作戦。
「浩二っ!アンタ猛に何か渡したわねっ!」
開幕爆撃で猛を仕留められなかった事に苛立ちながら麗子が浩二に食いつく。
確かに普段の猛なら、爆炎から飛び出した時点でアウトだっただろう。
「あぁ、『瞬動』を使えるようにしたよ。」
「狡いわよっ!」
いやいや、あのままじゃ嬲り殺しだろうが。
「私にも寄越しなさいよ!」
そっちかよ。
「このゲームが終わったら…なっ!」
麗子とシルビアの放つ魔法を危なげなく躱しながら答える。
「シルビアさん、やっぱりコージが何か仕込んでましたよ。」
「瞬動は厄介ね…まぁ、見た感じ全然使いこなせて無いみたいだったけど。」
「どうします?」
「作戦に変更は無しよ。先ず猛、次にシュナイダー。コージとナオは取り敢えず捨て置いて。あの二人はながら作業じゃ絶対無理よ。ミラルダっ!そろそろ真面目にやりなさい!」
「分かったわよぉ。」
戦況を黙って見ていたミラルダを叱るシルビア。
浩二以外に大した興味の無いミラルダは先程まで作り出していた竜巻の様なものを左腕に纏わせる。
「今から猛君の動きが止まるはずだからぁ、ちゃんと狙うのよぉ?」
そう言ったミラルダは竜巻を纏わせた左手を猛に向ける。
ちょうど蓮の爆撃を慣れない瞬動で避けた直後だった猛の右足が見えない何かに掴まれる。
「何だ!?」
「はぁい♪捕まえたぁ♪」
「ナイスよ!ミラルダっ!」
見えない何かを振り払おうとしていた猛の土手っ腹にシルビアのウィンドカッターが綺麗に入る。
「ぐぼぁ!」
「猛!アウトよ!」
冷静にジャッジするソフィア。
少しは心配してあげて欲しい。
そして、蹲る猛が右足を何かに掴まれたまま線の外へズルズルと引き摺られてゆく。
何だか…悪い夢を見ている様な光景だ。
「はぁい♪一人目ぇ♪」
その見えない何かはミラルダの左手に繋がっており、足元まで引き摺られ来た猛ににこやかに笑いかける。
「相変わらずえげつないわね…それ。」
「だってぇ、殺しちゃったら食べられないじゃなぁい♪」
『エアバインド』
本来は風で作られた見えない縄で相手を捕縛する魔法だ。
ミラルダの場合は遠隔操作出来る風の手の様だが。
一度捕まれば簡単には振り解けず、捕食者の元へと引き摺られてゆく。
複数同時に作り出すことも可能な様だが、その場合は一本の手の強度が落ちてしまうらしい。
魔力値が高い者には見えるらしく、シルビアはその手を見て苦い顔をする。
同じく麗子も若干引いている。
確かに生きていなければ生命力を吸う事は出来ないが…
生きたまま引き摺られてゆくと言う絵面が何とも言えない。
何はともあれ開始数分で脱落者が出てしまった。
「次はシュナイダーね。ミラルダ、ソレまだ使える?」
「使えるわよぉ?その為にぃ、コレ♪持って来たんだからぁ♪」
輝く珠を摘み上げてシルビアへと見せた後、ヒョイと口へと放り込む。
「ん~~っ♪おいひいわぁ♪くひの中いっはいにこーひ君の味がひろがっへぇ♪」
「口の中に物を入れて喋るのは止めなさい。」
口の中で飴玉のように浩二謹製生命力の魔核を舌で転がしながらウットリとした表情で卑猥な物言いをするミラルダ。
魔核が口に入っているせいで上手く喋られない様だが…それすら計算に感じてしまう。
少し顔を赤らめ、瞳は潤み、口からは甘い吐息が漏れている。
しかし、その身体からは立ち上る程に生命力が溢れていた。
言ってしまえはドーピングみたいなものなのだろう。
「いふでもいへるわよぉ~♪」
「…締まらないわねぇ…まぁ、良いわ。狙うはシュナイダーよ!」
「はぁい♪」
そう口にした直後、ミラルダの両手にあの竜巻の様なものが纒わり付く。
心做しか先程よりも密度が高い気がする。
そのまま腕を広げ、ゆっくり前へと…シュナイダーの方へと向けられる両手。
「ちっ!」
何かに蹴りを入れたシュナイダーは素早くその場から移動を開始する。
「にがはないはよぉ~♪」
「くそっ!」
瞬動を使いその場を離れようとしたシュナイダーの左足が後ろへと強い力で引き戻される。
続け様に右手までもが逆方向に引っ張られる。
風の手が見えない人から見れば、意味の分からない体勢でもがいているようにしか見えないだろうが…
「うわぁ…」
ハッキリ見えている浩二の口からはそんな声が漏れる。
早くも二人目の犠牲者かと思われたその時、シュナイダーがその場で体を捻り物凄い回転を始めた。
土煙がまるで竜巻のように見える程の回転が終わる頃、仕留める為に放たれたアイスニードルが空を切る。
そして、いつの間にか離れた場所で荒い息を吐きながら肩を揺らすシュナイダーの姿が。
「はぁ…はぁ…危なかった…」
「やるなぁ…シュナイダーさん。」
自らを高速回転させ、風の手を引きちぎったのだ。
アイスニードルが当たる寸前に振り解けたようで、ギリギリのタイミングで瞬動を使い逃げる事に成功した。
「…あったま来た…もう一撃必死なんて止めたわっ!」
そんなシュナイダーの元へと殺到する夥しい数のアイスニードル。
最早当てる気が無いのではないかと思われる程辺り一面に降り注ぐ。
麗子は一度ならず二度までも狙い撃ちを外され相当頭に来たようだ。
「くっ…!」
荒い息のまま再び瞬動を使おうとしたシュナイダーの周りには、最早逃げ場など無い程のアイスニードルの壁が出来上がっていた。
それでも浩二の忠告通りに一点突破したシュナイダーを待っていたのは新たなるアイスニードルの壁だった。
「…嘘だろ!?」
「…あぁ、俺早めにアウトになって良かった。」
針の壁を目の前にしたシュナイダーとミラルダの横で土まみれで胡座をかく猛の声が重なる。
次の瞬間、シュナイダーは無数の針に襲われる。
最早逃げ場はなく、ただ目の前に腕をクロスさせ嵐が通り過ぎるのを待つしかなかった。
「シュナイダー、アウトよ!」
「くそっ!あんなのどうやって躱せと…」
悔しそうに自らの足で白線を横切るシュナイダー。
その元へと走り寄る舞。
「今回復しますね!」
「あぁ、済まない。」
アイスニードルは殺傷能力は低いが、あれだけの数を受ければ話は別だ。
身体中から少なくない量の血が滲んでいる。
その身体を包み込む金色の淡い光。
みるみる傷は塞がり、数分と経たずに全快してしまった。
「まだ何処か痛みますか?」
「いや、問題ない様だ。ありがとう、君は優秀な治癒術師だな。」
「そんな…この杖のお陰です。」
純白の杖を大切そうに抱え照れ臭そうに笑う舞。
「その杖もコージ君が?」
「はい。」
「…そうか。」
そう言ってシュナイダーはその場に座り込む。
「さて、それじゃ、そのコージ君の御手並み拝見と行こうか。」
シュナイダーは残された浩二とナオの方へと向き直る。
そろそろ砲台側の小手調べも終わる頃だろうと頭の隅で呟きながら。
読んでいただきありがとうございます。




