土建屋岩谷。
「取り敢えず勇者達にスキルを返し終わりました。」
「そうですか。度々ご苦労をお掛けします。」
「いいえ、これは俺自身が勝手に決めた事ですから、礼には及びません。」
浩二の言葉に苦笑いを浮かべるリリィ。
彼女にしてみれば浩二に対して借りしか無いのだ。
当の浩二は全くそんな事は気にしてなどいないが。
女神様の助言により、予想よりも早くスキルを返し終えた浩二は、その報告と…気になっていた事を聞くために城の玉座の間に来ていた。
「それで…王女様…訓練所の城壁に空いた穴はまだ…」
「…言わないで下さい…情けなくなります…」
先程勇者にスキルを返していた時から気にはなって居たが、半月経った未だにあの時空けた穴がポッカリと口を開けていたのだ。
そう、浩二がリッチーへと放ったレーザーの様な攻撃で空いてしまった直径2m程の穴だ。
「リリィ、だから浩二に頼めばいいって言ったろ?」
「スミスっ!此処では王女と呼べと言ったじゃありませんかっ!」
「コージ以外誰も居ないんだから良いじゃねーか。」
「ダメです!それでは示しが付きません!」
「あのー…その穴は俺が開けたものですし…俺が塞ぐのが当然かと…」
何やら痴話喧嘩臭い雰囲気を感じたのでその場から去りたい一心で提案してみる。
「しかし…これ以上ご迷惑をおかけする訳には…」
「いやいやいや、アレは完全に俺のミスです。もし俺が直す事で土木関係の仕事を奪ってしまわないのであれば、俺にやらせて下さい。」
「…正直な所、城門の修復で手一杯でそちらにまで手が回っていないのが現状ですが…」
「あー…そっちも完全に俺の八つ当たりの結果でして…すみません。」
もう、申し訳なくて仕方の無い浩二。
これ以上迷惑をかけられないと遠慮するリリィ。
全く話が進まなくなって来た。
すると、スミスがやれやれと頭を掻きながら口を挟んできた。
「あのなぁ…お前ら二人して譲り合ってたら話が進まんだろうが!コージ、訓練所の外壁工事お願い出来るか?」
「はい、今すぐにでも。」
「なら頼む。城門の方は城下の土建屋に外注しちまってるからそっちは任せてくれ。」
「分かりました。それじゃ早速行ってきます。」
「あぁ、頼んだ。すまないな。」
「いいえ、自分で蒔いた種ですし。それじゃ!」
浩二は立ち上がり王女に一礼をすると身を翻し訓練所へと走り去ってしまった。
「スミスっ!何を勝手に…っ!」
「あのなぁ、リリィ。アイツの性格考えたらこれが一番無難な方法なんだよ。コージは人族の仕事を奪っちまう事まで考えて言ってるんだ、なら、まだ先の決まってない仕事なら任せても良いだろ?」
「でも…これ以上彼に迷惑をかける訳には…」
「アイツは迷惑だなんてこれっぽっちも思ってねーよ。寧ろ喜んでるんじゃねーかな?」
「…そうでしょうか…?」
「あぁ、だから気にすんな。リリィはもう少し周りを頼った方が良い。そんなんじゃ、先が続かないぞ?」
「…分かってはいるんですが…性格ですから。」
「まぁ、そうだよな。だからこうやって俺が補助してるんだが。」
「…ありがとう…スミス。」
「良いって。気にすんな。」
「…はい。」
リリィはスミスを…この兄のような存在を見つめ笑顔を向けた。
□■□■
「さて…まずは材料だな。」
訓練所に着いた浩二は穴の前で腕を組み呟く。
綺麗に消滅した為か、穴の空いた壁の周りには破片すら転がっていない。
厚さ1m程の壁を塞ぐとなると、訓練所の土を使うわけにも行かない。
なら、何処からか調達して来なくてはならない。
「んー…石切場って何処にあるんだろ?」
穴の前で腕を組んで唸っていると、不意に後ろから声が掛かる。
「久しぶりだな。どうした?穴の前でウンウン唸って。」
声を掛けてきたのは、浩二が地下牢に居た頃訓練所へと案内してくれていた兵士のうちの一人だった。
「あぁ、お久しぶりです。えーと、この穴を塞ぐのに石材が欲しいんですが、石切場の場所って分かります?」
「塞ぐって…お前一人でか?」
「はい。材料さえあればすぐにでも終わるんですが…」
「本気で言ってるのか…?」
「はい、本気も本気です。」
「そ、そうか。石切場なら城門を抜けて真っ直ぐ道なりに5kmぐらい行った場所にある筈だが…」
「ありがとうございます!それじゃ行ってきます!」
「ちょっと待てっ!」
早速走り出そうとした浩二を兵士が止める。
「はい?どうしました?」
「いやいや、何にも持たずに行っても石材は貰えないぞ?…誰かに頼まれたのか?」
「はい、スミスさんに。」
「そうか、なら大丈夫だな。ちょっと待ってろ、今書類書いてやるから。」
「分かりました。何か…すみません…色々と。」
「気にすんな。さっさと直さないといつ魔物が入って来るか分からんしな。直して貰えるならこっちも助かる。少し待っててくれ。」
そう言って兵士は足早に城へと走って行った。
待つこと半時程、兵士が小さな木箱のような物を持って帰って来た。
「待たせたな。書類は既に作成済みだったから作るのは手形だけだったから楽だったよ。ほら、この手形と書類を石切場の職員に見せれば石材を分けて貰える筈だ。」
「ありがとうございます。面倒をお掛けしました。」
「いやいや、良いって。それより、頑張れよ。」
「はい。それじゃ、行ってきます。」
浩二は今度こそ石切場に向かい走り出した。
□■□■
修理中の城門を抜け、走る事数分。
浩二は石切場前の門の前に居た。
途中何度か石材を積んだ馬車とすれ違ったが、浩二の走るスピードに驚き御者が目を見開いていたのだが。
浩二は早速木造の簡素な作りの門の傍に居る兵士に手形と書類を見せると、簡単に通して貰えた…が、
「石切場にいる職人にこれを見せれば石材は貰えるが…お前どうやってこの量を運ぶ気だ?」
そう、浩二は手ぶらでここまで走って来た。
本来は馬車で運ぶ物なので空馬車も一緒に来るのが普通だ。
「あー…多分大丈夫です。素手で運びますから。」
「はぁ?」
「いや、だから素手で…」
「いやいやいや、何tあると思ってるんだよ!」
「分かりませんが、大丈夫です。」
「……そうか…まぁ、良い。頑張れよ。」
頭の弱い子を見るような目で浩二を見た兵士は空返事のように言葉を返すと詰所へと戻って行ってしまった。
「……よし、行くか。」
なんとも釈然としない感じだが、気を取り直して浩二は石切場へと向かった。
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