狩りの成果 <エリナさんの解説コーナー サルノコシカケ編>
「お兄ちゃんのヘタレ」
ビビりながら門を通過した俺にエリナがまた反抗期の態度をとる。
「もう防具屋以外では平気だし!」
「お兄ちゃんのヘタレ問題は置いておくとしてどうするの? ごはんにするなら一旦孤児院に戻る?」
「あいつらがちゃんと昼飯とおやつを残してあるか確認したいところではあるけれど、まずは薬剤師ギルドでサルノコシカケを査定してもらおう」
「そうだね!」
門からすぐ側の薬剤師ギルドに向かう。
あ、ホーンラビットはどうしようか。
もう血も出てないし持ったままでも別に構わないか。
売れるかもしれないし。逡巡したが、構わず扉を開け中に入る。
「いらっしゃいませ。あ、今朝方いらっしゃった方ですね」
「サルノコシカケを採取して来たんだが、薬剤師ギルドではいくらで買い取ってくれるんだ?」
ごとりと一メートルはあるサルノコシカケをカウンターに置く。
「これは……珍しいサイズですね。少々お待ちいただけますか?」
「あと葛とこのホーンラビットは売れそうか?」
「葛は買取できます。葛根は加工してしまうと混ぜ物がされる場合があるので、ギルド員以外からは買取できません、葛花は加工品も買取可能ですが、一株分から取れる分だと少量の為どうしても少額になってしまいますね、未加工品との買取価格の差はそれほど無いと思います、葛葉はそのまま薬になりますので加工の必要が無く、そのまま買取に出された方が良いと思います。それとホーンラビットの買取はしておりません。角や肝など薬になる部位はあるのですが、ギルド員か専門業者からの買取限定になっておりますので」
「じゃあ葛の査定も頼む」
「かしこまりました。五分ほどで戻りますので少々お待ちください」
事務員がサルノコシカケと葛を抱えて裏に引っ込む。
「お兄ちゃんいくらになるかなー?」
「冒険者ギルドのサルノコシカケの買取価格は、国の補助があって色がついてるんだよな。十キロだったとしても銀貨十枚以下とかそんなもんじゃないか? 葛はどうだろうな? 想像がつかない。葛根って俺のいた世界でもわりとポピュラーな薬だったしそんなに高い金額はつかないんじゃないか?」
「それでも一日で銀貨十枚ってすごいよね!」
「採取だけでも孤児院運営できるよな。まぁ今回はサルノコシカケを偶然見つけられたって幸運があったけど。ただ季節によって採取できる薬草も変わるし、安定して採取出来ないと意味が無いし、色々売れそうな物を探さないとな」
「お兄ちゃん私頑張るよ!」
「期待してるぞエリナ」
「うん! 任せて!」
エリナと話していると事務員が戻ってくる。
「お待たせいたしました。査定が終了しまして、サルノコシカケは銀貨四十枚、葛は銀貨一枚になります」
「えっ!」
エリナが口に手を当ててびっくりしてる。
「このサイズの葛は本来は半額以下なのですが、時期が早く在庫が少ない為、価格に色を付けさせて頂きました。またサルノコシカケは十二キロと希少なサイズの為、高額の査定をさせて頂きました」
「おおう、結構するのな」
「もしこのまま買い取りさせて頂ければ、総額銀貨四十一枚の所を銀貨四十二枚で買取させていただきます」
「わかった。買取を頼む」
「ありがとうございます。では登録証をお願いします」
薬剤師ギルドの緑色の登録証が俺の登録証にかざされる。
買取の本人確認かなと思っていると、銀貨十枚の山が四つと銀貨二枚が俺の前に置かれる。
エリナはまだびっくりしたままだ。
「冒険者ギルドでサルノコシカケは、国の補助込みで一グラム一銅貨という買取価格だったんだが、薬剤師ギルドの方が買取価格は高いのか?」
「いえ、グラム単位の買取価格ですと、こちらでは十グラム銅貨八枚になるのですが、今回は単一で形も良く、あのサイズですので高額査定になりました。形にもよりますが、大体二十センチを超えるサイズになりますとこちらで買取させていただく方が高額になるかと思います。逆に数センチの小さなものを大量に持ち込むのでしたら冒険者ギルドの方が総額では高くなるかと思います」
「そうなんだ、わかった。これからも世話になると思うがよろしく頼む」
