後悔しない生き方 <トーマvs地竜の挿絵あり>
手は考えてある。
だが正直怖い。
今ならまだ逃げられる。
逃げればエリナやクレア、あいつらと生きていくことができる。
だが!
このまま逃げたとして俺は納得して残りの人生をエリナやあいつらと歩けるのか?
前の世界を恨んでたのは不幸なガキどもを見てみぬふりをしていた連中に対してじゃないのか?!
ならやるしかないじゃないか!
大丈夫だ! 親父の業物がある!
業物なら地竜の鱗は斬れると事務員は言っていた。
俺の技量では届かないかも知れないが、魔法で上乗せする事は出来る。
大丈夫だ! ヘタレるな!
「土錐!」
地面から数十センチから数メートルの錐を複数生み出す土魔法を発動させる。
無論こんな石で出来たパイロンみたいな物で地竜を足止めできるとは考えていない。
地竜は土の錐を見ても構わずこちらに向かってくる。
「疾風!」
体を軽くし、移動速度を上げる風魔法を発動させ、抜刀しながら生み出したばかりの土の錐を駆け上がり、地竜の上に大きくジャンプをする。
「お兄ちゃん!!」
エリナか! なんで逃げない!!
「天の火矢‼」
エリナの放った火魔法最上級の魔法が、赤光の帯を描いて地竜の肩を鱗ごと貫く。
この土壇場でエリナの魔法のレベルが上がったのか、流石俺の嫁!
俺は地竜の首の上空まで来たところで疾風を解除し、日本刀を逆手に持ち、切っ先を真下に向ける。
「雷光の剣‼」
初級魔法のウインドエッジよりも更に強力な、刀の斬れ味を増加させる上に電撃でのダメージも加える中級の雷魔法を発動する。
出力を上げろ!
魔法はイメージだと爺さんから教わった。
ならば地竜の鱗すらたやすく斬り裂くイメージをしろ!
指輪の魔法石が今までにない以上の輝きを放つ。
刀身からバリバリと放電音が発生し、閃光を発してスパークする。
自由落下で地竜の首めがけて落下していく。
エリナのお陰で動きが止まっている今しかない!
首を切断する方が確実なのだが、二、三メートルはありそうな太い地竜の首を一撃で断つには刃長が足りない。
魔力を刀身代わりにして、刀身を伸ばす魔法はまだ習得していない。
ならば狙いは――
――脊椎!
「いっけええええええええええええ!」
刃長二尺七寸の刀身を地竜の首に一気に突き立てる。
流石親父の業物、ほとんど抵抗が無かったぞ。
鍔まで地竜の首に突き入れたところで、中級の雷魔法を手に持ったままの日本刀に直接放つ。
「電光撃!」
「電光撃!」
「電光撃!」
「電光撃!」
「電光撃!」
「電光撃!」
地竜が狂ったように暴れ出す、脊椎に届いてないのか?
だが、もう策は無い。
あとは魔力が尽きるまで地竜の体内へ刀身越しに電撃を叩きこむしかない!
術者にはある程度の魔法抵抗があるし、発動直後は魔力の反発力だか反作用が働くから、術者が攻撃魔法を放ってもそのせいでダメージを負う事は無いと聞いていた。
だがこんな至近距離での攻撃魔法なんか初体験だ。
既に初撃をぶち込んだ時点で両腕の感覚が無くなっているが、エリナがすぐそこにいる以上、確実に仕留めるしかない!
