準備。
「ねぇ、ソフィア?こんなに厳重な結界必要なの?」
小柄なエルフの女の子が何度と無く繰り返していた結界を張る作業に嫌気が差したのか、眉間に皺を寄せながらソフィアに話し掛ける。
彼女はソフィアが浩二達に魔王会議の話をした三日後、エルフ領から今回のメインイベントの準備の為にシュレイド城を訪れていた。
「甘いわシルビア!貴女もうちのお爺様の強さ知ってるでしょ?」
「当然知ってるわ。でも流石にこれだけの結界を破れるとは思えないんだけど…」
「…お爺様一人ならね…」
注意はする。
しかし、まかり間違って浩二が結界に突っ込もうものなら…
どんな強固で厳重な結界であろうと浩二にとっては紙切れ同然なのだ。
彼女は…『魔導の魔王』であるシルビアはそれを知らない。
故にソフィアは必要以上に厳重な対策を施している。
この場で指揮を執る人物で浩二の馬鹿さ加減を知っているのはソフィアだけなのだから。
恐らく祖父と浩二が戦うのはあの訓練所。
ならば訓練所にいくら結界を張っても意味は無い。
だから今城を重点的に結界を張り巡らせている。
もう、二人が戦う事が決まった時点で訓練所を囲む城壁の事は諦めた。
せめて城には被害が及ばない様細心の注意を払わねば。
「その相手のコージっての、そんなにヤバイの?」
「ある意味、相当ヤバイわ。」
「う~ん…今一想像出来ないなぁ…あのギルとそもそも戦いになるの?」
ギルとはソフィアの祖父の名前である。
この小柄なエルフの少女。
何を隠そうソフィアの祖父よりも歳上なのだ。
「そうね…それじゃ、軽くヒントを出すわ。『リッチーを素手で倒した。』と『絶対魔法防御』の持ち主よ。」
最早軽くは無いヒントだ。
まぁ、浩二の今迄して来た事やスキルの数々からすれば軽い部類に入るが…
そして、シルビアの目の色が変わる。
「はぁ!?『絶対魔法防御』!?ならこんな結界なんの意味も無いじゃないっ!」
「知ってるわよそんなの。だからあくまで「予防」よ。コージには口酸っぱく結界には触れるなって言ってあるし、予防策もとらせてるわよ。」
「どんな予防策かは知らないけど、『リッチーを素手で倒す絶対魔法防御持ち』に何をどうすれば良いのよ!」
「やっと貴女も事の重大さを理解してくれたみたいね。」
「…ソフィア。これ…下手をすればシュレイド城が消し飛ぶわよ…?」
「そうね。お爺様もやる気満々だったし。」
「あ”~~っ!それ今一番聞きたくなかったっ!!」
頭を抱えてブンブンと振るシルビア。
その反応を見たソフィアは満足げに笑う。
自分の心労を少しでも理解して頂けたようで嬉しいのだろう。
「ま、壊されたらコージに修理させるわよ。」
「…随分と簡単に言うのね。」
「コージに任せておけば、そのぐらいなら簡単に済ませちゃうわよ。」
「…そいつ…一体何者なのよ。」
浩二と言う存在がどんどん分からなくなるシルビア。
「あ!そうそう、前に言ってたサキュバス領への転移陣。この際だから直しちゃって貰えるかしら?」
「…今、ちょっと別の事をして気を紛らわせたかったから丁度いいわ。…でも、サキュバス領にはどうやって行くの?ミラルダに連絡して来てもらう?」
「あぁ、それなら。」
□■□■
「どう?シルビア。終わった?」
サキュバス領に繋がる転移陣が消失した場所で新たな転移陣を書いていたシルビアの元へある人物を連れたソフィアが帰って来た。
「ええ、こっちの陣は書き終えたわ。後はサキュバス領の方にも転移陣を書けば繋がる筈よ。で?そっちの彼は?」
「あぁ、彼がコージよ。」
「ブーーッ!!ゲホッ!ゲホッ!」
「ちょっと、シルビア!大丈夫!?」
「ゲホッ!…大丈夫じゃないわよっ!連れて来るなら心の準備ぐらいさせなさいよねっ!」
「あぁ、ゴメンね。コージ、今盛大に吹いた彼女が『魔導の魔王』シルビアよ。」
「紹介の仕方っ!貴女絶対わざとね?」
ふふん♪と悪戯が成功して嬉しそうなソフィア。
そんなソフィアを恨めしそうに睨みながら佇まいを直すと、シルビアはスクっと立ち上がり浩二に向かい軽く礼をした。
「私がシルビアよ。変な所を見せてゴメンなさい。」
「いえ、大丈夫ですか?」
「ええ、平気よ。ちょっと驚いて噎せただけだから。」
「えーと、俺…貴女に何かしました?」
「違うわ。ちょっとソフィアから話を聞いてて色々想像してた所だったから。」
それを聞いた浩二はソフィアの方を見ると、彼女はスッと視線を逸らす。
「はぁ…ソフィアが色々すみませんでした。…それじゃ、改めて。俺は岩谷浩二。エルダードワーフで今このシュレイド城で厄介になってます。よろしくお願いしますシルビアさん。」
浩二は丁寧に挨拶をすると軽く頭を下げた。
そして頭を上げた浩二が次に見たシルビアの顔は驚きで固まっていた。
「えーと、シルビアさん?」
「ハッ!ちょっと貴方!今イワタニって言ったわよね?」
「あ、はい。岩谷は俺の名字ですが…?」
固まったまま動かないシルビアに浩二が話し掛けると、我に返った途端捲し立てるように浩二へと問いかける。
そして、その答えを聞いたシルビアは納得したようにやっぱりと頷く。
「ミョージ…という事は貴方人属の勇者なのね?」
突然の勇者という言葉に嫌な事を思い出し苦い顔をする浩二。
しかし、すぐに気を取り直し正直に質問に答える。
「…はい。俺は勇者召喚でこの世界に連れて来られました。でも、何故か種族がドワーフだったのでその場で拘束されて地下牢に放り込まれました。そこでソフィアに助けられてからずっとシュレイド城でお世話になってます。」
「ふぅん…成程ね。まぁ、勇者かどうかなんて些細な問題よ。貴方は多分これから魔王になるんだもの。これからよろしくねコージ。」
「あ、はい。よろしくお願いしますシルビアさん。」
差し出された手を握り握手を交わす二人。
「…ん?コージ…貴方の右手…」
握手をした時に気付いたのだろう、シルビアが浩二の右手をマジマジと観察する。
「あぁ、この右腕は義手なんです。」
ほら、と言って右腕を消して見せる浩二。
そして、再び気を練り右腕を作り出す。
「…私、貴方に興味が出て来たわ。落ち着いたら色々聞かせて頂戴。」
右腕を消して、新たに作り出すその工程を見て興味が湧いたのだろうシルビアが浩二にそう告げる。
「え、あ、はい。俺で良ければ。」
「ふふっ、それじゃ、早速サキュバス領に行きましょうか。」
「あ、はい、分かりました。」
浩二は反応に困りながらも、二人の目の前にサキュバス領へと続くゲートを開いた。
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