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見る目が変わるep1

第一章第二節です。


 名前は鏑木空穂(かぶらぎうつほ)。突然だけど今の自分を整理する必要があると思って、考えを整理している。独白のようなものだと思ってくれればいい。


 私は現在進行系で虐められている。虐められている、という言葉が正しいかどうか分からないけど状況だけ考えればその言葉が一番正しいだろう。いじめが良いことか、悪いことか、誰が加害者で、誰が被害者とかそういうものは今の私の状況では大した問題ではない。確かに私は、被害者と言えるだろう。ただ加害者、と呼ばれる人が多すぎるのだ。私が被害を訴えようにも聞き入れてもらえない。誰も私の話を聞いてはくれない。


 その中で唯一話を聞いてくれる人がいる。バイト先の社長なのだが変わった人だ。いつも社長と呼んでるから名前は知らない。一回聞いたことあったけど忘れちゃった。背は普通の男の人くらい。私の背の高さより頭一つ分くらい高いくらい。外見は細身で、スーツを着ているからかもしれないがスラッとしているように見える。髪も染めておらず、ピアスなども開けていない。割とどこにでもいそうな人。その人は何でも屋をやっているが基本的には机の上で何かの書類を見ているか、内職のお守り作りをしている。何度か書類のことを聴いてみたが『依頼の紙。守秘義務があるから見ちゃだめ』と何も教えてもらえなかった。不思議な雰囲気の人。その人に虐められていることを話そうと思っても何故か話したくないと思ってしまう。その虐めをされている可哀想な子と思われたくないのかな。








 朝。日が昇り、学生特有の睡眠不足に悩まされながら起床する。寝たはずなのに寝た気がしない。それでも時間はやってくる。やってきてほしくない時間なのに時の流れは人間に対して平等だ。


 大人と子どもで時間の感覚が違うとよく聞く。子どもの頃は時間が経つのが遅く、早く大人になりたいと言っていた人も、大人になると一日、一年が早く感じるというものだ。『ジャネーの法則』というものがあり、一歳の子の感じる一年から二歳の子の一年は二倍の速度で流れていき、三歳では三三倍というように比例して速くなって行く。それには子どもの時にはすべての経験が新しく、多くの出来事を体験してるから長く感じ、大人になると何かが起こってもそれは過去に経験したことがあることが大半を占める。その結果新しい出来事に触れる経験が少くなり時間の流れが早く感じるらしい。


 それでいうと私は一歳の時の十八倍の時間で一年を感じているわけだが、正直一日が早く終わるのを望んでいる。望んでいるのは一日が早く終わることだけではなく、現状が早く変化してくれることを一番に望んでいる。




「行ってきます」




 朝食も食べずに家を出る。朝ごはんは食べたほうがいいのは分かっているけど最近ストレスからかごはんを食べても何も感じない。病院に行こうかと思ったがやめた。それができるような状況でもないし。


 誰もいない家に挨拶をし、扉を閉めて学校へ向かう。家に親がいないのは、ライトノベルのような海外赴任で一人暮らしとかいう理由ではない。少し前まではちゃんと家にいた。ただ今では家にいない時間のほうが多いだろう。お父さんもお母さんも、2人そろって家に戻らない。たまに戻っているみたいだが慌ただしく出ていく。最初の頃は声をかけたが私の言葉を無視して出ていってしまった。だから家を出る時には誰もいない。







 学校が近づくと段々と登校する学生が増えていくのが目で見て分かる。それは私の通う高校の生徒だけでなく、近くの中学校や小学校の生徒もいる。そのような群衆に紛れて私も学校へ向かう。その途中、クラスメイトの女子見つけたが声は掛けない。彼女も私から声をかけられても困るだろうし。


 頭の中で色々と考えてしまう時間が増えた。皆に話しかけたり、遊んでいるときは、そのことに一生懸命で何かを考えるということもなかった。それが虐めという対象になってしまっただけでこんなに変わってしまうのだ。誰に聞こえるわけでもなく私はただため息を吐くことしかできなかった。





