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 まず最初に聞き取り調査をする事になったのは皇太子だ。


「悠長に話などしている余裕などない!」

 

 彼は個別に調査されると知って怒りを抑える様子もなく、目の前のテーブルを叩いた。

 テーブルは「ドン」と大きな音を立てて揺れた。

 漆黒の髪の毛が揺れる。王族特有の金色がかった青い瞳は、怒りを燃やす熱い焔のようだ。

 

「なぜ、聞き取り調査をしなければならない。早くダンジョンを閉じるんだ。そうしなければ、人が死ぬかもしれないんだぞ!」


 皇太子、ベリアルは口調を荒らげた。

 そこには、消えた婚約者ダリアを心配する様子は見られない。

 今もダリアがダンジョンにいる事実すら忘れているかのようだ。

 普通なら、ダンジョンに置き去りにした形になっている婚約者を心配するものではないだろうか。


「一人残された彼女のことは心配ではないのですか?」


 調査官は、自分の立場を忘れてそんなことを聞いてしまう。

 彼は少しだけベリアルの事を咎めていた。

 けれど、ベリアルは全くそれに気が付いていなかった。


「……彼女はすでにこの世にはいない」


 ベリアルは、心配するだけ無意味だと言わんばかり答えた。

 すでに死んでいると知っているかのようだ。

 捜査官には、ベリアルはダリアに対して愛情のかけらもなさそうに感じられた。

 ようやく厄介者が消えた。そんな開放感を彼が持っているように見えたのだ。

 仲のいい婚約者同士だと聞いたけれど、とてもそうには見えない。


「なぜそうだと言い切れるのですか?」

「彼女が身を挺して囮になってくれたのだ。死ぬ様子も僕たちは見た。それに、ダンジョン内は死体が残らない」


 ダンジョン内で死ぬと、死体そのものが消えてしまう。

 だから、ダンジョン内で亡くなった人がいる場合。すぐに遺体を外に出さないとならない。そうしないと死亡確認ができないのと弔いができないからだ。

 

「確かにそうですね」


 言っている事は事実だが、そこに人としての情という物が感じられない。

 あまりにも冷たいのではないか。

 本当に彼女の婚約者なのだろうか、政略的なものであったとしても少なからず情はあるはずではないのか。

 冷静に話を聞くべき捜査官の心が揺れた。


「だから、死んで消えた彼女を探しても絶対に見つかることはない。無意味で無駄な行為だ」


 身を挺して助けてくれた人に向けていい言葉ではない。

 捜査官はそう思いベリアルに冷めた目を向ける。

 ベリアルはそれに対して、困ったような苦笑いを浮かべる。


「冷たいと思うか?私はこの国の皇太子だ。だから、国民を守る義務がある。消えた婚約者の捜索をして誰かを死なせるよりも、ダンジョンを閉鎖してこれ以上被害者を増やさない事の方が優先だ」


 彼が言っている事は、間違っていない。間違っていないけれど。

 それではあまりにもダリア様が不憫ではないか……、身を挺して彼らを守ったというのに。

 捜査官は、ダリアに明らかに肩入れしていた。

 彼女との直接的な関わりはなかったけれど、品行方正だと誰もが言うからだ。

 それに、一度だけ彼女と話したことがあるが、聡明で心優しくとても感心したのを捜査官は覚えていた。

 それに、成人になったばかりとはいえ、皇太子と聖女、そしてこれからの国を牽引していくメンバーのために命を投げ打った彼女の行動に対してあまりにも冷淡だと捜査官は思ったのだ。


「ダリア様との関係は?」


 捜査官の質問にベリアルは、不愉快さを隠すこともなくピクリと眉毛を引き上げた。

 

「……それを聞く必要があるか?」

「確認までに」


 確かに、ダンジョン内での事故の調査のために聞く必要のない質問だった。

 けれど、捜査官は聞くにはいられなかった。

 なぜなら、ベリアルは婚約者という立場なのに、ダリアを明らかに嫌悪しているように捜査官には見えたからだ。


「あまり良くなかった。……彼女は傲慢すぎた」

「ダリア様が傲慢ですか?」


 ベリアルの口から出た言葉が、捜査官には信じられなかった。

 互いに尊重し合い。尊敬し合っている。仲睦まじい婚約者同士だと誰もが話していたのに。

 

「ああ、表面上は穏やかで誰に対しても優しかった。だがな、裏の顔は酷いものだったよ」


 ベリアルは、淡々と語り出した。


「彼女はいつも、自分の地位を笠に好き勝手やっていた」


 ベリアルは、いつものにこやかな顔とは打って変わって、苦々しい表情になった。


「あろうことか、私の側近の婚約者を自分の取り巻きとして、徒党を組み『風紀を取りしまる』という大義名分を掲げて下位貴族の生徒に圧力をかけて回っていたのだ」


 婚約者ダリアの裏の顔なのだろう。

 ベリアルの怒りはさらに続いた。


「あの女は、事もあろうに聖女に、『平民風情が皇太子や、その側近に近づくな』と言ったんだ。信じられるか?王族に次ぐ地位を持つ聖女にそう言ったのだぞ?」


 捜査官には、ベリアルが嘘を言っているようには見えなかった。

 彼の言う事は、周囲のダリアの評判からはかけ離れていた。


 本当のダリアはどんな人物なのだろう。



 捜査官はそれが気になっていた。


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