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魔術会社サークルのオカルト怪奇譚  作者: 人鳥迂回
深く混じって"愛"対して

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遠き憧憬は災いを齎すep5

「それは責任転嫁が過ぎない?」


 包丁を使って誰かを刺した時に作った職人が悪いと言っているようなものだ。作り手では無く、使い手に責任があるのだ。

 ゲティがどのようなことをいろはに教えたかは分からないが悪魔召喚の方法を教え、それを実践することがいろはにはできた。初めての魔術で興奮して起こしてしまった事件なのだろうか。


「私もそれは思ったが、親を亡くした子どもにそれを言うのは酷するぎるだろう。あくまで行方不明ということになっているからいろはの妄言に過ぎない」


「事実とは異なるから放っておいたってこと?」


「簡単に言えばな。大人になるにつれて分かってくれると思っていたんだがな」


 いろははゲティが親を殺していないと分かるどころか、その恨みは年々増していき、ついには偶然を装って殺そうとまでしてきた。不意打ちではなく力試しという手段を取ったことはせめてもの良心だろう。

 

「それでいろはちゃんはそのあとどうなったの?」


「誰かに引き取られた聞いたな。それが誰かまでは知らない。親戚かもしれないし、養子として入ったのかもしれない。個人情報だから私が知る限りではないよ」


「それを引き取ったのが相良さんなのかもね」


 ゲティがいろはと出会ったのは10年近く前だと言っていた。その頃にはまだ相良さんの娘は生きており、2人が出会っていた可能性がある。相良さんといろはにどのような関係があるか分からないが、幼い子供と大人が関わることは早々無いため鴨野家と関わりがあったと考えるのが妥当だろう。


「ゲティ、ひとつ聞いてもいい?」


「なんだ?」


「相良さんの娘さんがいたんだけど会ったことある?」


「ないな。そもそも、その相楽という男のことをまったく知らん」


「いろはちゃんを引き取ったのが相楽さんなら合ってると思ったんだけどな」


「いろはの両親の訃報を聞いたのは3年前だ。私が鴨野家に世話になった期間は2年程度だったし、私が居なくなったあとのことは何も知らないぞ」


 相楽さんがいろはを引き取った時には既に娘さんが亡くなっていた。娘の代替としていろはを引き取ったのかもしれない。いろはは親がいなくなり、面倒を見てくれる人も居なくなったので相良さんに頼るしか無かった。

 人様の事情に首を突っ込みたくはないが、僕が相良さんに会って感じた違和感と2人の共通点が重なり合ってしまう。


「もうひとつ聞いてもいいかな」


「態々了承を取らなくても自由に聞けばいいだろ」


「それじゃ遠慮なく。今日いろはちゃんに会ってみて違和感とか感じなかった?」


「違和感?最後に出会った時より身長も伸びているし顔立ちも大人びていた。久しぶりに会ったというよりも初対面というように感じたがそういうことじゃないよな」


 ゲティは考え込んでしまう。既に淹れていたコーヒーは冷めていたが特に気にすることはなく飲んでいた。僕の手元にあるコーヒーには黒い額縁に自分の顔が反射している。

 今の自分は最悪なパターンを考えて、それを確認するためにゲティに質問をしていた。当たらなければ良いとさえ思っている。相良さんとの関係はただの顔見知り程度だが見ず知らずの人というわけではない。

 今が幸せならそれを壊す道理はないのだ。それでも、道理に反していた場合はそれ相応の罰が待っている。僕に他人の幸せを壊す覚悟があるかどうかを問われているみたいだ。


「ひとつだけ」


「ん?」


「ひとつだけ違和感があった。いろはというよりもいろはの使役していた悪魔についてだ」


 人さし指をピンと立てこちらへ向けてくる。熟考してひとつだけでも違和感を思い出せるのは流石と言える。

 人間の脳は違和感を勝手に補完してしまうことがあるのだ。日本語の文章で『いただまきす』という文字があったとしても何故か『いただきます』と読めてしまうように注意を払わなければ脳が処理してしまう。

