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女騎士


「あれ? どこだここ?」


「お兄ちゃん‼」


「兄さま‼」



 エリナとクレアが抱き着いてくるが、まったく状況がわからん。

 目を覚ますと、いつもの俺達の部屋じゃないし、あれ?

 なんだっけ?



「って、エリナお前大丈夫か?」


「大丈夫じゃ無かったのはお兄ちゃんだよ‼」



 エリナがギャン泣きしながら抱き着いて俺に文句を垂れてきた。

 こいつがこんなに泣くの初めてじゃないか?



「あの女騎士は? 地竜はどうなった? 死んだのかアレ」


「シルヴィアさん⁉ 大丈夫だよ‼ そんな事よりお兄ちゃんが一番酷かったんだからね‼」


「いや胸甲のお陰で肋骨にひびが入った位だろ、あと捻挫程度か?」


「何言ってるの‼ お兄ちゃん腕が無くなってたんだよ‼」


「は?」



 言われて両腕を見るが、特に問題無い。

 普通に動くし、今まさにエリナとクレアを抱えてるしな。



「兄さま本当に酷かったんですよ‼ 姉さまの伝言を伝えに来てくれた女の人に、無理を言って私だけここに来たんです‼ 兄さまの両腕が無くなってたんですよ‼」


「マジか……って結婚指輪が無い!」


「あるわけないでしょ‼ 肩から先が無くなっちゃってたんだから‼ あんな至近距離で電撃魔法をバンバン使ってたらそうなるよ‼」


「必死だから良くわかってなかった。心配かけてごめんなエリナ、クレア」


「もう‼ お兄ちゃん‼」



 エリナが俺の胸から顔を離して、キスをしてくる。



「絶対に逃げるって約束したじゃない‼ お兄ちゃんが死んじゃうなんて私絶対に嫌だからね‼ お兄ちゃんの馬鹿‼」


 口を離した途端に罵詈雑言。

 馬鹿って言われたの初めてだなそういや。

 罵詈雑言が終わったらまた俺の胸に顔を埋めて泣き出す。

 こんなキレまくって泣きまくるエリナは初めてでどうしたらいいのかわからない。



「兄さま‼」



 クレアがキスしてきた。

 は?

 ナニコレ。



「私だって兄さまが死んじゃうなんて嫌です‼ なんでもっと自分を大切にしてくれないんですか‼ なんでヘタレの癖にさっさと逃げなかったんですか‼ わーーーーーーん‼」



 クレアが俺の胸に顔を埋めてギャン泣きしだした。

 クレアが怒るのはたまに見るが、ここまでブチギレした上にギャン泣きなんて初めてだ。

 しかも泣く時だけは年相応なんだな。


 もう状況が良く飲みこめないし、二人がもう訳わからん状況だからなんか冷静になって来た。


 ちょっと落ち着くと、俺にキスをして俺を罵ってまた泣くを繰り返すエリナとクレアに何て声を掛けたらいいのかわからないし、何でキス? いやその前になんでクレアと俺がキスしてんの? っていう状況も相まって、冷静ではあるが、どうしたらいいんだこの状況……。


 と一人オロオロしてると



<コンコン>



 ノックの音がしたので、「どうぞ」と返事をすると、医者と看護婦だろうか?

 日本の医療関係者みたいな服装では無いが、白くて清潔そうな服を着た壮年の男と若い女二人が入って来た。



「おお、トーマさん、意識が戻られましたか。君、シルヴィア様を」


「はい、先生」


「どうですかトーマさん。体に何か痛みとか違和感とかありませんかな?」


「えーと、多分大丈夫だと思うけど、今動かせないんで」



 エリナとクレアに抱き着かれながら返事をする。



「ははは、なら体が動かせる時で結構ですので、何かありましたらいつでも呼んで下さい」


「で、今起きたばかりでよく状況がわからないんだが」


「今トーマさんが命を救った方を呼んでいます。直接聞いた方がよろしいでしょう」



<どっぱん>



 先生と話していると、ノックも無く扉が開く。



「トーマ様! 良かったです!」



 俺のことをトーマ様と呼ぶのは赤い長髪の随分と良い服を着た女だ。

 化粧っ気が無い分若く見えているだけかもしれないが、歳は俺と同じくらいか?