 校門をくぐり、校内へと向かう。開け放たれた校門からは同じ学校の生徒がぞろぞろと入ってくる。そのまま校内に入っていくものもいれば部活に向かう人もいた。




「どうせ今日も同じなんだろうなぁ……」




 校内に入った私はロッカー状になった靴箱へ向かう。今この場にいるのは私だけ。本来ならば靴箱の扉を開ければ校内で使うスリッパが入っている。私は靴箱を開ける。




「今日もないか」




 ある時から私の靴箱には何もなくなっていた。元々ちゃんとスリッパは入れていたはずなのだ。虐めが始まった次の日まではちゃんとあった。虐めって言うのは何が原因か分からないこともある。私が何かしてしまったのか考えても考えてもその原因は分からず、次第に私の物が無くなっているということすらも日常の一部になっていた。


 スリッパが無いので仕方なく靴下のまま校内を歩く。


 初めは職員室に行ってスリッパを借りようとしたのだ。しかし、どんなに大きな声をかけても先生は誰も反応してくれない。ちらりとこちらを見る先生がいたがすぐに机に目を落とし私の呼びかけには応えてくれなかった。


 校内では当たり前のように学生たちの話し声が聞こえる。昨日見たテレビの話、好きなゲームの話、恋バナ、様々な内容の会話。テレビなんて当分見ていない。たまたまお母さんが家にいる時にテレビをつけたらお母さんが悲鳴を上げて出ていってしまったので、それが心に残ってしまいテレビを見るきになれない。




 教室につく。朝の時間はみんなが登校してくるため、教室の扉は開け放たれている。基本的に授業の時だけ閉めているようだ。半ば諦めのような、僅かな期待があるような、そんな不思議な感情を抱えながら、私は教室に入っていつものようにクラスメイトに声をかけた。




「みんなー!おはよー!」




 教室は喧騒に包まれている。朝特有の友人に会えたことで昨日の下校してから今日登校するまでに起こったことを話し楽しんでいる声。その声に掻き消されるように私の言葉は教室に溶けていく。私の声で会話を止める人もおらず、ましてや反応をしてくれる人もいない。


 私は教室の入口に立ったまま自分の席を確認する。その間にも私の立っている扉からは教室に生徒が入ってきていた。邪魔にならないように壁側に避ける。自分から逃げているみたいで本当に嫌になる。




「ははっ……。律儀なもので」




 私の机の上には花瓶。その花瓶には青いカーネションが活けてある。私は毎日登校をしているが花瓶を置かれた日からあの花は活けてある。多分誰かがやっているとは思うが律儀なものだ。青いカーネーション、花言葉は『永遠の幸福』。みんなから無視をされ、机に花瓶を置かれるような虐めをされているのに永遠の幸福を願われている。意味が分からない。




 ここのところ毎日毎日、このような状況を繰り返している。もしかしたら今日は……なんて期待をしながら学校に登校し、いつもと変わらない皆の反応に傷付き、逃げるように帰る。帰るときも皆が登校をし終わってから逃げるように帰る。もちろん校門は閉まっているためよじ登って行く。いくら無視されているとしても目立ちたくない無い。


 


 





 最初はいつも通りの日常だと思った。いつも通りに朝起きて、家を出た。通学路でクラスメイトを見つけて後ろから声をかけた。その声は聞こえていなかったのかどんどん進んでいってしまったため、少し不思議に思っても何も違和感はなかった。靴箱で、古くなって底のズレたスリッパを履き教室へ向かった。その途中で誰かに声を掛けるも誰も答えてくれない。嫌な予感と焦りから教室に入り、いつもより大きな声で『おはよう!』と言った。しかし、その言葉には誰も反応しないし一瞥もくれなかった。そこから皆が話してる席に移動して話しかけたりしたが皆が私を無視する。チャイムがなり、担任の先生が教室に入ってきて皆が席に着いた。私は、なにが起こったのか理解できずにただ呆然としていた。




「なんだ、鏑木」




 私の名前を呼ぶ先生の声。いくら生徒が私を無視していても先生まで加担するわけはない。昨今は虐め問題が学校にとって重要な問題になっている。その中で教師が虐めに加担することはないと私は信じていた。担任の声に私は思考を取り戻し、俯いていた顔をあげた。




