提案書
「お兄ちゃん、にほんとうってどうして折れず曲がらず良く斬れるっていわれてるの?」
武器屋から出た途端エリナが俺に聞いてくる。
「なんでさっき親父に聞かなかったんだ? 喜んで教えてくれたぞ」
「うーん、なんとなく」
「まあ親父にそんな事を聞いたら話が止まらなくなりそうだからな。教えてやるけど素人の聞きかじりだからあまり信用するなよ」
「うん!」
「はい!」
「駄妹もかよ。日本刀には複数の硬さ、靭性を持つ鋼鉄が使われているんだ」
「じんせい?」
「しなりとか、弾力性みたいなもんだ。硬すぎると折れちゃうし、柔らかすぎるとすぐ曲がる。そのために、鋭い切れ味を持つ刃鉄に靭性の高い心鉄(芯鉄)を重ねて、それを硬い皮鉄(側鉄)で包んで鍛え上げたのが日本刀だ。峰の部分に棟鉄を使う場合もあるし、古刀だとまた製造方法が違うらしいしそもそも玉鋼ですらないんだが、親父の打つ刀は新刀か新々刀だから覚えなくても良いぞ」
「「へー」」
「お前ら良くわからないからって聞いたふりするなよ。あとでスマホの百科事典で見せてやるから。電源入るかわからんけど。あ、そうか、マジックボックスでスマホとモバイルバッテリーをしまっておけば経年劣化は気にしなくて済むな。まあ百科事典は探せばあるらしいけど、写真や動画撮影とか使う日が来るかもしれん。それも魔導具で似たようなのがあるけどな。結婚式で写真撮ったし」
買い物も終わり帰宅する。
相変わらず賑やかなおやつタイムも終わり、ガキんちょどもは絵本を読み聞かせするお勉強タイムに突入した。
俺の厳選した非グロ、微グロ絵本なので安心だ。
孤児院の年中組が中心となって絵本の読み聞かせをするのをにこにこと見つめてる駄姉に話しかける。
「駄姉ちょっと良いか?」
「なんでしょうかトーマ様」
「マジックボックスの中古を探しているんだが、お前に伝手はあるか? 予算はあまり無いから指輪以外の形状で不人気な品を安く買えたりするとありがたいんだが」
「シルヴィアのマジックボックスを取り上げればいいのではないですか?」
「本人も差し上げますと言ってくれてるんだが流石にな。日本刀とか魔法石とかで大金出してもらった後だし」
「細かい事を気にされるのですねトーマ様は。金額でヘタレるとか流石に<転移者>といったところでしょうか」
「女にタカる男って最低だと思うが」
「シルヴィアは趣味が素振りという位にまったくお金を使わないつまらない人生を送って来た、脳みそ筋肉の化粧っ気もない人間ですからね。むしろ全財産を取り上げてここの運営資金にした方が世の為になるというものです」
「お前って家族に凄く辛辣だよな」
「ただ家族の中ではまだ思考に柔軟性はあると思っておりますよ。まっすぐな性格は好ましくも思っていますしね」
「ポンコツだけど悪い人間ではないのはわかってるつもりだけどな。お前も含めて」
「まあ、光栄ですトーマ様。ファルケンブルク領が欲しくなったらいつでも仰ってくださいませ」
「父親と兄貴を殺そうというお前の性格を肯定したわけじゃないからな。それよりマジックボックスの伝手の話だよ」
「そうですね、シルヴィアの今持っている一トンクラスの中容量のマジックボックスは流通量も多く、不人気形状の品もそれなりにあるとは思いますが、一応伝手がありますので当たってみますね。お時間は少しかかるかと思いますけれど」
「頼む。と言ってもあまり金額は出せないから、時間がかかっても良いんで調べておいてくれ」
「かしこまりました。あっ、そういえば……」
「おっ、なんだ? 処分に困ってる知り合いでも思い出したのか?」
「いえ、父が持っている大容量のマジックボックスなら殺せば手に入りますよ。ただし殺害して入手した場合は所有者登録の解除方法が限られる上に高額な費用が必要ですし、中の物は手に入らず消滅しますけれど。一番良いのは脅してマジックボックスの中身をすべて出させた後で所有権を放棄させて奪い取るのが一番ですね」
「だからそういう不穏な提案はやめろ」
「一番手っ取り早い方法なのですけれどね」
「まずは提案書を提出してからだ」
「そちらももう少しで完成いたしますので、出来ましたら見て頂きますね」
「流石に優秀だな駄姉は」
「クレア様も素晴らしいですよ。あの年齢であそこまで数字の理を理解しているとは。院長先生も素晴らしい能力をお持ちですから、ご指導方法が良かったのですね」
「クレアは低コストで美味い料理を作れるおかげで弁当販売でも大活躍だからな」
「実際その料理の腕とお弁当販売のお陰で、だいぶ運営費が圧縮できているのも確かです。残念ですけれど、提案書での予算請求額はかなり抑えられておりますので、あのクズ領主でも首を縦に振るかもしれません」
「なんで残念なんだよ、予算請求が穏便に通るのなら良い事じゃないか」
「孤児院と託児所の予算が通ったとしても、それ以外の弊害に対応できる頭を持っていませんからね。暗殺ギルドと盗賊ギルドの廃止の件も書類に纏めますので、そちらも同時に提出します」
「あれは潰さないとな」
「ええ、ですのでその際は存分にわたくしども姉妹をお使い下さいませ。妹は馬鹿ですけれど、手綱さえ握っておけば何かのお役には立ちますでしょうし」
「だからそういう不穏な提案はやめろ。反乱の計画をしてるみたいだ」
「いいえトーマ様、これは反乱ではございません。革命でございます」
「うるせー。ただいざとなれば、駄妹を助けた功績で予算分配を嘆願するってのもありかもな。ゆすってるみたいで嫌だけど」
「そうですね、まずはわたくしたち姉妹で登城し話し合ってきます。それでも要求が通らなかった場合はトーマ様のお力をお借りしてよろしいでしょうか?」
「わかった」
まずはそろそろ完成するというその提案書の確認だな。
駄姉ですら予算が通ると判断するのならなんとかなるだろう。なんとかガキんちょどもの未来に光明が見えて来た。
訳の分からんギルドの存続は別としても、託児所に予算が投入されれば俺の目の前でガキんちょが不幸な目にあう事もなくなるだろうしな。
今回で第三章は終了です。
ここまで拙作をお読みいただき有難う御座います。
次回より第四章が始まります。
残念美女の駄姉妹ヒロインが加わり、四章からは更に物語が大きく広がっていきます!
引き続きヘタレ転移者を応援よろしくお願い致します!
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