20執事とカーチャ
「そろそろ、おやすみの時間でございますよ、カーチャ様」
ランプの火を落としかけたところで、カーチャはベッドの上で身じろぎし、ぽつりと漏らした。
「……ねえ、執事」
「はい」
「えーと……ヴァルターさまって、
やっぱり……綺麗な方よね?」
執事の手が一瞬止まる。
灯りの揺らぎが、彼の横顔を冴え冴えと照らしていた。
「世辞を言うまでもなく、そう評価されるでございましょう。
……もっとも、周囲の評に比して、ご本人はまるで意に介しておりませんが」
「そうよね……ふふっ」
カーチャは小さく笑い、枕元で膝を抱えるようにしてうつむいた。
「でも……わたくしは、たぶん……ああいう方よりも、
もっと優しくて自分だけをみてくれるような……」
小さく唇を噛む。
「……そ、そういう人のほうが、なんだか安心するというか……落ち着くというか……」
言葉はとりとめなく、視線は逸れて、
頬は、うっすらと桜色に染まっていた。
執事は、カーチャの手元にそっと膝をつき、
指先に触れそうで触れぬ距離を保ったまま、静かに言う。
「……。
それは、わたくしのことをおっしゃっておられるのですか?」
「えっ……!!!」
一瞬、カーチャはぎくりとしたように目を見開き、
次の瞬間には布団をぐいっと引き寄せて顔を半分隠した。
「……べ、別に誰とは……言ってないでしょう?
考え方の、はなしであって……!」
「――これはこれは、失礼いたしました」
声に笑みを滲ませながらも、執事の瞳には、ほのかな揺らぎが宿っていた。
届きそうで届かない、けれど確かにそこにある好意――
それが何より、彼にとっては手強く、そしていとおしい。
「どうか、良き夢を。……カーチャ様」
「うん……あなたも、ね」
灯りが落とされる直前、カーチャのまぶたの奥に、
いつか夢で見た“執事の横顔”がふとよぎるのだった。