 注意深く物事を観察していないと違和感は違和感として感じ取ることが出来ない。


「それ、僕にも分かるやつ?悪魔のことは詳しくないよ」


「悪魔自体は関係ない――はずだ」


「どういうこと?」


「本来のバラキエルの力とは違ったとしか言いようがない」


 悪魔にはそれぞれの力があるらしい。人に対しての知識を与える力とは別にそれぞれの特性を使っているようだ。フラウロスが炎を扱ったり、フォルネウスが大きな口で敵を捕食したり独自の力を持っている。

 ゲティのいうバラキエルの力というのはバラキエルという悪魔が使う魔術みたいなものだろう。


「簡単に言うと私の悪魔の力が通じなかった」


「そんなことありえるの?」


「あり得ないわけではない。ただバラキエルに通じないというのがおかしかったんだよ。今回私が持っていったのはアイムっていうのは伝えたよな」


 行きの道でヘビのぬいぐるみを見せられたことを思い出し首肯する。


「アイムの能力は手に持っている剣で相手に火を付けるものなんだ。剣で触れたものを燃やすといった感じが分かりやすいかもしれない」


「それが通じなかったんだ」


「ああ。アイムが剣を振りかざすとただの棒切れで叩いたように力が発動しなかった。これには私だけではなくアイムも驚いていたよ」


「それでも勝ったんでしょ?どうやったの?」


「言ったと思うが召喚術師は本体が弱点だ。いろはの方を気絶させただけだ」


 悪魔同士で戦っている最中、いろはに直接攻撃を行って気絶させるのは男子のロマンとして悲しくなるものがある。戦隊ヒーローの変身シーンで攻撃をしてくる敵のような、何とも言えない感覚。


「知らないバラキエルの能力ってことは?」


「ほぼ無い。だから違和感となって残ってたんだ」


「ふーん。なるほどね」


「何が聞きたかったんだ?」


「ちょっと整理するから待っててね」


 僕の考えでは相楽さんが賢者の石を作っているという疑惑といろはが何かしら関係あると踏んでいたが確証を得られることはなかった。僕が分かる相良さんといろはの共通点は親族が亡くなっているということ。

 相楽さんが娘を生き返らせようとしていて、いろはも両親を生き返らせようとしている場合、2人の考えが一致して一緒にいると考えていた。

 この考えを棄却する訳では無いが根拠も何もないため机上の空論にしかならない。


「いやあ、いろはちゃんが両親を生き返らせたいのかなって思ってさ」


「おい、死者蘇生は禁忌扱いされてるぞ」


「分かってるよ」


 相楽さんとの会話をゲティに話すか迷う。正義感があるゲティのことだし、調査に乗り出そうとしてしまうかもしれない。昔可愛がっていた子が危ない男と一緒にいるとなればより一層張り切って調査をするだろう。

 そうなった時に巻き込まれるのは僕なのだ。現状この件で僕たちが被害を受けてはいない。何かが起こってから行動を起こしても遅くはない。


「それにしてもあのいろはがなあ」


 ゲティは天井を見ながら一人ごちる。


「やっぱり懐かしい?」


「まあな。小さい頃は私のことを「お姉ちゃん」って呼んで付いてきてたよ。父親は私にいろはが懐いているのを見て寂しそうにしていた。娘が取られたってな」


 昔のことを語るゲティは少しだけ楽しそうに見えた。いつも張っている緊張の糸が緩むようにいつもより常設に語っている。


「あの時は可愛かったよ。それが年月を経て殺意に変わるのは何だかんだショックだ」


「ゲティでもそう思うんだ」


「私でもってどういうことだよ。いろはが幸せなら私がいくら恨まれてもいいんだけどな」


 ゲティはいろはの幸せを願っている。

 いろはの幸せは相良さんと共にいては得られないかもしれない。もしも相楽さんが賢者の石の研究をしていたのなら、共に住んでいるいろはが巻き込まれることは必然だ。


「ゲティ、大事な話がある」


「改まってどうした?」


 今伝えないとバレた時にゲティに怒られてしまいそうだ。報連相が大事と常日頃から言われていることがようやく身についてきた。

 伝えてしまえば僕が巻き込まれてしまうことも必然。頭では分かっているのに僕の口は勝手にゲティへと言葉を告げてしまう。心がゲティの思いに応えようとしている。


「相楽さんが賢者の石の研究をしているかもしれない」


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