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魔術会社のオカルト怪奇譚  作者: 人鳥迂回
深く混じって"愛"対して

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遠き憧憬は災いを齎すep4

 親殺し。

 自体に関わらずその行いが禁忌とされている行為。少し前の法律でも普通の殺人罪とは違い、尊属殺人罪と呼ばれて居た。普通の殺人罪よりも罪が重くなる問題の行為。


 ゲティの話を自分なりに解釈すると、いろはが両親を殺したがそれをゲティのせいにしていることになる。いくら考えても自分の中で納得がいかない。殺人を犯しているのに普通に生活していることも分からないし、ゲティに擦り付ける理由も分からない。

 寧ろ分かることが何一つないのだ。動機も結果も断片的な情報だけでは理解することができない。


「えっと、いろはちゃんは親と仲悪かったとか?」


「仲が悪いだけで親を殺さないだろ」


 僕に言われても、物心ついた時には親もおらず親戚を転々としていた後、先生に拾われたため親というものを知らない。ゲティも自分の発言の後で僕の反応に気付いたのか、気まずように言葉を続ける。


「仲は良かった。2人とも魔術師だが普通の家庭と同じように生活していたよ。いろはに魔術を強制することもしなかった。まあ、やろうとしても出来なかっただけかもしれんが」


「どういうこと?」


 魔術師は子供に魔術を伝承させて自分の血と同じように魔術を未来へと繋いでいこうとする。世の中の移り変わりで生きにくくなってしまった中で子どもには同じ思いをさせたくないと思う親がいてもおかしくは無い。気になったのはやろうとしても出来なかったという点だ。


「いろはは式神術が全く使えなかった。魔力を外に放出することが出来なかったんだよ。式神術は式札に魔力を通すことで式神を降ろして行うものだ。魔力を通せなければ使えない。両親は血のつながりがあるからなのかいろはの魔力を感じ取ることができていたがな」


「でもいろはちゃんって魔術師なんでしょ?」


「ああ」


「それならなんの魔術師なのさ?僕はてっきり式神使いだと思ってたけど」


「今日、いろはは私に挑んできた。ただの式神使いが悪魔を召喚する私に挑むこと自体無謀だと思わないか?」


「――もしかしていろはちゃんもゲティと同じ」


「悪魔を召喚する、召喚術師だよ」


 式神使いも悪魔使いも本質でやっていることは変わらないとゲティは言う。両方とも媒体に異常なものを降ろすことで使役する。違うのは代償の有無らしい。悪魔は相手からの代償を得るが、式神に降ろす神は自分が屈服させた相手になる。契約する時の自分に託すか、未来の自分に託すかの違いがある。


「そう言えば、いろはちゃんが召喚する悪魔ってゲティと同じなの?」


「同じとは?」


「ソロモンの72柱の中から契約してるのかってこと」


 最低限の知識しか持っていない僕からすれば悪魔の種類をたくさん知っているわけではない。ゲティが使役している悪魔の名前程度は分かるが、有名ではない悪魔の名前を出されても全くピンとこない。

 それこそ7つの大罪に分類されている悪魔などは知っているがそれぞれの土地にある神話に登場する悪魔などは分からない。


「普通の人間として生まれ育ったいろはがソロモン72柱と契約するほどの代償を払うとは思えない。以降の人生を魔術師として生きる覚悟が必要何だ。そもそも、悪魔の方もいろはを選ぶことはないぞ」


「それまた何で」


「魔力量が少ない。だから契約できる悪魔も1体が限界だ」


 その後もゲティは説明をしてくれたが、話が難しくて半分ほどしか理解できなかった。要約すると人間の魔力を見て悪魔が契約をするか否かを決めているらしい。契約者が魔力を持っていれば自分の行動範囲が広がるし出来ることも多くなる。ゲティ曰く契約の時に代償を要求するくせに自分の力を発揮できない者とは契約しないという自分勝手な奴、だそうだ。