 男ならどんな奥手でも声をかけてしまいそうな美貌の上に、随分育ちが良い。

 身長も百六十五センチ以上はありそうだし、ちびっ子でアホ可愛い貧乳のエリナとは真逆の存在だな。逆エリナとでも呼ぶか。



「誰?」


「わたくしです! 先日地竜から命を救っていただいたシルヴィアです!」


「知らん」


「そんな! あの時確かにトーマ様に任せろと」


「あー、あの追われてた女騎士か」



 鎧を着てなかったから全く分からなかったが、あの時の女騎士か。

 騎士爵って一代限りで爵位の継承が出来ないけど一応最下級の貴族だっけ、貴族ならそりゃ良い服を着てるわな。



「トーマさん、シルヴィア様は騎士では無く」


「モンド先生、今はそのようなお話より、先にトーマ様に説明を」


「ですな」


「俺も全然状況がわかってないからな。地竜は死んだのか?」



 唯一状況を知ってるエリナが泣きまくってるから話を聞けない。

 口を開けば罵詈雑言だし、顔を向けたらキスされるし。



「はい、エリナ様の魔法とトーマ様の刀と魔法で」


「そか、倒せてたのか。良かった」


「トーマ様、わたくしを救って頂きまして、本当にありがとう存じます」


「まー成り行きだったけどな。お前が追われてなかったら逃げ出す予定だったし。無事でよかったよ。馬は? 途中乗り捨ててたけど」


「疲労で倒れてしまいましたが無事です」


「地竜に攻撃してたあたりから良く覚えてないんだが」


「エリナ様から聞いた話ですが、エリナ様の攻撃魔法で地竜が怯んだ隙に地竜に飛び乗り、刀を脊椎に突き立てて電撃魔法を何度も放っていたとお聞きしました」


「あーそうだった、脊椎に届いて無かったのかなアレ」


「いえ、解体した時に担当者が確認したそうですが、しっかり脊椎を捉えていたと。強力な魔法剣でも無いのに。地竜の鱗と骨にここまで深く刃が入るとは相当な業物か、強力な魔法の補助があったのではと」


「あ、俺の日本刀は?」


「にほんとう? ああ、刀ですね。回収しておりますが、柄糸どころか柄自体や鍔などは焼け落ちてしまって……刀身だけは回収できたそうです」


「えー、高かったんだけどな。拵えを作り直せば使えるのかな」


「どうでしょうか? かなりの高温に晒されたようですし」


「そか。まあ命の代償だと思えば安いのか」


「いえ、代わりの佩刀はこちらでご用意させて下さいませ。かなり特殊な造りな上に無銘だったので作刀者がわからないのですが、もしあの刀を打った鍛冶師を紹介して頂ければ新刀をご用意させていただきます。どうしてもわたくしどもの伝手ではあれほどの業物を打てる鍛冶師はおりませんので、同等の刀が用意できなければ魔法剣をご用意させていただくつもりですが、竜の鱗すら断つレベルとなると……」


「マジで? 作刀者は知ってるし助かる。託児所を作るのに貯金を大分使った後だからな。買えない事は無いけど、出費は減らしたい時だし」


「託児所ですか?」


「俺達孤児院に住んでるんだけど、ここの国だか領主かわからんが、碌に援助も寄越さないクズで酷かったんだよ。それこそ飯を食えずに倒れちゃう子が出る位でな」


「トーマさんあの……」


「モンド先生」


「はっ」



 話してると、なんかだんだん腹が立ってきた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 良かった〜ちゃんと無事に腕も生えて…… ここまでくると人間じゃない気もするけど……治癒魔法だよね! そしてシルヴィアさん、あなたもしや……
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