平原での活動
「ダッシュエミューってそこそこ見かけるのな」
「平原で視界が良いから見つけやすいけど、凄く速く走ってるし遠いよね。あれじゃ魔法も届かないし」
翌日、俺とエリナは西の平原へと来ていた。
ちなみにクレアはミコトにごはんをあげることでご機嫌になってたから大丈夫だと思う。
目的のダッシュエミューは、十分に一度くらいのペースで見つける事が出来た。
視界が良いから目に入るというだけで、魔物の密度としたら南の森よりまばらかもしれない。
一キロから数キロ位離れた場所を、時速六十キロ位で走り回ってる。
国道を走る車って感じか。
サイズ的にはバイクくらいっぽいけど。
群れじゃなくて単独で移動してるんだな。
「どうすっかねー、餌でも仕掛けて食ってる所に風縛を使うか、攻撃魔法で仕留めるか」
「風刃で足を切っちゃうとかね。逃げられなくなるし」
「容赦ないな。とりあえず一度でも通った辺りまで行ってみるか。平原って言っても木とか背の高い草とかもそこそこあるし、そこで待ち伏せするぞ」
「そうだね!」
ダッシュエミューが走り去った辺りまで一キロ程歩いて、手頃な草の中に身を隠す。
「ちょっとここで様子見るか」
「はーい!」
「ダッシュエミューってどの部位が貴重なんだっけ」
「背中の皮だね! 高級素材なんだって」
「オーストリッチかよ。なら火魔法はあまり使いたくないな」
「じゃあやっぱ風魔法だね」
「風縛で動きを止めてから、背中を傷つけないように狩るか」
「うん!」
ひたすらダッシュエミューを待つ。
暇過ぎなのでエリナの髪を弄りまくる。
野外活動を本格的に始めた頃に、鞄の中にあった鼻毛チェック用ミラーをエリナにプレゼントしていた。
その鏡をエリナは凄く気に入り、肌身離さず持ち歩いている。
今エリナはその鏡をのぞき込み、俺が弄ってる髪を見ている。
もちろん鼻毛チェック用だったという事は内緒だ。
こいつの髪しっかりコシもあって弄りやすいんだよな。
整髪料も何もないからリボンで縛るかドライヤー魔法で固定する位しか出来ないんだけど。
「お兄ちゃん! 何か音がする!」
「ちょっと待て、今縦ロールを固定するのにドライヤー魔法使ってるから」
「お兄ちゃん! ダッシュエミューだよ! 私の髪を弄ってる場合じゃないよ!」
「えっマジで?」
「風縛が届く場所に来たら使うよ!」
「おう頼む。俺の風縛だと逃がす恐れがあるからな。というか届かん」
ドドドドという音が近づいてくる。
まっすぐこちらに向かってくる訳じゃないけどちょっと怖いな。
エリナの風縛が通用しなかった場合に備えて、風刃で足を切る準備をしておくか。
と言っても俺の射程距離は最大でも百メートルちょっと。
上手い事こちらに来てくれればいいが、臆病な魔物との事で馬車や人間には余り近づいてこないそうだ。
二百メートル程の前方を横切るように移動してくる。そろそろエリナの射程圏か。
「行くよお兄ちゃん!」
「よしやれ!」
「風縛!」
エリナの魔法にダッシュエミューが絡めとられる。
捕まえた! というか俺何もしてない!
「やったぞエリナ! とりあえず近づくぞ。そのまま維持できるよな?」
「任せてお兄ちゃん! 頭を下に向けるから首を切っちゃってね」
「わかった」
エリナと二人でダッシュエミューに近づいていく。
俺の風刃で斬ろうとしても、エリナの風縛の結界を突破できないんだよな。
ロングソードは透過するから、同属性魔法だと吸収されちゃうとかなんだろうか。
単純に俺の魔力が足りなくて弾かれるとか?
ただ風魔法でも剣に纏わせれば透過するから、理屈が良くわからん。
「陥穽!」
まず血抜きで出る血を捨てる穴を土魔法で掘る。
「風の剣!」
おっさんから巻き上げたロングソードに風魔法を纏わせて切れ味を増す。
最近切れ味が無くなってきたからな。
一回で切れないとキモいしね。感触がヤバい。
ダッシュエミューの側まで来て、一撃で首を落とす。
火魔法や水魔法、雷魔法を剣に纏わせると、傷口を焼いたり凍らせたりで血抜きがしにくくなるんだよな。
「お兄ちゃん、血抜きをするからちょっと離れててね!」
「わかった」
「ぎゅー」
エリナがぎゅーと言うと、ダッシュエミューの体が細くなり、血がダバダバと勢いよく出てくる。
「お前何してんの?」
「絞ってるの!」
「レモンかよ」
「ぎゅー」
なんか中身が出てきたんだけど……。
エリナさん、絞り過ぎじゃないんですか?
「エリナ、中身がちょっと出て来てるから余り強く絞らないで。お兄ちゃん吐きそう」
「もー、お兄ちゃんはヘタレだなー」
そう言うとエリナは戒めを緩めたのか、ダッシュエミューの体が少し太くなる。
しばらくそのまま放置していると、血抜きが完了した。
「ダチョウサイズだったら入らなかったけど、このサイズなら背負い籠に入りそうだな」
「じゃあお兄ちゃん、穴の横に籠を置いて。そのまま入れちゃうから」
「首を上に戻して入れてくれよ。血が垂れてきちゃいそうだし」
「わかった!」
俺の新しい背追い籠は前世でのドラム缶より一回り小さいサイズだ。
竹のような素材で編まれた上に金属で補強されていて、軽量かつ頑丈に出来ている。
食材なんかも入れてたとは言え、これいっぱいに玩具を詰め込んでたんだな。
そりゃクレアも切れるわ。
食材等も入れる籠なので、魔物を入れる時には専用の革袋を籠に被せている。
冒険者ギルドにこのまま納品すれば、革袋も魔法で洗って返してくれるんで助かっている。
籠のセッティングが終わると、エリナはくるんとダッシュエミューを回転させて首を上に向ける。
そのまま風の玉ごと血抜きの終わったダッシュエミューをゆっくり籠に降ろしていく。
「あ、籠にちょっと引っかかってる。ぎゅー」
「やめてやめて、絞らないで。鳥モツ出ちゃう」
「籠に入ったよお兄ちゃん!」
「ご苦労エリナ。結局狩りはほとんどお前が終わらせて、俺はお前を縦ロールにしただけだったな」
「お兄ちゃん帰ろう!」
「穴埋めてからな土砂の雨!」
血を入れた穴を魔法で埋め戻して籠を背負う。
数ミリ程度の小石から握りこぶし大の石までを自由に出せる便利魔法だ。
一応小石のみを出そうと調整しているが、まだ熟練してないので大きめの石も混じって砂利状態だがまぁいいだろう。
罠の放置は禁止されてるんだよな。
きっちり穴を埋め戻してから籠を背負う。
「っと結構重いな」
「お兄ちゃんガンバ!」
ガンバ! と言いながらエリナはいつものように俺の腕に抱き着いてくる。
うーん、たまたま待ち伏せしてた付近を通りかかったから良かったけど、何か引き寄せる方法を考えないとな。
あと俺がどうすれば活躍できるか考えないと。