「それじゃいろはちゃんは何の悪魔と契約してるの?」


「バラキエル」


「バラキエル?」


「エルが最後についていることからも分かる通り元々天使だったものが堕天した存在だ」


 天使につく『エル』はヘブライ語で神を意味する。それも神々の中の一番上にいるもの。日本における天照大御神のようなものだろうか。

 堕天した天使が悪魔として扱われることは書物などでよくあるが一つの側面であってそれが全てではない。悪魔として天使だったものを召喚するとなればそれ相応のリスクが伴いそうなものだ。


「その、もともと天使だったものを悪魔として扱うのってどうなの?」


「どうも何も悪魔としてのバラキエルを召喚しているんだよ。詳細は省くが道を歩いていて目の前には石がある。それを右に避けるか左に避けるかで未来は変わる。だが自分が観測できる未来はどちらか片方だけ。そのような選択によって未来というものは無限に広がっている。その中の1つに悪魔となったバラキエルが存在していてそれを召喚しているに過ぎない」


 時間には分岐点が存在しており、そこからパラレルワールドが広がっていく理論を本で読んだ気がする。確かジョンバール分岐点だっただろうか。量子力学に関係して可変の未来がどうとか書かれていた筈だが難しくて読むのを放棄した覚えがある。

 いろははパラレルワールドに存在する悪魔としてのバラキエルを召喚したということだろう。


「よくそんな悪魔が契約してくれたね」


「元は天使だからな。お情けかなんかだろ」


「どうしてゲティはいろはの使役する悪魔のことを知ってるの?今日戦ったから?」


 昔馴染みのようだし、以前にも諍いがあったのかもしれない。ただゲティの嫌われようをみるに、悪魔の正体を聞いても答えてくれるとは思えない。ゲティが自分の知識から仮定したにしては確信を持った物言いをしているため僕は気になってゲティに問う。


「いや違う」


「ならどうして詳しいのさ」


「あー」


 僕の疑問に対して答えづらそうに上を向いて唸り声を上げる。魔術師に対して魔術の内容を聞かないことは暗黙の了解なのだが既にゲティはいろはの手の内を話している。当然バラキエルがどのような事をしてくるかまでは喋らないのだが調べてしまえばおおよその見当がつくだろう。

 ここまで饒舌に語っていたゲティが言い淀んだことで聞いてはいけない質問をしたのかもしれない。答えなくてもいいよと言おうとした矢先のことだった。


「いろはに悪魔召喚の事を教えたのは私なんだ。やり方もな」


 ゲティから出てきた答えに僕は驚かなかった。驚天動地の大発見というほどではなく、なんとなく察していたのだ。式神使いの家に生まれたが才能がなかった少女が悪魔使いの女性と出会った。小さい子供など親に褒められたいに決まっている。式神使いの才能が無くても自分に何かできるかもしれないと期待を抱いて、実践したら出来てしまった。そんなところだろう。


「やっぱりね」


「話の流れからも想像つくか。それがすべての元凶だから話したくなかったんだよ」


「すべての元凶……ってことはいろはちゃんの親殺しにも関わってるってことだよね」


「ああ。私は直接見たわけじゃないから確実にいろはが犯人というわけではない。現世界の事件としては両親が突如行方不明ということになっている」


「どうしてゲティはいろはちゃんがやったと思ってるの」


「事件に巻き込まれるのなら2人だけというのはおかしい。死体が残っていない時点で普通の犯人ではない筈だ。付近の監視カメラにも2人の姿は映っておらず、外出すらしていなかった。それなのに死体がない。出勤してこない両親に疑問を抱いた職場の人が連絡し、駆けつけた警察が見たのは家にいたのはいろはだけ」


 密室でただひとり生き残っていた少女。いろはが自分から警察に連絡したわけではなく、普通に働いていた両親が出勤してこないことで事件性を感じて職場の人が警察に連絡をしたのだ。家の中にはいろはひとりしかおらず、死体も何もなかったため行方不明として処理されたのだろう。


「それは……匂うね」


「ああ。更には私が悪魔の使役方法を教えたから両親が死んだ、だとさ。だから私が殺したってあいつは言い張っているんだよ」

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