「遅刻しているのか」




 担任の顔は私ではなく出席簿に向いていた。


 それから私は耐えられなくなり、逃げ出すように学校を飛び出た。早く家に帰りたい。何でもいいから閉じこもりたい。今日は何かおかしかった。明日になればもとに戻るはず。そんな気持ちで一杯だった。


 しかし、その次の日には開け放たれた私の靴箱からはスリッパが無くなり、職員室に行っても誰も答えてくれない。終いには教室に行ったら私の机の上には花瓶があった。そこで私は気付いた。




「(あ、これ虐めだ)」




 学校を出てトボトボと帰路に立つ。なにがいけなかったのか、考えても考えても答えは出ない。この時間に出歩いていても街の人は気にもとめない。警察も私には声をかけない。でも、今は誰からも声をかけられないことのほうがうれしかった。


 学校から家に帰ると両親が部屋の電気もつけずにリビングのソファーに座ってうなだれていた。私が帰ってきたことにも気付いていない様子だ。




「ごめん、帰ってきて。なんか学校で色々あってさ。休んでもいい?」


 


 リビングにいた母親は項垂れている。私の声が聞こえていないのだろうか。




「お母さん?お母さん!ちょっとお父さんも!」




 近所迷惑になろうが気にしないくらいの声量で声を掛ける。しかし、両親はその声にも反応してくれない。学校のみんなと同じだ。悪い夢なのか考えてしまう。しかし夢は寝ているときと、希望を持つときに見るもの。起きていて絶望しか見えていない私には夢だと思うことはできなかった。





 これは無視じゃない。皆、私が見えてないんだ。





 私は虐められている。


 誰が加害者とか誰が被害者とかもう関係がない。


 誰か個人では無く。


 


 私はこの世界から虐められている。







「今日もだめか〜、帰ろうかな」





 いつも通りの日常。私にとっては皆だけがいる世界で皆にとっては私だけがいない日常。何度目になっても泣きそうになってくる。神様、私は何か悪いことをしましたか?許してくださいと心で何度願っただろうか。皆からは私が見えていない。皆から私への見る目が変わってしまった。




「どうせなら事務所に行こうかな」




 このままでは学校での滞在時間は10分程度。どうせ誰にも気付かれないのならと、校門近くのベンチに座り空を見上げていた。雲一つ無い青空。照りつける太陽が眩しいが今日が暑いのか寒いのかも分からない。多分ストレスでおかしくなってる。眩しくて太陽の反対側を見ると、夜に置いていかれたように青白い月が山の奥に入ろうとしていた。そして校門を教師が閉める。校舎にある時計を見ると登校時間が過ぎていた。教師は校門を閉めたあと、自分の仕事に戻るように校舎の中に入っていった。




「そろそろ私も帰ろう」




 ここにいても何もすることは無い。社長には何か言われるだろうけど早くここから出よう。皆が楽しく過ごしているであろう校舎に後ろ髪を引かれながら校門へむかう。そこには遅刻してきた生徒だろうか、校門を少しだけ開けて入ってくる人がいた。見覚えがある、多分クラスメイトだ。そういえば1ヶ月くらい家庭の都合で休んでいる子が居たとふと思い出した。多分、今遅刻してきた子がそうなのだろう。校門を通る時に彼女の付けていた眼帯が引っかかって取れてしまった。少し小柄な彼女には似合わないような片目全体を覆い隠すような大きめの眼帯。それが取れた彼女は焦ったように片手で左目を隠し、必死に引っかかった眼帯を校門から取り外した。そして眼帯を着けながら校舎に向かう。私は校門から出ようとしているため彼女とすれ違う。


 彼女も私に声は掛けなかった。クラスメイトとして話したこともあるし、学校の活動で一緒になったこともある。それでも世界から虐められている私にとっては些細なこと。そういえば彼女の名前なんだったかな。そんなことをふと思い、すれ違い、後ろを振り返り彼女のことを見た。






 目が合った。


 偶然かもしれないが彼女もこちらを振り返っていた。たったそれだけのことなのに認識してもらえたような気がして嬉しくなった。ただ振り返っただけ、そこには何も見えていないのかもしれない。それでも目があったと感じられるだけで私は。私は、こんなにも嬉しく感じ……






「鏑木さん、ですよね?調子悪いの?大丈夫?」





 私から彼女への見る目が変わった瞬間だった。



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