「電光撃!」
「電光撃!」
「ライトニングボ......っ!」
地竜が倒れ込む程の角度で暴れ出したため、日本刀の柄から手が離れてしまう。
地竜の背中から振り落とされ、土の錐の残骸か何かにうつ伏せで叩きつけられる。
「がはっ!」
「お兄ちゃん‼ 腕が‼」
胸甲が大きくへこんだが、大丈夫だよエリナ、肋骨にひびが入った位だ。
だから泣くんじゃない。
「エリナはあの女騎士を連れて逃げろ! 俺なら大丈夫だ! 柄に魔法をぶち当てれば! 電光撃!」
地竜の後ろ首辺りに突き立っている日本刀を避雷針替わりにして電撃を更に叩き込む。
その一撃が致命打になったのか、脊椎に刀身が届いていたのか、エリナの魔法で致命傷を負っていたのかはわからない。
が、俺を振り落とそうとして大きく体を傾けたように見えた地竜が、エリナに負わされた傷のせいか体を支えられずにそのまま横転する。
エリナは倒れる地竜に目もくれずに俺に駆け寄り抱き着いてくる。
「何故逃げなかった!」
「だって!!」
「とにかく離れるぞ!」
「うん!! お兄ちゃん私が支えるから立ち上がって!! その腕じゃ立てないでしょ!!」
エリナに支えられて立ち上がると、倒れた地竜を睨みつけながら後ろ向きに下がっていく。
そうだせめてナイフを......。
だめだ、腕の感覚が無くて動かせてるのかどうかもわからん。
電撃で腕の感覚がやられてしまっているらしい。
「エリナ魔力は?」
「さっきので空っぽ!」
「なら疾風!」
だが発動しない、魔力切れかよ!
「お兄ちゃんも⁉」
「ああ、仕方ない。地竜が動き出す前にこのまま距離を取るぞ」
「わかった‼ ごめんねお兄ちゃん、治癒が使えないよ‼」
「追われていた女騎士は逃げられそうか? クレアも待ってるし俺たちも早く帰らないとな」
「あのまま走れていればもう門が見えるところまでは行ってると思うけど‼ それよりお兄ちゃんの腕が‼」
「怪しいな、途中でぶっ倒れてるかもしれん。俺とエリナで運べれば良いんだが」
「お兄ちゃん‼ しっかりして‼ 運べるわけないでしょ‼」
「何で泣いてるんだエリナ、いいから歩くぞ。地竜が生きていたら町が危ない、早く知らせないと、孤児院も」
「ごめんねお兄ちゃん‼ 私が治癒を使えれば‼」
「大丈夫だよ、胸甲はへこんだけどな。クレアと孤児院がな、とにかく早く逃げないと」
「違うの‼ お兄ちゃんの両腕が無いの‼」
エリナがさっきから泣き喚いている。
そりゃそうだろう、ドラゴンなんてのを見たんだからな。
俺がしっかりしないといけないんだが、足が捻挫でもしたのか、酷く痛む。
だが俺達には治癒どころかヒールすら使う魔力が残っていない。
「お兄ちゃん‼ ごめんね‼ しっかりして‼」
「ああ、大丈夫だよエリナ、大した事は無い。それより落ち着け、三分時間を稼げば疾風が使えるから」
それでも可能な限りエリナに支えられながら急いで距離を取る。
こんな時にブラックバッファローが来たら終わるぞ。
だが混乱してるエリナを不安がらせるわけにはいかない。
俺が落ち着かなきゃ、クレアに怒られるぞエリナ。
「お兄ちゃん‼ ごめんなさい‼ ごめんなさい‼ 私こんな大事な時に治癒が使えない‼」
「エリナ大丈夫だ、安心しろ。クレアも待ってるし、地竜はまだ動く気配はないから、このまま後退しながら俺の魔力回復を待つぞ」
地竜は一向に動く気配がない、だが死んだかどうかなんて確認する余裕なんて無い。
「とにかく距離を、きょりをとらないと」
「お兄ちゃん‼ しっかり‼ 止まっちゃダメ‼」
「エリナが、エリナが」
「私は大丈夫‼ お兄ちゃん‼ 歩こう‼」
「くれあがまってるし、がきんちょどももあんなのをみたらないてしまう、なんとか、なんとか......」
「お兄ちゃん⁉ ダメ‼ 動いて‼ 誰か‼ 誰か‼」
「えりな」
「お兄ちゃん‼ 助けが来た‼」
「おお」
不思議な浮遊感を感じながら、エリナに言われて門の方角を振り返ると、数十騎の騎兵がこちらに向かってくる。
さっきの女騎士のように随分良い鎧を着けてるからこの国の正規兵か?
女騎士が呼んでくれたのか?
「お兄ちゃん‼」
安心した途端、俺の意識が闇に落ちたのだった。




