作刀依頼 <シルさんの日本刀講座 初級編>
「ではまずは武器屋ですか?」
「ああ、刀身を見せなきゃいけないしな」
昼食後はエリナと女騎士を連れてあちこち回ることになった。
装備の買い替えもあるので、ついでにエリナの装備のメンテナンスもやるかという事で、籠にエリナの装備も入れてあるし、胸甲の試着もするだろうと、俺とエリナは鎧下を着てきた。
ただしエリナの胸甲の内側の緩衝材を減らす必要は無い。残念だな嫁よ。
あと女騎士が俺の代わりに籠を背負うとか言い出してきた。
女性に籠を背負わせて俺が手ぶらとか絵面的に外道過ぎるだろ。
と断ったら、「マジックボックスがありますので」と、右手の薬指の指輪に収納されてしまった。
そうか、そういやこんな魔道具があるって聞いてたな。
「お兄ちゃん、冒険者ギルドに寄った後は魔法石の指輪を買うからね!」
「ありがとうなエリナ」
「うん!」
腕にずっとくっついてるエリナがご機嫌だ。
二人の稼ぎは一緒にしちゃってるから、どっちの金とかそういうのは無いんだが、どうしてもエリナから俺にプレゼントしたいらしい。
魔法石にひびが入ったから丁度いいタイミングだしな。
てくてくと三人で歩いていくと、武器屋が見えて来る。
「この店だ。親父が刀剣鍛冶師でな、俺の日本刀もここの親父が打った物だ」
「こんな所にあの竜の鱗すら切り裂く業物を打った鍛冶師がいるなんて」
「騎士団でも把握してなかったのか?」
「ええ、装備などは豪商や大店で規格を統一した上で一括注文するので、どうしても職人単位では把握できていません」
「まあそうだよな、あの親父も数打ちの武器とかあまり好んで打たなさそうだし」
「わたくしの武器も発注しようかしら」
「お前はどれくらい使えるんだ? 貴族だし魔法も使えるんだろ?」
「騎士団の中では平均レベルという所でしょうか。魔法は風と雷以外は使えます」
「風属性が無いからあの時歩いてたのか」
「土魔法でも移動するだけなら高速移動する魔法はあるのですが、あの時は猟師などを避難させつつ、地竜に魔法攻撃をして引きつけながら移動していたので、魔力切れを起こしてしまいました」
「ブラックバッファロー狩りで人がそこそこ出てたしな」
「はい。地竜の生息が確認できたので、偵騎を放ちつつ警戒を呼び掛けていた矢先でした」
「不運だったな」
「不謹慎かもしれませんし、お怪我をされたトーマ様には申し訳ありませんが、わたくしにとっては幸運でもありました」
「あっそ。まあ怪我したり苦労はしたが、その分お前が俺達から何かを得てくれればいいよ」
「はい」
武器屋の扉を開けて中に入る。
相変わらずこちらをジロリと見てくるだけの塩対応だったが、明らかに俺の姿を見て目の色が変わった。
まあ地竜討伐は結構な話題になってたみたいだしな。
「エリナも今のダガーからミスリルのダガーにした方が良いかもしれないな。いつ白兵戦になるかわからないし」
「そうだね! お兄ちゃんも良い武器を持ってたから助かったんだしね!」
「その通りだ嬢ちゃん」
「珍しいな、親父から話しかけてくるなんて」
「まあ要件はわかってるしな」
女騎士に目で合図をすると、マジックボックスから籠を出して俺の前に置いてくれる。
俺はその籠から刀身の入った白箱を取り出して親父に渡す。
「どうかな? もう駄目か? 親父が玉鋼ではなく鉄鉱石で打った習作だったとしても、俺としてはこいつに命を救ってもらったからなんとかしてやりたいんだが」
刀身をじっと眺めた親父が言う。
「火災被害などで焼身になった刀は再刃出来る場合もあるが......これは流石に難しいな」
「そうか、地竜を切り裂いた名刀だったんだがな」
「こいつも本望だろう。打ち直すよりは研ぐだけにして、このまま飾っておいてやれ」
「うちには子供がいるから刃物を飾るのはなー」
「竜を倒してお前さんや嬢ちゃん、町の連中と、何人もの命を救った実績がある縁起のいい刀だぞ。守り刀としては最高だろうが。ケースか何かに入れて置けばいいんじゃないか?」
「たしかにそうだな。頑丈なガラスケースでも発注して、ガキんちょどもを守ってもらうか」
「その方が良い。研ぎは無料でやってやる」
「拵えは無しで刀身だけを飾るから、銘を切ってやってくれないか」
「そうだな、無銘じゃ締まらんからな。何か希望はあるか?」
「生みの親が考えるのが筋だろうな」
「わかった」
「で、新刀なんだが」
「こいつに魔法を纏わせて地竜を斬った程度にしか話を聞いてないからな、詳しく聞かせてくれるか?」
「ああ」
親父に地竜との戦いの詳細を話した。
微動だにせず、いつものように不機嫌な表情だったが、目が凄くキラキラしてた。
判りやすいな。
地竜に日本刀を突き立てる所なんか鼻の穴がひくひくしてたし。
「なら魔法剣、それもミスリルで打って魔法石を埋め込んだ剣がお前さんの戦闘スタイルに合うだろうな。個人的には玉鋼で作刀したかったところだが」
「刀身を打つときの複数の鋼材のうち、刃鉄か心鉄、皮鉄、棟鉄のどこかに玉鋼ではなくミスリルを使えないか?」
