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女心と秋の空

「申し訳ありません。取り乱してしまいました」

「構わないよ。それより今日は軽装なんだね」


ハッ!殿下の発言に私は自分の服装を改めてコッソリ見た。いつもならば、王宮で会っているのでゴリゴリの正装である。しかし、長い旅路になるということで今はワンピースしか着用していない。なんてことだ。やってしまった。


「レオン様にこのような姿をお見せして申し訳ありません!」


王族に正装以外の服装で会うなど言語道断だ。それを抜きにしても、レオン様と会うときはいついくなるときも最高の装いでいたい。気を抜いている姿を推しに見られても良い人などいようか、いやいない。


「事前の連絡もなしに来たのはこちらだからエミリーが謝る必要はないよ」

「そういうわけにはいきません!」


レオン様が許してくれたとしても、私は落ち着かない。これはマナー云々以前に、私の乙女心の問題だ。


「私は気にしないんだけどなぁ。それに新鮮な姿が見られて嬉しいよ。とても可愛い」


殿下の発言に頬に熱をもつのが分かる。今の私の顔が真っ赤になっていることは誰の目から見ても明らかであろう。居たたまれないがどうすることも出来ないので、私はひたすら床を見つめる。


紳士として淑女の褒め方を習うのは貴族としては普通のことだ。だが、さすがは乙女ゲームのメインヒーローと言うべきだろうか。女性を誉めるのが自然で、義務的なものを感じない。まるで本心から言っているかのようだ。


「人の妹を口説くのは止めていただけますか?」


私の様子を見かねたのだろう。兄がこれ以上は何も言ってくれるなと言わんばかりだ。私はもうキャパオーバーで何も言うことが出来ないので、兄の助け船はとてもありがたい。


「私は素直に思ったことを言っただけだよ」

「ですが、エミリーの許容範囲を越えています」


私は庇ってくれる兄の後ろに隠れる。殿下が「可愛い」と言ってくれたとしても、個人的にはもう居たたまれないし、なんかもうどうすれば良いか分からない。


上背のある兄は私が隠れるにはちょうど良い。殿下からは見えないことだろう。


「エミリーの姿が見れなくなったではないか」


寂しそうに言う殿下には申し訳ないが、私はもう殿下に見せる顔がない。齢十にして婚約者をナチュラルに誉められる人間などいようか、いやいまい(反語)。さすがは乙女ゲームのメインヒーローと言うべきか。


「お許しください、殿下」


兄もなかなかに譲らない。妹第一(シスコン)の兄は意外なところで役に立つ。申し訳ありませんが、今回は引き返してください。ただでさえ、殿下に見せるような姿ではないのだから。勘弁してほしい。


特別な人に会うときは、常に最高に着飾った自分でいたい。


「女の子に無理強いはできないね。そのままでいいからこれを受け取ってほしい」


固い意思の兄妹に諦めたのだろう。殿下は、兄の背後に隠れる私にあるものを差し出した。


「ブレスレット…?」


デザインは非常にシンプルなものである。チェーンに1つ宝石がついたものだ。それにしたって何故このタイミングなのだ。


「うん。危険なところにいくのだろう?これはお守り」

「お守り」


殿下の言いたいことがよく分からず、復唱する。改めて見ても、特別な何かがあるようには思えない。


「その石は私の魔力が籠っている。万が一何かあったときの助けになるかもしれない」


宝石かと思ったが、魔鉱石だったのか。魔鉱石に自身の魔力を貯めるなんて数日で出来ることではない。作成するには長い時間が必要な筈だ。


「本当は来月のエミリーの誕生日プレゼントで準備していたんだ。…デザインしてる途中だったから、質素なものになっちゃってる。ごめんね?」

「いえ、こちらこそ!殿下の手づからのものをいただいて、身に余る光栄です!」


しかも本来ならば、私の誕生日にプレゼントする予定だったという。誕生日パーティーでドレスと一緒に着けられるものを考えていたに違いない。私の身勝手な行動は殿下にも影響を及ばせてようである。誠に申し訳ない。


「本当になんと謝罪すれば良いか…」

「私はエミリーに喜んでもらうために作ったんだ。謝罪を言われると悲しいな。喜んでくれると嬉しい」

「いえ、はい!本当に嬉しいです!ありがとうございます!」


私の気持ちを軽くしてくれる殿下の言葉が嬉しい。殿下の言葉はきっと私の罪悪感をなくすためのものだ。それならば、私は喜んで受けとるべきだろう。


「離れる前にエミリーの全身姿をきちんと見られて嬉しいよ」


ハッと自分を省みた。嬉しさを表現しようとしたあまり、兄の背後に隠れることを忘れてしまった。もうこうなったらヤケだ。諦めて堂々と姿を表す。何より、わざわざ会いに来てくれた殿下に対して失礼だっただろう。


「申し訳ありません…」

「今日は謝ってばかりだね」


身に覚えがありすぎるので仕方ない。自分でも何回謝ったか分からない。

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