人族の国。
ナオがマシナリーに生まれ変わり訓練を始めて半月程。
その動きは目に見えて変わっていた。
「行くよーっ!ナオちゃん!」
「うん!」
夥しい数の青い火の玉を頭上に浮かべた蓮がナオを指差した瞬間、火球が一斉にナオへと殺到する。
しかしナオはその場を動かない。
ただゆっくりと両手を前に出し油断なく構えている。
そして数秒と経たずにナオの元へと到着した青い火の玉。
ナオは酷くゆっくりした動きでそれ等を全て手刀で叩き落とす。
次から次へとその赤く輝き尾を引く手刀で。
不意にナオの耳がピクッと動く。
次の瞬間、両足を大きく開き地面ギリギリの位置で伏せる。
その直後ナオの頭上で青い火の玉と透明感のある青い棘のようなものがぶつかり合っていた。
「何で今のを避けられるのよっ!」
死角からナオを狙っていた麗子が不意打ちのアイスニードルを避けられ苛立ちを顕にする。
「飛んでくる音が聴こえたよ?」
何の感慨もなく言い放ったナオが両耳をピクピクさせる。
そして伏せたまま身体を捻ると両手を地面につけ、大きく開いた脚で残りの火の玉と氷の棘を全て蹴り落とす。
その脚もまた赤く輝き尾を引いていた。
「あのねぇ…普通は聴こえてからじゃ避けられないのっ!」
「まぁまぁ麗子ちゃん、ほら、ナオちゃんだし。」
「全く…アンタとアンタの主人はどうなってんのよ。」
「へへへー♪」
「褒めてない!」
「あ…はは…」
最早、ナオの訓練では無く蓮と麗子の訓練になっていた。
「浩二…早く帰って来ないかな…」
「今人族の国だっけ?アイツもお人好しよね…何もわざわざスキル返しに行かなくても良いのに。」
「でも、それがお兄さんでしょ?」
「う…まぁ、ね。」
「浩二はすっごく優しいよ!」
「…知ってるわよ。」
ぶっきら棒にそう言った麗子は空を見上げる。
その先にある人族領を見ているかのように。
その頃、噂の浩二はと言うと…
「あー…どうしようかなぁ…」
何やら悩んでいた。
□■□■
毎度お馴染み人族の城の訓練所。
目の前には27人の勇者が座っている。
舞、蓮、栞、猛、麗子の5人と死んだ5人と結城を引いた残りの勇者達だ。
元々浩二とナオは人数合わせで連れて来られたので、今居る27人で全員だ。
「えーと、王女様から聞いているとは思うけど、今から君達が結城に奪われたスキルを返そうと思う。」
浩二の言葉を聞いてざわめき出す勇者達。
話は聞いていたとはいえ半信半疑だったのだろう。
「んじゃ、一人ずつこっちに来てくれるかな?する事は盗られたスキルを聞いて肩を叩いてスキルを返すだけだからすぐに終わるよ。」
「それじゃ!俺からっ!」
1人の勇者が即立ち上がり浩二の元へと駆け寄って来る。
それを機に一斉に浩二へと詰め掛ける勇者達。
「ちょっ!落ち着けって、ちゃんと返すから!」
「俺、火魔法っ!」
「俺、パワースラストっ!」
「私土魔法っ!」
「俺も土魔法だぞ!」
ん?今同じ魔法を欲しがった奴がいたな。
…まさか…
浩二は自分のスキル一覧を見て結城から奪ったスキルの数を確認する。
1、2、3…
16種類しかないぞ…?
ひょっとして…
同じスキルを『強奪』したら…上書きされるのか…?
何でこんな事に気付かなかったんだ…結城から取り返した時に気付けよ俺…
毎日サキュバス領の結城の元へと足繁く通い、取り返し続けたスキル。
途中から完全に作業になっていた事は確かだが…
浩二は頭を抱える。
とりあえず正直に話そう。
まずはどのスキルがダブっているかを確認しないとな。
「えーと、今から皆に奪われたスキルを聞いていく。一人づつ教えてくれ。」
で、これがそのスキル一覧だ。
『MP自動回復』×1
『HP自動回復』×1
『パワースラッシュ』×4
『パワースラスト』×2
『忍び足』×1
『跳躍』×1
『居合』×1
『料理』×1
『裁縫』×1
『耐熱』×1
『耐寒』×1
『火魔法』×5
『水魔法』×3
『土魔法』×2
『風魔法』×1
『鑑定』×1
となった訳だが…
魔法とか超ダブってんじゃん…
で、冒頭の台詞に戻る訳だが…
《困ってるみたいだね。》
どうしようか悩んでいると、頭に女神様の声が響く。
《あぁ、女神様…はい、困ってると言いますか…正直面倒臭いです。》
《ははっ、本当に正直だね。なら、女神の加護らしく私から助言しよう。まずは勇者の人数分魔核を用意しなさい。》
《魔核を?》
《そう。それから、その魔核に勇者へと返すスキルをLV最大値で転写するんだ。そして、まずはダブっていないスキル返す。それからダブったスキルを返し、魔核から君が『掠奪』でスキルを奪いまた返す。》
《おお…っ!》
《『掠奪』の条件は一日一人につき一回。魔核を複数用意するのはこの条件を満たすためさ。最終的には魔核全てから君が『掠奪』でスキルを取り返せば全て元通りだ。どうだい?》
《…正直、女神様を見直しました。》
《そ、そうかい?》
《はい。実際俺の頭にあったプランは返せるスキルを全て返した後、見習いでダブったスキルを覚えてレベルMAXまで上げてから返してまた見習いで覚えて…って繰り返すつもりでしたから…》
《…それはまた…気の遠くなる話だね…》
《なので、本当に助かりました。ありがとうございます!》
《良いんだよ。君の役に立てて私も嬉しいよ。》
それじゃ、早速…
浩二は魔核を16個作り出すと、ダブっているスキルを転写し始めた。
《ん?魔核が少ない様だけど…?》
《いいえ、これで良い筈です。ダブっているスキルと俺の元から持っていたスキルと被るやつ以外は必要ありませんから。》
《…なんだ…気付いていたんだね。》
《ははは…そりゃそうですよ。》
この女神様は何故か俺のスキルを増やしたがるからな。
有難いけど…無償で手に入っても正直喜べない。
《…全く君は。あれだけの労力を費したんだから、その位は報酬の内じゃないのかい?》
《…すみません…面倒臭い性格でして。》
《まぁ、君がそれで良いなら良いさ。》
《はい。欲しいスキルがあれば正直にお願いして見習いさせてもらいますから。》
《ふふっ、本当に君は損な性格をしてるよ。それじゃ、またね。》
《はい。ありがとうございました。》
ふう。とりあえずこれで勇者にスキルを返すって作業は何とかなりそうだな。
読んでいただきありがとうございます。




