一期一振 <シルさんの日本刀講座 中級編>
「じゃあ次は武器屋だな。駄妹の侍女からの報告じゃ今日完成してるって話だったが」
冒険者ギルドを出て武器屋へ向かって歩いていく。
「しかし拵えまで全部一人で行っていたとは……」
「気難しい親父だからな、納得が行くものじゃないと気が済まないから結局自分で全部やっちゃうんだろ」
「刀身ならともかく、拵えなどは委託するのが嫌なら弟子を取って自分の作風を教え込めば良いのではありませんか?」
「アレに師事できる人間がいればな」
「なるほどと言わざるを得ないですね」
「アランとかそういうの好きそうだよね!」
「一号の手先の器用さとかは認めるがな、流石に親父の下で働くんじゃ可哀そうだ」
「むー! やってみなきゃわからないのに!」
「まあ一号がもし将来そういう職に就きたいって言うのならいくらでも協力してやるさ。一号本人がやりたいって思える職が一番だからな」
「うん!」
てくてくと歩いていき、武器屋に到着する。
ずっと閉めたままだった店が開いているので、完成したのだろう。
早速扉を開け、中に入る。
「親父、受け取りに来たぞ」
「おう、納得のいくものが出来たぞ」
そう言うと、後ろの棚から箱を二つ取り出し、それぞれ俺と駄妹の前に置く。
親父はアゴでくいっと箱を開けろと促してくる。
俺と駄妹は借りていた日本刀を親父に返す。
俺は箱を開け、シンプルに黒一色で塗られた鞘に納められた日本刀を取り出し、抜刀する。
駄妹は自分の箱は開けず、俺の日本刀を注視している。
「前と同じ刃長か」
「刃長二尺七寸、慣れてるだろうと思ってな」
「刃文は逆丁子か? いや片落互の目か。まるで備前長船景光だな。沸がよくついて刃中に稲妻も入ってるし、雷魔法をメインに使う俺には丁度良いな」
「お前さん素人とか言ってるが実は相当な刀好きだろ……」
「銘は?」
「一期一振 真打」
「まーたそういう影響受けてるのな。粟田口吉光とは作風が違うようだが」
「これというモデルは無い。俺の持つすべての技術を使って打った刀だし刃文も特に意識してないしな。ミスリルを使うなんて事は二度とないだろうからその銘にした」
「それで一期一振か」
「お兄ちゃん、いちごひとふりってどういう意味の名前なの?」
「親父がミスリルを使って刀を打つのは、生涯でこれだけって意味だな。今回の場合」
「今回の場合?」
「日本でも同じ銘の刀があるんだよ。似たような意味合いでそう名付けられた日本刀がな。諸説あるんだけど」
「凄く綺麗だよね、いちごひとふりしんうち」
「嬢ちゃんも良い目を持ってるな。いずれ嬢ちゃんも必要になるだろうからその時は言え。影打がある」
「お兄ちゃんかげうちってなあに?」
「俺に聞かずに親父に聞けよ、素人だぞ俺は……。日本刀ってのは一回の作刀依頼で何振りか打つ場合があるんだよ。その中で一番出来が良かったり、依頼者の希望に近かったりするのを真打、それ以外を影打と言って、真打は依頼者に納めて、影打は作刀者によって色々だけど、奉納したり、別の人に売ったり、手元に置いておいたりするんだ。もちろん影打だから出来が悪いって事は無いぞ。出来が悪いのは処分されるからな」
「そうだ。磨上してみたらかなり出来が良くなった物が脇差サイズであるんだ。いずれ嬢ちゃんも筋力がついてそのダガーが物足りなくなったらいつでも来い。金貨十五枚だが十枚にまけてやる」
「ありがとうございます! おじさん! じゃあそのかげうち取っておいてくださいね!」
「ああ」
「良かったなエリナ」
「うん!」
「あとお前さんの魔法石は茎に仕込んである。目釘穴の二寸下にな」
「ミスリルは?」
「皮鉄、棟鉄、心鉄がそれぞれ強度や靭性を変えたミスリル製だ、刃鉄はミスリルじゃどうしても納得がいかなかったから玉鋼を使った。だが魔力との親和性は問題無い」
「すまんな、無理を言って」
「何、竜殺しのお前さんに請われて打ったんだ、気にするな」
「最高の一振りだよ親父、ありがとうな」
「ふん、次は玉鋼だけの刀を買いに来い」
ぽーっと駄妹が俺の日本刀に見とれている。
「駄妹、お前のも見てみろ」
納刀しながら駄妹に声を掛ける。
「は、はいお兄様」
駄妹は慌てて自身の日本刀を取り出して抜刀する。
「これは……なんて美しい……」
「シルお姉ちゃんのにほんとうも凄く綺麗!」
「刃長は二尺五寸二分だ」
「刃文は中直刃か、匂口が青く澄んで良く冴えてるし、刃中も沸てる。まるで井上真改だな」
「お前さん今度一緒に酒を飲まないか」
「未成年だよ、俺は」
「大変、美しいです。まさかこんなに美しい武器がこの世に存在するなんて……」
「銘は一期一振 影打。同じように魔法石は目釘穴の二寸下に仕込んである」
「水魔法と相性の良さそうな美しい刀身ですね。非常に気に入りました! ありがとう存じます!」
「何、こっちこそいい仕事をさせてもらった。そしてこれだ」
親父が後ろの棚からもう一つの箱を出す。
蓋の部分がガラスでできて中が見えるようになっていて、その箱の中には一振りの輝く刀身が納められている。
「あの刀身か」
「そうだ、銘は竜切丸と切った」
「また病気を発症してるな親父」
「浪漫と言え。それに実際に竜を斬った刀だしな」
「短くなってるな」
「磨上したからな。刃長二尺三寸一分。なまくらでは無いが、元の斬れ味には及ばん」
「守り刀だし、その辺は気にしないよ。綺麗に研いでくれてありがたい。こいつは俺の命の恩人だからな」
「箱もサービスしてやるから一緒に持って行け。簡単な鍵も中に入ってるからな」
「まだ発注してなかったから助かるよ」
「よし、じゃあ俺は今日はもう店を閉めて寝るから出て行ってくれ。しばらくまともに寝てなかったからな」
「ああ、ありがとうな親父」
「おじさんありがとうございましたー!」
「親父殿、素晴らしい刀をありがとう存じます。この刀に負けぬよう精進いたします」
「ああ、せいぜい頑張ってくれ。そして次は玉鋼の刀を買いに来いよ」
「はい!」
駄妹はずっとにやにやしながら左腰に佩いた日本刀を眺めている。
何度も鯉口を切って抜刀しそうになるが、そのたびに止めている。
「お前孤児院や託児所内で抜刀するなよマジで。フリじゃないからな。子供がいるんだからな。ガキんちょの手の届く場所に置いたりするなよ」
「だ、大丈夫ですお兄様。自室で鍵を掛けてからゆっくり眺めますので」
「不安過ぎる。気持ちはわかるがな」
晩飯の買い物中にもうずうずしてたが、まあ我慢出来てるみたいだな。




