試験販売
「お兄ちゃん! さんどいっちの準備できたよ!」
「兄さま、パスタの準備できました!」
「兄ちゃん、弁当箱並べておいたぜ!」
「よし、じゃああとは売れ行きだなー」
先日クレアとの会話で出てきた弁当販売。
コスト計算などはクレアに任せて、俺とエリナで市場を中心に、孤児院で弁当販売の宣伝をお願いした。
責任者として登録すれば、常に常駐しなくても路面販売なら可能と言われたので、商業ギルドの登録はとりあえず俺だけにしておいた。
メニューはタマゴサンド、BLTサンド、テリヤキチキンサンドが二切れずつ入ったサンドイッチセットが銅貨三十枚。
焼きそば風パスタ弁当、ナポリタン弁当が各銅貨二十枚という格安の値段だ。
ただしこの値段は弁当箱など入れ物を持って来た客の値段であり、弁当を入れる弁当箱は銅貨四十枚で並行して販売している。
これは一号が男子チームを統率して木で作った弁当箱だ。
あいつはこういう細工物が好きらしい。
欲しいものを考えておけよと言った件で、そういえばと金槌やのこぎり等の工具が欲しいと言い出したのだ。
それ以降男子チームでは工作ブームが始まって、下の子用の玩具や、リフォームの時に棚や台等も少しではあるが作っていた。
塗りはまだできなかったのでそれだけは業者にお願いして、何色かに分けて塗装と防水加工を行った。
同じく木製のフォークも蓋に収納できるようになる便利な機能も付けた。
その弁当箱を持ってくればそれに弁当を詰めるサービスも行う。
パスタは競合も多いので、日本独自のメニューのみに絞った。
サンドイッチの相場は銅貨三十枚と価格ではそれほど強みは無いが、具のボリュームと味はどこにも負けないと思う。
ハンバーガーやサブ〇ェイ方式だと肉屋の親父の店に敵わないから微妙に競合を避けた。
ヘタレ言うな。肉の卸やってる店に勝てるか。
しかもこの価格でも、用意した在庫三十食ずつの内十食ずつ捌ければ赤字を回避できるという。
弁当箱を除いて、弁当を全部売れば銀貨一枚の黒字になるのだ。
もちろん人件費は除いてではあるし、慣れない日本の味付けなので試食もしばらくは行う為に利益は考えていないが。
「余っても私たちのお昼ご飯になりますしね」
「兄ちゃんなんでピザ売らないんだよ。あんなに美味いのに」
「ピザなら生地から作れるしクレアの計算した利益率もかなり良いんだが、冷めると美味くないんだよな」
「お兄ちゃん、冷めても美味しいピザとか作れないの?」
「んー、日本では各家庭に簡単に暖める機械があったんだけどな、市場なら竈どころか火も使うのは大変だろうし。ピザ販売も課題だな」
地竜討伐から一週間が経過した。
俺が退院したのは三日前だから、そろそろ請求書だとか俺の荷物が届いてもおかしくないんだけどな。
とりあえずは狩りにはまだ行けないし、丁度良いと弁当販売の手伝いだ。
告知期間は短かったが、俺の入院中にクレアが原価計算をしてメニューを決定済みだったし、女子チームの年中組が、一生懸命宣伝ビラを作っていてくれたので、急遽試験販売を行うことにした。
売れ行きとか売れ筋時間帯次第では、弁当販売後からダッシュエミュー狩りという手もあるし。
それこそ弁当を持ってな。
そうこうしていると、ぼちぼち客が来るようになった。
焼きそば風パスタとナポリタンは初めて食べる客も多いので、ほぼ全員が試食を希望する。
二口程盛った小皿をクレアとエリナで渡している。
「あら、美味しいわね! このやきそば風パスタというのをお願いしようかしら」
「ありがとうございます。お弁当箱があれば銅貨二十枚です」
クレアの流れるような接客が凄い。
ちなみに俺は完全に力仕事要員で黒子に徹している。
「ええ、市場で聞いていたから持ってきてるけど、その箱も売り物なのかしら?」
「はい! 俺が作った弁当箱です! 一つ銅貨四十枚です! フォークも収納出来ますし、塗りは職人にお願いしたんです!」
一号が元気だ。というかちょっと緊張してるなあいつ。
買い物は何度も経験してるけど、販売するのは初めてだろうし。
「この赤色のお弁当箱に詰めて頂けるかしら?」
「かしこまりました。銅貨六十枚になります。またこちらのお弁当箱を持ってきて頂ければお詰めいたしますね」
「ええ、ありがとう。また寄らせてもらうわね」
「「「ありがとうございました!」」」
やはりわざわざこちらに遠回りして来てくれているのか、来た道をそのまま帰っていく客が多い。
店を出して三十分くらいで十食ずつ捌けている。
良いペースではあるが、野菜売りのおばちゃんのように孤児院に子供を預けていく人が付き合いで買って行ってくれたりしてる分もあるので、純粋な新規顧客では無いというのも考えなくては。
「大盛サービスとかありかもな」
「料金そのままでですか?」
「一号の作った弁当箱限定なら無料ってのはどうかな。見た目も良いし、どんなメニューでも入るように大きめに作ってある。サンドイッチは難しいが、パスタなら多めに入れるとか、サンドイッチでも希望すればパスタをちょっと入れちゃうとかな。職場や買ってくれた人の店先でうちの弁当箱を使って貰えれば宣伝効果にもなりそうだし」
「流石お兄ちゃん!」
「そうですね……新メニューを出す場合に、本格販売する前の試食代わりにサービスで食べてもらうという手も使えますね。そうすれば試食自体を辞めちゃえばいいですし、うちのお弁当箱を持ってる人は常連客になるでしょうから味の感想も聞きやすいですし」
「一号の男子チームが良い仕事をしてくれたからな」
「兄ちゃん……」
「ただやっぱコストの面もあるから、その辺の詳細はクレアに任せて良いか?」
「任せてください兄さま!」
「逆にパスタ類の大盛は、はっきりと一.五倍や二倍の量にして、しっかり別料金を取るっていうのも、大飯ぐらいにはありがたいかもな。うちの弁当箱なら目いっぱい詰めれば二倍程度にはなるし」
「パスタ類は利益率が良いですしね」
「ゆくゆくはピザ専用の、温度を保つ魔石を仕込んだ箱というのもありかもしれんぞ一号!」
「おお! 兄ちゃんすげー!」
「魔石の入った弁当箱を盗まれたら損害がデカいから、常連客専用とか保証金を預かる形とかになるかもしれんが」
「魔力の補充なら私たちで出来るからね! クレアの魔力れーきができればクレアにもできるし!」
「れーきじゃなくて励起な、こっちでも使ってる言葉だぞ。あとは屋台とか配達も考えたんだが、屋台は初期費用が掛かるし、配達は行ける人間が少ないから、余程大口じゃないと難しいしな」
三日前からの告知で、集客は怪しいかと思ったが、そこそこの人が足を運んでくれて、商品を並べてから一時間ちょっとで殆ど売り切れた。
初日でこれなら大分良いんじゃないか? クレアの料理だから味には自信があるし、口コミで広がれば流行るかもしれん。
領主家に喧嘩売ったからこれ以上国や領主に援助を求めるのも嫌だし、なんとか商売として成立すればな。




