魔法談義。
「ふふっ、さっき迄とは顔付きが全然違うね。」
「え?あぁ、顔に出てました?」
「うん。凄く分かりやすくね。」
知らない知識を得られる喜びとか難しい話では無く、単に自分に出来ることが増える事が嬉しいのだ。
26歳とはいえ、ここまでファンタジーな力が得られるかも知れないのだ。
普通の男子ならば当然と言えよう。
「光とか闇、あと重力は何となく想像がつきますが、空間とか時とかはどんな事が出来るのやらワクワクが止まりません。」
「ふふっ、君も男の子だねぇ。」
何故か嬉しそうなシルビア。
「早速ですが、詳しく聞かせてもらえますか?」
「良い食い付きだ。それじゃ、先ずは光と闇だけど…コレは大体分かるか。光属性には闇魔法が闇属性には光魔法が効くのは分かるよね?」
「はい。相反する存在だからですよね?」
「そう。基本同量の力をぶつければ対消滅する。でも気を付けて欲しいのは対消滅後に残る無属性魔素だ。お互いを相殺し合って無属性魔素に変わった後、その魔素が空気中に散る際に軽い爆発を起こす。」
「危ないですね…」
「まぁ、対消滅した物の体積に比例するから、余程大きな存在を対消滅させない限りそれ程心配は要らないよ。…屋外ならね。」
「あぁ、確かに脆い洞窟何かでやらかしたら崩落も有り得ますね。」
「うん。理解が早くて助かる。続いてどんな種類があるかだけど光魔法には光の矢を飛ばすライトアロー、目眩しに使うフラッシュ、辺りを照らすライトの魔法も光魔法だよ。」
ふむ。粗方予想通りのラインナップだ。
「となると…闇魔法は闇の矢を飛ばすダークアロー、目眩しはダークミスト辺りですか?」
「…知ってたの?」
「いいえ、向こう…この世界に来る前の世界でファンタジーと呼ばれるジャンルの中にそんな感じの魔法がありまして…実際魔法自体が存在しませんから完全に創作物ですが。同じ様な物でスモークって魔法もありました。」
「へぇ…そんな世界で想像力を鍛えて来た君がどんな魔法の使い方をするか凄く興味があるよ。それで今言ったスモークなんだけど、実際に存在するよ。但し魔術の方だけどね。」
「魔術?魔法とは違うんですか?」
「うん。魔法は精神力のみで使えるもの。魔術は魔法に道具を合わせて使うものだね。例を言えばさっきのダークミスト、アレは水魔法で水を作り火魔法で蒸発さてその水蒸気に闇魔法で属性を付与した物だ。」
「…って事は、やっぱりスモークは何かを燃やして煙を出しているんですね?」
「ご名答。うん、出来の良い生徒は教えがいがあって良いね。スモークは燃やしても炎は上がらず煙の出やすい物質を粉末にして持ち歩くんだ。使う時に散布して火魔法で着火…って流れだね。こっちの方は粉末に色々混ぜて数種類の効果を出したりするね。催涙とか毒とか。」
魔術の方は何方かと言えば科学に近いな。
発煙筒や催涙ガス何かは正にそのままだし。
「何だか魔術の方は魔道具にしやすい感じですね。」
「そうだね。魔法は魔道具にするとなると魔核の純度に依存しちゃうけど、魔術の方ならば着火するだけなら純度の低い魔核でも良いからね。」
考えてみたら、今迄俺が作った魔道具の性能って自前の魔核があったから出来てたんだな。
ソフィア曰く数個売れば遊んで暮らせるらしいし。
「君の作る魔核。アレは反則だよ…恐らく龍種を倒してもあの純度の魔核は手に入らない。見てないから何とも言えないけど…君が作ったマシナリー達に使った魔核、恐らくまだまだ色々書き込める筈だよ。容量で言えば多分3、40%位しか使われてないんじゃないかな?」
浩二が魔核の事を考えていると当たりをつけたのか、浩二の作る魔核の事を詳しく教えてくれる。
浩二自身、魔道具作りやクリエイトマシナリー等は完全にスキル任せで、意識して魔核の容量等考えた事も無かった。
一度だけ自前の魔核に生命力を限界まで込めた事はあったが…
今の話からするに一体一個の魔核にどれだけの生命力が入っているのやら。
浩二は徐に魔核を一個作り出す。
指で摘んだそれは淡く輝きどこまでも透き通っていた。
「へぇ、それが何も書き込んでいない状態の君の魔核か…見れば見る程怖くなるくらいの純度だね。」
「魔核の事は良く分かりませんがそうみたいですね…あ、この魔核意味も無く作っただけなのでシルビアさんに差し上げます。」
「え!?いいの?貴重な物じゃないの?」
「いえ…こんなことを言ったら価値が下がりそうですが…この位の魔核なら数十個くらいなら苦もなく作れますから、遠慮なんて要りませんよ。それに、面白い話を沢山聞かせてもらいましたし。」
「…君の話を初めて聞いた時は今一脅威を感じなかったけど…こうやって自分の土俵で力を見せられて初めて君の底知れない力を感じているよ。」
浩二から受け取った魔核を掌で転がしながら呟くように口にする。
このレベルの魔核を数十個苦もなく作り出す力。
それが平和ではなく侵略に向けられたら…
果たして自分の力で対抗出来るのだろうか?
唯でさえ『絶対魔法防御』がある時点で八割方自分の力は通用しないのだ。
改めてギルの判断が正しい事に気付く。
恐らく、この世界で暴れ出した彼を止められるのはギルと龍種くらいだろう。
いや…
もしかしたらその両者すらいずれ…
「シルビアさん?」
何やら難しい顔で考え込むシルビアの名を呼ぶ浩二。
自分の世界に入っていたシルビアは浩二の声に気付きビクッ!と過剰反応してしまう。
「…どうかしましたか?」
心配そうにシルビアの事を見詰める浩二。
シルビアはその瞳の中に邪が無いと信じ、自分の考えを包み隠さず話すことにした。
「…急に君が怖くなったんだ。」
「え?」
何の事かと首を傾げる浩二。
「君の力は常軌を逸している。今の段階ではまだまだ知識に偏りがあるせいで本来の力を全て出せてはいないが…その今ですらきっと私の力を超えている。」
「………」
「その力がこの世界の侵略に向けられたら…って考えたら…」
自分を抱きしめるようにして身震いをするシルビア。
下手に頭が良いせいでどんどん悪い事態が予想出来てしまうのだ。
浩二はその姿を見て少し俯くと意を決したようにシルビアに向き直り佇まいを直すと…その口をゆっくり開いた。
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