黒のロングメイド服。その鼻梁には、知的な光を冷ややかに反射させる銀縁のメガネが光っている。まるで由緒正しい英国貴族の館から抜け出してきたかのような、完璧すぎる着こなしと厳格な佇まいだ。


「……お怪我はありませんか、彰様。ただちに救急車を呼びますか?頭部の打撲はのちのち脳裏に響きます。その場で一歩も動かないでください」

「あ、雫さん。うん、大丈夫だよ。ちょっと足がもつれて転んだだけだからさ、そんなに慌てないでって」


 私は彼女の必死すぎる鉄仮面を微笑ましく見上げながら、のんびりと手を振ってみせた。

 前世でジムに通い詰めていた頃、周囲の人から珍獣を見るような、あるいは筋肉の値踏みするような熱っぽい視線を向けられるのは日常茶飯事だった。だから、今こうして長身の美人メイド長からじっと見つめられても、焦りや気恥ずかしさは微塵もない。

 むしろ、年の頃は三十路手前――うちの会社にいたデキる先輩社員くらいか。そんな、年の離れた可愛い部下、あるいは職場の同僚の娘っ子が、仕事熱ゆえに慌てふためいているようなものだ。


「本当に、大丈夫ですか……? 意識の混濁はありませんか?」


 雫の声が、わずかに、本当に微かだが震えていた。


「うん、平気平気。ほら、見てごらん」


 私は心配をかけまいと、その場でゆっくりと上体を起こして見せる。

ひどく細い手足に力を込めると、関節がかすかに軋むような頼りなさを覚えたが、しっかりと自分の意志で体を支えることはできた。


 国からの支援金があるとはいえ、このまま部屋の隅でただ引きこもって年齢を重ねるのはごめんだ。この世界で男がどう扱われるかを考えれば、最低限の自衛力と、自分の足で稼ぐための経済力は自力で確保しておくべきだ。


 前世の知識を活かせば、何か面白いことができるかもしれない。何より、このままでは自分の体がなまけきってしまって精神衛生上もよくない。


「雫さん、心配かけてごめんね。それでさ」

「は、はい……っ!」

「僕、ちょっと本格的に体を鍛え直そうと思うんだ。こんな華奢な体じゃいつ倒れるか分からないし。この部屋の一角、ダンベルとかトレーニング器具が置けるスペース、作ってもいいかな?」


 私の言葉に、雫の銀縁メガネの奥の瞳が、ほんの一瞬だけ、常軌を逸した熱を帯びて見開かれた。


「それはなんとご立派な考えでございましょうか。とても良いことだと思います」


 だが、そんな彼女の内心など知る由もなく、私は「若い女の子が仕事や主人の健康管理にここまで熱心なのは、見上げたものだな」と、どこかおじさん目線の余裕で呑気に感心していた。


「かしこまりました、彰様。明日中に、世界中から厳選した最高級のトレーニング器具一式を、この部屋の隅から隅まで完璧に手配いたします。あなたの健やかな健康管理のためでしたら、この一二雫、全人生を懸けてご用意致しましょう」

「いや、そこまで大げさなものじゃなくていいんだけど……まあ、頼むよ」


 少し引き気味の苦笑いを浮かべる私をよそに、雫はすでに脳内で何やら熱心な計算を始めているようだった。こうして、前世の記憶を取り戻した元リーマン少年の、新しい日常が静かに動き出したのだった。

とりあえず4くらいまであげてますが、思いつきなので。

別段これといって時間がないから100までいけずにまたエタりそうかなc

こういうの読みたいなーって。

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