おにーさんのラスク <ミリィwithラスクの挿絵あり>
「婆さん帰ったぞー」
婆さんに声を掛け開錠してもらう。チ〇カシを見ると十五時ちょい前か。
まずは今日買ってきたおやつとラスクの件だな。
「お兄ちゃんお帰り!」
子犬の様に飛び出してくるエリナ。
「明日のダッシュエミューの罠用の野菜屑やらヘアピンやら買ってきた。あと晩飯の食材もな」
「そっか、たしかにあの方法だといつも狩れるかわからないからね」
「さて、おやつを食べたらクレアの髪をお団子にするか」
「お兄ちゃん私もおだんごにして!」
「わかったわかった。クレアが先だぞ」
「うん!」
エリナを伴ってリビングに行くと、丁度ミコトの授乳タイムだった。
「あっ兄さま、お迎えに出られずにすみません」
「良いって良いって。それよりミコトはどうだ? 食欲旺盛か?」
「ええ! いっぱい飲んでくれますよ! 見てください兄さま、凄く可愛いですよ!」
一生懸命クレアの持つ哺乳瓶からちゅーちゅー母乳を飲むミコト。
可愛い。
「確かに可愛い、凄く可愛い。癒されるなー」
「でしょう! ミコトちゃん可愛いですよね! この時間は母乳だけですけれど、離乳食の時は一生懸命もぐもぐしてて、それも可愛いんですよ!」
いつもおとなしく真面目なクレアのテンションが異常だ。
でもたしかにわかる。
ミコトの魔性の可愛さには誰も逆らえん。
「ミコトのごはんが終わって、ガキんちょ共のおやつが済んだらお前の髪型をお団子にするからな」
「兄さまありがとうございます!」
「じゃあミコトのご飯が終わったらおやつにするぞー。今日はケーキもあるぞケーキ」
「「「わーい!」」」
台所から保冷の魔石が入ってる箱をまず開けて、皿に取り分ける。
ラスク(偽)は本物を見せた後に持っていく。
チーズケーキと苺のショートケーキとラスク(真)が乗せられた皿を、エリナと二人でリビングのテーブルに並べていく。
クレアを見ると、ちょうどミコトの授乳が終わってゲップをさせている所だった。
「よしじゃあいいかー。まず兄ちゃんお前らに謝らなくてはいけない事がある。パンの耳を揚げたお菓子をラスクと言ったな、あれは嘘だ。本物のラスクは今お前らの皿に乗っている四角い奴な」
「おにーさん、じゃーあのらすくはなんていうのー」
「正式名称がよくわからないんだよ。ただあれをラスクと言っちゃうと、お前らが社会に出た時にぷげらされちゃうから、本物のラスクを買ってきた。偽の方はそうだな、偽ラスクとかラスクもどきとかそんなんで良いかな」
「じゃーあのおかしは、おにーさんのらすくっていうー」
「俺のラスクか。まぁそれでも良いか」
「うんー」
「じゃあまずは、黄色っぽいのがケーゼクーヘン、いわゆるチーズケーキと呼ばれるものだ。苺が乗っかったのはエーアトベーレンザーネトルテ、いわゆる苺のショートケーキだ。良いか、お前らが社会に出た時に、好きなお菓子は何? と聞かれたら、ケーゼクーヘンとエーアトベーレンザーネトルテと答えるんだぞ。高級そうに聞こえるからな。よし食って良いぞ!」
「「「いただきまーす」」」
「なぁ一号、この挨拶って何て言ってるの?」
「いただきますだけど?」
「うーん。スマホの動画で撮影したら現地語で録画されるかな? 百科事典の情報が売れないどころか、百科事典は既にこの世界に持ち込まれているって話を聞いた時点で、もう何ヶ月も電源入れてないけど。たまたま百科事典持ってて<転生の間>に行ったって奴が居てもおかしくないわな」
「兄ちゃんこれすげーうめー」
「毎日は無理だが、月に一回くらいは買って来てやるからな。社会に出てお前らがぷげらされないように」
「よくわかんないけどありがとうな兄ちゃん!」
すげー勢いで食ってんなこいつら。食いつくす前に偽ラスクを持って来るか。
台所に行って、でかい器に盛られた大量の偽ラスクをリビングに持っていく。
こいつら全部食いきれるんかなコレ。
早くも皿の菓子を食いつくしたガキんちょが出始めていたので、テーブルの真ん中にドカンと偽ラスクを置く。
「お前らそれだけじゃ足りんだろ。偽ラスクも作ってあるから足りない奴は食え。食い過ぎて晩飯が食えなくなるなんて事の無いようにな!」
「「「はーい!」」」
「最高の返事だぞ、弟妹ども!」
チーズケーキと苺ショートを食ってみる。普通に美味いな、値段からしたらちょっとがっかりだけど。
日本は食い物に関しては安かったからなぁ、コンビニスイーツとか二百円位で十分美味かったし。
銅貨で一個百五十枚って事は千五百円程度か。
まぁガキんちょ共の為だ、月一で買ってきてやろう。
値段を考えなければ十分満足できるケーキを味わい、ラスクも齧ってみる。
うん、これも値段を考えなければ普通に美味い。ちゃんと良いバターとか使って作られてるし。
俺の偽ラスクは砂糖とシナモンパウダーしか使ってないからな。
ベースはパンの耳だし。
などと考えながら菓子をパクついてると、ミリィがぽてぽてとやってきた。
「おにーさん、けーきおいしかったよー」
「そうか、また買ってきてやるからな。一個ずつしか無かったから食い足りないだろ、偽ラスクが大量にあるから食えよ」
「にせらすくじゃなくて、おにーさんのらすくだよー」
「わかったわかった。俺のラスクで良ければいっぱい食えよ」
「あのねー、けーきもおいしかったけどね、みりぃは、おにーさんのらすくがいちばんすきー」
「……そか。ありがとなミリィ、また作ってやる」
「おにーさんありがとー」
ちょっとほっこりした。
これからも頑張っておにーさんのラスクを作ってやるか。油跳ねは怖いけど。