「前に考えた事はあったんだがな」
「親父が魔法剣やミスリルソードみたいに魔法で斬れ味と強度を増す刀を打つつもりが無いという気持ちもわかるがな。どうしても俺の技量だと魔法で斬れ味を上乗せする必要があるんだよ。どうだろう、魔法と相性のいい日本刀を打ってくれないか? ミスリルソードや魔法剣じゃなく、親父の日本刀が欲しいんだよ」
「……わかった、そこまで言われたら刀鍛冶冥利に尽きるってもんだ。玉鋼のみで作った刀よりは落ちるかもしれんがな」
「金はこいつが出してくれるから存分に良い物を作ってくれ」
「あの……是非わたくしにも一振り打って頂きたいのです! 地竜の鱗すら切り裂く名刀を打つ貴方に、トーマ様と同じく魔法と相性の良い刀を! もちろん料金はトーマ様の分と合わせて言い値で結構です!」
「アンタの得意な魔法は? 特に剣や刀に纏わせる魔法だ」
「水です」
「二振りで金貨三十枚。前金で預かるからギルドの割引も効かんし、びた一文まからん。それでも良いなら打つぞ。作刀の間は店を閉める必要があるからな。その分の補填も込みでその値段だ」
「構いません! よろしくお願い致します!」
「それと魔法石を埋め込みたいなら雷と水との相性のいい魔法石を一週間以内に持ってこい。それぞれ三カラット以下で可能な限り真円球のな」
「はい!」
「手を見せてみろ」
女騎士が手を見せると、親父が席を立ち、店の奥から日本刀二振りとダガーを持ってきた。
「まずは嬢ちゃんの総ミスリル造りのダガーだな、持ってみろ」
「はいっ!」
そのミスリルダガーは、エリナが今持っている鋼鉄製のダガーと大さは変わらないが、十字鍔の所に小さな窪みがある。
「どうだ?」
「はい! しっくりきます!」
「そのダガーは十字鍔に魔法石を埋め込めるようになっている。そのままでも良いが、嬢ちゃんの属性に合わせて魔法石を埋め込めばさらに魔力効率が上がるぞ。埋め込むときは魔法石と一緒に持ってこい。無料で埋め込んでやる」
「おおー!」
「魔法を纏わせるだけじゃなく、魔力そのものを延長させて刀身を伸ばすような魔法もあると聞く。ならミスリルだけよりは魔法石の補助もあった方が良いだろう。それに魔法石を埋め込めば魔法杖としても使えるしな」
「親父、これはいくらだ?」
「ダガーの下取込みで銀貨三十枚だ」
「買おう」
「トーマ様、わたくしに買わせていただけませんか? エリナ様も命の恩人ですから」
「エリナ、どうだ?」
「シルヴィアさんの気がそれで済むのなら!」
「ありがとう存じますエリナ様」
「いいえ! ありがとうございます!」
「悪いな」
「いえ、出来ましたらそのダガーに埋め込む魔法石も買わせてください」
「えっ、でも高いですよ」
「金額の問題ではなく、気持ちの問題なのです。万が一の事が起こった際に、その魔法石でエリナ様のお命が助かる場合もあるかも知れませんし」
「エリナ、甘えておこう。俺の日本刀も金貨十枚超えでドン引きしたけど、こいつその分は子供たちに使ってくれって言ってくれたから」
「そういう事なら……わかりました! シルヴィアさんありがとうございます!」
「ありがとう存じますトーマ様、エリナ様」
「様とかいらないんだけどな」
「いえ、これは変えるわけにはいきません」
「うーん、めんどくさい」
「いいか?」
「ああスマンな親父」
「これはお前さんの刀だ。作刀が終わるまではこれを貸しておく」
手に持ってみると、やはりしっくりくる。
「助かるよ。流石に丸腰は怖いからな」
「で、これがアンタに貸し出す刀だ。持ってみろ」
「はい」
女騎士が日本刀を手に取り、抜刀して刀身を眺める。
「刀は何度か持ったことはありますが、この刀は特に美しい刀身をしているのですね」
「研げば済むような小傷程度なら構わんから、新刀が出来るまではそれで慣れておけ」
「わかりました。ありがとう存じます。少々お待ちいただけますか?」
そう言うと女騎士が武器屋から一旦出る。
金でも下ろしに行ったのかと思ったらすぐに戻って来て、親父の前に金貨三十枚、銀貨三十枚を置く。
慌ててエリナが床に置いてある籠の中からダガーを取り出し、カウンターに置く。
金を下ろしてきたのか? いや随分早かったし、財布の中を確認したとかかな?
「たしかに受け取った。俺は今から店を閉めて作刀する。一ヶ月、いや三週間で仕上げて見せるから、その頃に来い。それ以外で用事があれば裏にある工房まで来れば話は聞いてやる」
「わかった。親父頼んだぞ」
「ああ」
武器屋を出て、次は防具屋だ。
胸甲も買い替える必要があるが、鎧下が焼け焦げている上にノースリーブみたいになったからな。
一応洗濯された状態で女騎士が持ってきたけど、もう着られないので捨てようとしたらクレアに取られた。
仕立て直しにも使えない程あちこち焦げてたから、雑巾にでもするのかと聞いたら自分の枕カバーにするとか言ってたな。
愛されてるなと思うけど兄さまはちょっと引いたぞ、婚約者。