「こちらこそありがとうございました。是非またお立ち寄りください」
びっくりしたままのエリナを連れて外に出る。
予想通り外に出た途端エリナが騒ぎ出す。
「お兄ちゃん! すごいよ! 銀貨四十二枚だよ! 四十二枚!」
「すごいよな、二つともエリナが見つけたんだぞ」
「お兄ちゃんと一緒だから見つけられたんだよ」
「いやいや、俺なんて何もしてないって。エリナのお手柄だよ」
「じゃあさっきも言った通り二人で頑張ったからって事にしようよ!」
「うーん、なんか納得いかないけどそうするか」
「うん!」
「このまま市場に行って買い物したいんだが、先ずは鍛冶ギルドや木工ギルドで蒸気機関やらの情報を売れるか確認したら、遠回りになるけど冒険者ギルドに行ってホーンラビット売って、一旦孤児院に戻って飯食うついでにヨモギを婆さんに渡すか。籠もいっぱいだから食材も入れられないし、胸甲も武器も外したい」
「そうだね! 賛成!」
「よし、じゃあそうするか」
鍛冶ギルドや木工ギルドに前世の知識を持ち込んで聞いてみると、既に俺の持ち込んだ技術は伝わっているらしい。
ただし、実際に試作品なり製品化してるかというと、低コストな魔法技術で代替が可能だからと、研究段階のままの技術が多いそうだ。
火薬や銃などは実際に王都で売られているらしいが、コストの割りには魔法より威力も射程も低く、主に軍隊で流通している程度のようだ。
薬剤師ギルドと同じように、低コストで大量生産出来て、より効率的なものが出来る知識であれば是非買い取りたいとの事だったが、そこまでの情報は無いし、いきなり応用技術だけ持ち込んでも、基礎技術が未だ未成熟な以上どうしようもなかった。
紙代損したーとしょんぼりしながら冒険者ギルドへ向かって歩いていく。
ご機嫌な妹は腕にしがみついて離れない。
多分孤児院の為に稼げたのが相当嬉しいのだろう。
給金を全部孤児院に入れるとか言ってた位だしな。
しばらく歩いていくとやっと冒険者ギルドに到着する。
門から十五分くらいか。
扉を開けて中に入るとまずは酔っ払いがいないかを確認する。
何人か飲んでるが、あのおっさんではないようだと安心して足を踏み入れ、受付まで歩いていく。
「いらっしゃいませ」
「ホーンラビットを狩ってきたんだが査定を頼む」
「かしこまりました。血抜きはしっかりされてるようですね、この傷跡なら高く買い取れますよ」
俺からホーンラビットを受け取った事務員は、自身の後ろに置いてある体重計のようなもので重さをはかり、再びこちらに戻ってくる。
「傷が殆どない十四キロのホーンラビットで銀貨三枚と銅貨六百枚になります。魔石はどうされますか? 魔石を抜く場合は銀貨二枚になりますが」
「魔石?」
「魔道具に使うものです。魔道具のランタンの中に魔石を入れると、魔力や燃料を消費することなく周囲を照らせるといった感じですね」
「電池みたいなものか。エリナ、うちに魔道具ってあったっけ?」
「無いよ。高いし、院長先生が魔法を使えるしね」
「じゃあ要らないか。そのまま買い取ってくれ」
「かしこまりました」
カウンターに置かれた硬貨を受け取り、冒険者ギルドから出る。
良かった、今日は絡まれなかった。
「お兄ちゃん、今日は凄くお金を稼げたね!」
「びっくりだな、でも本命のヨモギ抜きの稼ぎだし、たまたま見つけただけだから安定収入って訳にはいかないけどな。ただヨモギは百株以上採取できたから、これが仮に全部上質の干したヨモギになれば銀貨三枚以上になる。これだけでも稼ぎとしては十分なんだよな」
「すごいね!」
「そのまま冒険者ギルドにヨモギを売ると銀貨一枚だから、孤児院の運営費には足りないんだよな。個人で生活する分には良いんだろうけど」
「……孤児院にお金が入ってくるようになっても、お兄ちゃんはどこにも行かないよね?」
「カルルが大人になるまでは最低でも居たいけど、できればずっと居たいと思ってるぞ」
「ずっと! ずっと一緒だからね!」
「ああ、わかった。ずっとだな。ありがとうなエリナ」
「うん!」
えへへーとまた俺の腕に絡みついてきて、孤児院に向かう。
あいつらちゃんと昼飯とおやつを残してるのだろうか。




