無茶をする理由。
突然放たれた剣はナオを貫き完全に浩二の心臓をも貫いていた。
「ぐ…っ…」
片膝を付き、倒れそうになるも身体に力を入れ耐える。
今倒れては…ナオを守れない、その一心で。
完全に油断していた。
ナオとの会話以外全く気に留めていなかった。
〔浩二ぃ…ゴメンね…また…〕
ナオが泣きそうな声で謝ってくる。
自分だって痛いだろうに。
「大丈夫だよ…ナオ。それよりナオは大丈夫か?」
〔ははっ…駄目みたい…嫌だよぉ…浩二ぃ…〕
「…ナオ?」
〔…浩二ぃ…もっといっぱい話したかったよぉ…一緒に居たかったよぉ…〕
声だけで分かる。
泣いているのが分かる。
ゴッ!
浩二は自らを殴り、薄れそうになる意識を繋ぎ止める。
「ナオ。よく聞いてくれ。」
〔…うん。〕
「ナオは俺に魂を預ける覚悟はあるか?」
〔…今更そんな質問必要ないよ…私は浩二を信じてるもん。何をされても平気だよ。〕
「…分かった。暫くお別れだ。でも、直ぐに会えるさ。」
〔…うん。楽しみにしてるね。〕
「あぁ、それじゃ…おやすみ。」
〔…うん。…おやすみ…浩二、大好き。〕
ナオの最後の言葉を聞いた浩二は、作り出した魔核をナオに近付ける。
するとナオの身体全体が淡く光出し、その光が魔核へと吸い込まれてゆく。
全ての光を吸い終えた魔核を浩二は優しく握る。
「待ってろよ…ナオ。」
掌の中の魔核に話し掛けると、一度だけ魔核の光が瞬いた気がした。
不意にグラつく浩二。
力一杯地面を踏み締め耐えると、ナオを押さえ一気に剣を抜き取る。
噴き出す血などお構い無しにすぐ様魔核を作り出すと、胸に空いた大穴に無造作に放り込む。
無事に壊れた心臓に届いたのだろう、浩二の胸から青い光が溢れ出しやがて静かに脈動を始めた。
「ふう…何とか間に合った…かな?」
明らかな失血状態にも関わらず、強がる様に口にする浩二。
そのままこちらを指差し口をパクパクさせているソフィアに向かい歩き出す。
「コージっ!大丈夫なの!?」
「んー…大丈夫…かな?…はは…」
フラつきながら話す浩二に肩を貸すソフィア。
「全然大丈夫じゃ無いじゃない…全く。」
「それよりソフィア…ナオを預かってくれないか?」
そう言ってナオの亡骸と魂が宿る魔核をソフィアに手渡す。
ソフィアはそれ等を大切そうに受け取ると、浩二の顔を見て話し掛ける。
「ナオとは話せたの?」
「あぁ、ちゃんと話したよ。」
「そう。なら良いわ。」
「それじゃ…仕留めて来るわ。」
「…大丈夫なの?」
「これ位ならハンデにもならないさ。」
明らかな強がりだと分かっている。
でも、きっと止まらないだろう。
だから…
「早く帰ってご飯にしましょ。」
ソフィアはそう言って送り出す。
不意にそのソフィアの横を通り過ぎ浩二を後ろから抱き締める人物がいた。
「もう…無茶ばっかりするんだから…少しじっとしててね?」
前の様に色々押し付けるような抱き締め方では無く、柔らかく包み込む様に浩二を抱き締めたミラルダは自分ごと包み込む様に紫の靄を作り出す。
やがて徐々にではあるが、浩二の生命力が回復し始める。
元より自己回復力の高い浩二だ、相乗効果でみるみる回復してゆく。
「あぁ、ミラルダさんって良い匂いだなぁ…」
「何を言ってるのよ…馬鹿ね…」
あぁ、やっぱりこのミラルダさんも良いかも。
等と思っていると…
「…私も何か回復手段が欲しいわね…」
幸せそうな浩二をジト目で見てソフィアが何やら企んでいるようだった。
数分後三割程回復した辺りでミラルダさんがギブアップした。
浩二から離れる際、耳元で
「またコージ君の…ご馳走してね?」
と囁き、軽くウインクまでしてくる。
不覚にもドキドキしてしまった…
もしかして…ミラルダさんの本来の姿ってこっちなんじゃなかろうか。
さて、そろそろ終わらせよう。
浩二がリッチーのいる場所を見ると、既に杭は消えており身体を幾分薄くさせたリッチーが立ち上がりこちらを睨んでいた。
〈回復は済んだようだな。〉
「黙って待ってるなんて、随分紳士的じゃないか。まぁ、不意討ちで心臓を潰されたけどな。」
〈ふん。事も無げに立ち上がっておいて良く言う。〉
「そっちは準備は済んだのか?」
〈…我は既に虫の息よ。先程の不意討ちで仕留められなかった段階で勝負はついておるわ。〉
「でも、やるんだろ?」
〈当然だ。ここで引いては最上位種の名折れよ。我の存在を全て賭けてでも一矢報いてくれる。〉
意外と紳士的で驚いた。
最初からこうやって挑んで貰えたら…
「…初めからこうやって戦ってれば…」
〈それは無意味な問答よ。我は我のしたい様に事を成そうとした。貴様がそれを止めた。だから今があるのだよ。〉
「…だな。」
〈…最後に貴様…いや、貴殿の名を聞きたい。〉
「俺は浩二。岩谷浩二だ。」
〈なんと!勇者であったか…いやはや二度も勇者に阻まれるとは…最早こうなる運命だったのかもしれんな…〉
「勇者じゃない。俺はドワーフだ。」
「ハッハッハ!そうであったな。…では…そろそろ始めようか。」
「あぁ。そうしよう。」
互いの距離は10m程。
最初に動きを見せたのはリッチーの方だった。
一瞬で全身が黒い霧へと姿を変え、最早人の姿など欠けらも無い。
そしてその霧が一気に収束する。
そこにあったのは、先程浩二を貫いた一本の剣。
しかし、放つ禍々しさが桁違いであった。
「へぇ…いかにも精神体らしい戦い方だな。」
「フフ…貴殿にダメージを与えうる手段はもうそれ程残されていないからな。これならば…貫ける!」
「成程な…なら俺も正面から受け止めよう。」
そう言って浩二は半身に構える。
浩二が最も得意で…最も信頼出来る型だ。
そして…そのままゆっくりと気を練り始めた。
今浩二に残された精神力も生命力も既に三割を切っている。
それ等を全て掻き集め、丹田にて練り上げる。
全てを込めて迎え撃つ為に。
読んでいただきありがとうございます。




